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52、明智秀頼は嘆く

学園の生徒たちがガヤガヤと騒いでいる。

廊下の喧騒はとてもうるさいが、しかしそれは平和の象徴でもあった。

そのことをよく知る少女はその偽りの平穏がいつ壊されてしまうのか気が気ではなかった。

もう少しで、ギフトアカデミーが血で染まることをこの学園で誰よりも知っているのだから……。

そして、その焦りとは別に怒りの感情がわき水のように止まらなくなり、やけに心音がうるさいのを必死に堪えていた。


「明日香ちゃんは確かに良い子じゃないし、この後に死ぬ運命だった……。でも、私の友達だった……」


自分が明智秀頼に彼女をけしかけた責任がある。

しかし、まさかあの男が彼女のクラスに人には聞かせられないような彼女の本音が詰まった音声データを流出させて彼女を孤独にさせる卑怯な手を下したことに彼女は心底の怒りと軽蔑をしていた。

そして、すぐそこに明智秀頼が平和そうに歩いている。

自分がやらかしていることの罪悪感なんか一切ないかのような間抜けな顔付きである。

まるで自分は平和にでも守られているとでも言わんばかりな表情は、すぐにでも殺したくなってくる。


「ダメだ……。どうせ失敗する……」


衝動に任せたところで、あの男は常に冷静に対処する。

どんなイレギュラーであろうと、彼は涼しい顔でどんなことも出来る。

彼のギフトはどんなトラブルからも守ってしまう最強のバリアなのだから。

なんなら平気で拳銃を懐に仕舞っている危険人物である。

何も出来ない彼女は、ただ彼を柱の影から睨み付けながらぶつぶつと呟いていた。


「明智秀頼……。私は絶対にお前を──」

「呼んだ?」

「え?」

「ん?」


先ほどまで柱を盾にしていたはずなのに、何故か彼がすぐそこにいた。

え?と疑問が止まらない。

江波明日香を嵌めておいてどんな表情をしているのか、一切彼の真意がわからない。


「えっと……、なんで……?」

「すっげぇぶつぶつ呟いているからさ……。俺の名前呼んでたし。なんか用?」

「な、なにもありません……」

「そう……」


無表情なのがなんとも不気味だと彼女は心臓をバクバクさせていた。

それに彼に認知されてしまうという大失態に気付き、このまま逃げようかと焦り始めた時だった。


「あ!君、1年6組の小林由利亜ちゃんでしょ?」

「っっっ!?なんっ!?」

「なんで知ってるかは聞かないでくれ……。悠久先生との約束なんだ」

「???」


彼女の脳内はこの出来事に対してまったく理解出来ない状態であった。

そもそも、彼が小林由利亜(じぶん)を名前から認知しているなんて予想外も良いところだった。


「とにかく、人の陰口とか悪口は良くないからな」

「っ!?」

「せめて俺のいない時にしなよ」


そう言って、明智秀頼は「やっぱり嫌われてるなぁ……」と悲しそうな嘆きを呟きながら廊下を歩いて行く。

10秒もした頃には背中は消えていた。

殺されると思った由利亜は、自分の下着が濡れていないのか気になるくらい生きた心地がしなかったのであった。

吐き気を堪えながら、柱に手を置き膝が床に付いていた……。







─────







「来週は2年生で地層の野外観察あるから準備しておいてくださいね。以上、ホームルーム終了!」


後輩である変な子と会った昼休みから数時間が経ち、担任の締めの言葉を受けて学校の1日が終わった。

女子たちが「雨降って野外観察中止になると良いのにねー」なんて身も蓋もない雑談が聞こえてくる。

俺は遠足気分だが、汚れるのが嫌な女子は地層観察どころか、山に行くのすら嫌なようだった。

1日授業潰れるとか最高過ぎじゃないかと俺は思うんだけどなぁ……。

帰りの支度をしながら、雨降らないと良いのにと祈っていた。


「呑気そうな顔してんな。どうでも良いこと考えてんのがすぐわかるわ」

「やぁ、タケルちゃん。放課後、ついに行こっか」

「軽いなぁ……」


今日はタケルに都合を付けてもらい、セレナと会うことに決めていた。

今回は絵美や星子たちの女性陣は抜きである。


「つーか、誰だよ。セレナのところに連れて行きたい奴って」

「俺らよりセレナのことをよく知ってる人だよ」

「なにもかも説明がないんだけど……」

「説明か……。苦手なんだよな……」

「お前、本当にいつもいつも説明がないんだよ!苦手とかそういう次元じゃねぇから!」


それは本当に申し訳ない。

タケルに頭を下げて謝罪をしつつ、説明を放棄してカバンの準備が終わったので立ち上がり、2人並んで外へと向かうのであった。

タケルは俺と2人っきりになるといきなり話題を振ってくる。


「よし、秀頼。説明ゲームやろうぜ」

「よし、やろう」

「説明すら聞かないのか、お前……」

「どうせタケルが話題出すのを俺が説明するゲームだろ?」

「なんか当てられるのムカつくんだけど……。よし、第1問!」


なんか知らんが、説明ゲームなる謎の遊びが始まった。

タケルがそれで満足するなら付き合ってみようじゃないか。


「秀頼がたい焼き屋の姉ちゃんと知り合った経緯!」

「あー……。なんか知り合ったから」

「第2問!秀頼が学園長先生と仲良くなった経緯!」

「覚えてねー……。なんか知らぬ間に……」

「第3問!今日の昼休み何してた?」

「なんか知らん子に陰口叩かれてた」

「第4問!なんで!?」

「知らんよ」

「第5問!佐々木とお前の出会い!」

「なんか公園にいた……」

「……本当にお前説明がないな。なんかばっかりじゃねぇか!」


そう指摘されるとなんかばっかり言ってた気がする。


「じゃあ攻守交代。タケルがセレナの好きなところ!」

「え?えーっと……、明るくて元気もらえるところ……。あと、たい焼きをうまそうに食うところとか……」

「ヒューヒュー!ほんでほんで?」

「後は理沙みたいにしっかりしてるところがあったりしててさ……。そういうの素敵じゃない……?」

「もっとちょうだい!ガンガンちょうだい!」

「声もお転婆な感じが好みなのよ」

「もういっちょ」

「遠慮なく気軽に接しられるのが秀頼みたいで助かってる」

「もう一声!」

「それから──って、何個言わせるんだよ!」

「ダメ?」

「これなんか納得いかねえ!説明促すのだけ無駄に上手いの腹立つわ」

「人には向き不向きあんだよ」

「お前、ベラベラしゃべるの好きなクセに何言ってんだよ!」


タケルが即席で作った説明ゲームに対して地味にハマってしまうのであった。

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