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57、十文字タケルの父親

俺たちの姿を焼き付けるように見回すと、タケルの父親が「ふむ」と頷いてみせる。


「タケルがここに来たということは、麗奈ちゃんがついに教えたんだね?」

「教えるつもりはなかったんだよ!でも、タケルと秀頼がサワルナ姉ちゃん連れて来るから」

「行動力高いじゃないかタケル」

「いや、俺は瀬川さんがセレ……麗奈の身内って知らなかったんだよ。全部秀頼が仕組んだんだよ」

「あ、どうも。明智です」


タケルパパに頭を下げる。

幼馴染みの父親に初対面という地味に緊張するシチュエーションだったりする。

当然、弁護士をしているらしいタケルママにも会ったことがない。


「君が秀頼君か。君の話は息子と娘からよく聞かされているよ」

「それはそれは……、不安でしかないけど……」

「子供2人が口を開くと秀頼だの明智君だのうるさくてね。ははっ、困った困った」

「はぁ……」

「ちょっと僕としては、君と2人っきりで話をしてみたいと思っていたんだよ」

「あの……、目が怖いんですけど……」

「なんたって君は理沙と……」

「親父、話し過ぎ……。秀頼貸してやるから部屋から出てってくれ」

「おい、売るなよ!?」


サワルナさんから「いてもいなくてもどっちでも良いんで」と冷たい言葉がトリガーになり、全員から病室から追い出される。

タケルパパが、「君、娘と付き合っているみたいじゃないか」と笑われながら手を置かれて診察室に患者でもないのに引っ張られるのであった。


「いやぁ、君とは始めて会った気がしないよ」

「そう言っていただけると嬉しいですが……」

「あ、そういえば始めてじゃなかったな……。昔、虐待かなんかされてなかった?」

「え?虐待……?」

「むかーし、タケルと同い年の男の子を連れた女性がケガをしたと病院に駆け込んだ記憶があってね。どう見ても人為的なケガなのに女性は『なんでもない!ただ、ケガをした』の一点張りだったっけ。君、あの男の子なんじゃないかな?明智秀頼君、カルテを探せば見付かるかもね」

「違います。それ、俺じゃないです」

「…………あぁ、そう」


反射的に記憶を改竄させようかと思うくらいに心臓を鷲掴みされた気分になる。


「よくそんな昔の話覚えてますね?」

「泣きながらも、いつか人を殺しそうな目をしていた子を忘れようはずもないよ」

「タケルとか理沙に、あんまりそういうの言わないでくださいね?」

「どうして否定しながら口止めをするの?堂々としなよ」

「あんた、おしゃべりですね……。話が長い……」

「よく言われるよ。これは僕の悪い癖なんだ」


それからは30分程度『理沙とはどんな付き合い方をしているか』や、『泣かせたらどうなるか』などの兄のシスコンに並ぶ親バカっぷりを見せ付けてきた。

それでこそ十文字家である。

一応、変な他人の過去のことはもう触れないでいてくれた。


「すいません、瀬川麗奈のことについて情報を知りたいです」

「まぁ、長々とこっちばかり圧を掛けてしまったし少しだけ話しをしようか……」


それとはまた別にセレナのことについて色々と話を聞き出すが、結局打つ手なしでこのままセレナを治す手段はないことを教えられた。

他のセレナの情報で、目新しいものは得られなかった。


タケルパパとの接待が終わる頃には、セレナと初めて会った時のことを思い出していた。

絵美や詠美たちと一緒に会った思い出に懐かしさを覚えていた。

その時に、タケルパパから「僕の子供たちをよろしく」と親友としては認められた言葉を掛けられていたが、俺はハッとしてそのことに頭が入っていかなかった。


「…………すいません、お願いしたいことがあるのですが……」


ふと、俺はタケルパパに1つのお願いを口にしていた。

顔を渋りながらも、俺が必死に懇願すると条件付きでそのお願いを聞いてくれることになり、なんとか頷かせることに成功したのである。




─────





「ただいま……」

「やっと親父に解放されたか……」


タケルパパとの長い説教……、ミーティングを終えてゲッソリしながらセレナの病室に戻ってくる。


「ただいまってここあんたの家じゃないから!」とサワルナさんから煽られるも言い返す元気がなかった。


「十文字先生良い人だけど、話は長いんだよねー」

「わかりみ」

「親父の悪評が息子の俺にまで!」


セレナとサワルナさんがそんなあるあるを笑顔で語っている。

変に真面目な性格はタケルと理沙そっくりだと気付いてしまう。

そろそろ帰ろうとサワルナさんから提案されて、同意をするとみんなが病室から出る準備をする。


「またね、タケル」

「おう。またな……」


何か言いたいことをグッと堪えたタケルが無理に笑ってセレナに手を振る。

俺がいない間、サヨナラの言葉でも言い合っていたかもしれない。


「秀頼もまたね……」

「そうだな……」


嫌われていたのは誤解だったセレナに懐かれたのかな?と、ちょっとだけ考える。

彼女から話しかけられただけで、変な

友情が芽生える。


「サワルナ姉ちゃんの相手は大変かもだけど、悪い人じゃないの」

「わかってる。兄弟姉妹を可愛がる人に悪い人なんていないよ。サワルナさんは本当は優しい人なんでしょ」

「そう!」

「は、はぁぁぁ!?ばっ、馬鹿じゃないの!馬鹿じゃないの!サワルナ!」

「なにも触ってないけど……?」


急に赤くなり発狂するサワルナさんの言葉を否定する。

本当に自分のバッグくらいしか触っていない。


「サワルナの心にサワルナっ!?」

「?」


1番変な人状態になったサワルナさん。

その様子にセレナが「いつもお見舞いありがとう」と声を掛けていた。


「そう思うなら早く目を覚まして退院しなさい!」

「頑張るよ!」

「本当に……、頑張って……」


姉の顔になり、サワルナさんも別れを告げる。

そのままバイバイと声を背中に、病室から出て行き、病院からも出ていく。

それから「サワルナの家はこっちだから……」と告げられ別れる。

タケルと2人っきりになるも、話すような空気にお互いなれずにただ並んで街を歩くだけであった。

気付けばタケルとも別れていて、俺は知らぬ間に自宅へと戻っていた。


「お帰りなさい秀頼」

「ただいま……」


おばさんに声を掛けられながら、俺は非日常から日常へと戻ったかのような不思議な感覚になっていた。

今日、この日は彼女たちと連絡したり、スタチャの動画を観たり、風呂に入ったり、ギャルゲーをしていてもとても身に入らない1日となっていた。

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