51、佐々木絵美は知識が多い
「っぅ……」
一気に酔いがまわったかのように頭の回転が鈍くなり、ふらっと一瞬の貧血が起きる。
「大丈夫!?」と慌てふためく絵美と美鈴に持たれかかってしまうも2人が左右から俺を支えてくれた。
片方にぷよんとした大きな胸の感触がしてしまい、どっちが絵美でどっちが美鈴なのか察してしまった。
左右の格差は残酷である……。
「大丈夫……。また俺、記憶失ってたんだな……」
「ごめんね……。ちょっとしたゲームのつもりだったんだけど……」
「まぁ、承諾したのは俺なんで気にしないでください」
申し訳なさそうな楓さんに謝られるも、俺が許可を出したので引きずらないように配慮をする。
「秀頼さぁん!私のことわかりますか!?」
「永遠ちゃんだよね……?大丈夫、記憶に混乱は見られないから」
「そこはバッチリです」
天使ちゃんが記憶がおかしいままにならないと自信満々である。
罵られたいという彼女らの欲望を満たせなかったので、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「記憶を失っている間、どういう心理なのひぃ君?」
「本当に君たちだけがごっそり記憶から無いんだよね……。タケルは親友だけど、その妹はまったく見たことないとか」
「私のことですね」
「お隣さんの佐々木家に出入りしているのに、何故か娘さんと会ったことないから絵美のおばさんと会いに行ってることになってたり……」
「ふ、不倫だ!お母さんと不倫してる!?」
「してないよ」
とにかくなにもかもがおかしいことだらけである。
「深森家に呼ばれて両親と探偵に会わされたのに、肝心の娘2人と会ったことないとかな……」
「おかしなことだらけじゃないか……」
「秀頼様、お母様と不倫を……?」
「だからしてないって!」
彼女たちの家に行った記憶が大体不倫に変換されるのは酷いと思う。
他にも、三島のギフトを操れるように2人で廃墟に籠った記憶もただ1人で廃墟にいただけの記憶になったり、いつかにみんなと行ったプールがタケルとマスターの男3人だけで行ったことになったり悲しい出来事になっていた。
当然、楓さんと出会うことになったバトルホテルの出来事も悠久先生と2人っきりで旅行したことになってる。
それを何1つおかしな出来事として認証出来ない辺り、五月雨茜のオマケの能力である記憶弄りのヤバさをひしひしと伝わってきてしまう。
「ちょっと待ってください美月さん……。明智さんを深森家に呼んだってなんですか?」
「え?」
「それに絵美も何回も秀頼さんを家に呼んでる?」
「…………」
三島と永遠ちゃんが何かに気付いたように呟く。
円や島咲さんが「はっ!?」としている。
「絵美、なにか弁明は?」
「…………ここも谷川家だよ。咲夜が断トツで1番秀頼君を家に招いているんだよ」
絵美の目が泳ぎながらぼそっと呟くと、ほぼ全員の視線が咲夜に集まる。
「サクパイ、あなたは同類どころか1番秀頼先輩を家に連れ込んでましたか……」
「なっ!?卑怯だぞ絵美!?」
「そういえば私、お兄ちゃんの家に行ったことはあるけど、お兄ちゃんから家に来てもらったことないかも……」
「ひぃ君、私の家にも来てよ」
「明智さん、前にボクの家に来るって言ったのに……」
「じ、時間があれば……」
「1人でスタヴァに行く時間はあるのに?」
「…………」
楓さんから肩を叩かれる。
これは平等に全員の家に行かなきゃいけない流れになった気がする……。
正直、美月と美鈴の父親のようにあからさまに俺を避けるような苦手な態度をされたのが個人的に他の子の家に行きにくい要因になっている。
絵美パパからもあまり良く思われてないしね……。
「こう見えて我の家には来てもらったことがあるからな」
「おうよ」
「なんで明智さん、女子寮には入ったんですか?」
「そんなこともあったような……」
次々に誰々の家に行った・来てもらってないの暴露大会が始まってしまった……。
マスターがやれやれとした表情で一切助け船を出してくれないまま、小一時間全員に問い詰められてしまい極力行けるなら行くことを約束された。
「秀頼さんが家に来る際は気合い入れないと!」と、永遠ちゃんが嬉しそうにしているが原作世界では間接的に殺している両親がいる家に行かなきゃいけないとか地獄かなんかかな……?
実は1番、永遠ちゃんの両親には会いたくないのであった。
「…………」
まぁ、それを言ったら絵美も……。
色々思うことのあるところだが、こうしてようやく解放されるのであった。
喫茶店の外の空気がやたら上手く感じる。
「帰ろ、秀頼君!」
「そうだな、帰るか……」
帰りの方向が一緒である絵美に並び帰路に着こうとした時であった。
「明智先輩の家はこっちの方なんですね」
「…………ん?どうしたの天使ちゃん?」
女子寮に住む天使ちゃんはヨルとゆりかと帰る方向が同じなのに何故か俺たちと並んでこっちにいた。
隣の絵美も不思議そうに「こっちにはなんのお店もないよ?」と尋ねていた。
ヨルもゆりかもついて来ない天使ちゃんに気付き、こっちを見ている。
「いえ……。明智先輩にお呼ばれされたのでこのまま家に行こうかと」
「そういえばさっき誘ったっけね。じゃあ、行こっか」
「おい、そりゃズリィって!?」
「五月雨は我らと帰るぞ」
「ええぇぇぇぇ!?そんなのあんまりですよぉぉぉ!?」
「ついでとばかりに絵美も明智の部屋行くなよ?」
「わかりましたよ……。今日は行きません……」
本当にこのまま天使ちゃんを部屋まで連れ込んでイチャイチャしたかったのだが、ヨルとゆりかに強制連行されてしまいこの世に絶望した顔の天使ちゃんはズルズルと引かれていった。
「…………俺さぁ、イチャイチャしたいのになんで出来ないのかなぁ……」
「1人に決めないでズルズルと先延ばしするからですよ。それかもう平等にイチャイチャしましょう!」
「思い切りが良いな……」
絵美ちゃんの性欲は男子中学生以上である。
「でもさ、わたしは秀頼君のこと小学生に上がる前からずっとずっとずっと好きだったんだからね……。秀頼君がブレーキ掛けたって、そろそろわたしのブレーキ壊れるかもしれないんだから」
「お前さぁ……。マジでそういう嬉しいこと言うのやめろよ……」
「両想いなのに、切ないねぇ……。あと、秀頼君の全部を独占するつもりはないけど、君のファーストキスと童貞は絶対譲らないからね」
「俺、本気で絵美大好き」
「ありがと」
付き合っている彼女に対して、あえて俺は気持ちに対しての大小は考えないようにしていた。
でも、おそらく俺の1番は……。
──それ以上は考えるのをやめた。