44、瀬川沢琉奈
サワルナさんとセレナが姉妹という謎の情報を照らし合わせながら、サワルナさんの顔をじっと見つめる。
「は?なによあんた?ガン付けてんの?お?お?サワルナに惚れた?千夏先輩から乗り換えてサワルナにする?」
口が悪いのと、髪の色がオレンジの共通点あるね!
……姉妹と言われたら姉妹かもしれない……。
このギャルゲー世界、カラフルな髪の色の人で溢れているからオレンジ髪同士=兄弟姉妹になるわけじゃないのが難しい。
確かに俺と星子、円と和、タケルと理沙、美月と美鈴のように髪の色が似やすい特徴はある。
しかし、島咲さんとミドリちゃんみたいに違う可能性もある。
達裄さんみたいに髪の色を染めているパターンもあるし、安易に髪の色だけど身内判断は難しい。
「大丈夫っす。俺、サワルナさんのことそういう目で見れないんで……」
「すっげぇ失礼なんですけど……!」
「サワルナさんだって俺のそういう目で見れないでしょ?」
「千夏先輩に群がる害虫という部分を除けば、イケボだしイケメンだし身長高いしいじりがいがあって楽しいし飽きないわよね!意外とあり……?」
「あるの!?」
「千夏先輩に気に入られてるという一点でマイナス1億点なの……」
気に入られてるとかではないと思う……。
多分、千夏さんからは弟みたいな扱いを受けているだけではないだろうか……。
「ご主人様……。深森家へあなたのことを報告する立場として、女に口説かれる姿を晒すのは控えていただきたい」
「どう見たって口説かれてないでしょ!?」
「あ、我といけない関係になる時はこっそりとオフでお願いしますね?」
「この人、自分が関わることは自信満々で隠蔽する人だな……」
えりなさんもちゃっかりしてる……。
それにしても、瀬川沢琉奈とセレナって名前からして姉妹感は一切ないんだが……。
サワルナさんもセレナを知らないみたいだし、なんなんだろうか?
この意味不明な空気に理解が追い付かない。
「それで、サワルナさんはセレナを知らないと言い張るけどどういうこと?」
「そうですね……。瀬川沢琉菜さん、あなたに妹がいるのは間違いありませんよね?」
「い、妹は……、確かにいますよ……」
「お名前をお聞きしても?」
「せ、瀬川麗奈……」
瀬川麗奈……?
俺はなんとなく引っ掛かりを覚える。
セレナの由来ってもしかして……。
「でも、麗奈が害虫と知り合いなんてあり得ない……。だって麗奈は……」
「ここ数年ずっと眠りっぱなし、なんですよね?」
「……はい」
サワルナさんの妹が眠りっぱなし……?
でもセレナの姉はサワルナさんで……?
どういうことだ?
「おそらく、ご主人様たちが会っていた彼女こそセレナであり、瀬川麗奈で間違いないと思います」
「あの子がサワルナさんの妹……?なるほど、あれがギフトか……」
タケルに触れると絶対に静電気になったと言って触ろうとしないセレナ。
ギフトに拒否反応がある美鈴や、ギフトを間近に感じられる三島と美月がセレナに違和感を持った理由。
『あー……。あの女ね……。あれはちょっと特殊でね……』
『あれは人間ともいえるし、人間ではないともいえる』
エニアのぼかした言い方の虚像がはっきりと写し出されていく。
義務教育を受けられないような環境に置かれてそもそもギフト陽性が確認できなかった者。
病気やケガなどで学校に通えない者。障害者のような普通の学校の環境では勉強できない者。亡くなった者。
悠久から挙げられたギフト所持者なのにギフトアカデミーに通わない人物がいるとしたらの例。
バラバラだったパズルのピースが次々に繋がっていくのを感じ取る。
セレナの正体は瀬川麗奈のギフトで生み出された幻覚ということだろう。
そっか……。
──アニメのセレナの末路は、タケルの目の前で『もう会えない』と彼女が涙ぐみながら身体が消失していく。
そして、空気に消えていくセレナの身体。
最後に『好きだよ……、タケル……』と弱々しい告白をすることで完全に消失していく。
それ以降、タケルがどれだけセレナを待っても2度と会うことはなかったという謎に満ちながらも、その謎が回収されないアニオリヒロインの最期。
その回収されなかった謎を解くとしたら、単純に瀬川麗奈の死亡……?
「ま、待って!?がいちゅ……、明智が麗奈と会ってるってなんですか……?」
「害虫って言いかけましたね?見逃しませんよ」
「そこは流して!ねぇ、麗奈と会ってるってなに!?理由もわからず、3年も寝たきりで意識も回復しないあの子にどうやって会うの!?」
「…………」
しかも身内すら知らないギフトと来たものだ。
すごく面倒なことになった……。
もしかしたらサワルナさんが最近異常にシフトに入っているのも大学の費用だけでなく、妹の入院費の足しにしているからかもしれない。
なんだよそれ……。
めっちゃ良い人じゃん!
俺も星子がそんな目に遭ったら、もう頑張りまくる!
「ねぇ、会わせて!麗奈に会いたい……。今すぐサワルナに麗奈を会わせて」
「会わせるのは構わないけど……。今すぐは無理だよ」
「なんでよ!なんで無理なのよっ!?」
「いや、だってサワルナさん……。バイト中だし……」
「あ……」
「あと、スタヴァの姉ちゃんじゃない姉ちゃんが早くバイトに戻れって目でこっち見てるし……」
サワルナさんは背中を向けているので見えないが、多分相当怒ってる。
彼女のバイトの時間をプライベートな時間に使っている俺も申し訳ない……。
「お姉さん、もっと詳しく知りたいです。連絡先を……」
「あっ!こっからは仕事関係ないので。この情報をどうするかについてはもう関与しません」
えりなさんは「妹さんを調べたのはあくまで仕事なんで。詳しく聞きたいならこちらのお方にお願いするべきです」と線引きをして見せる。
俺や深森家の依頼人以外にはドライな人である。
「……害虫、連絡先交換」
「わぁ、サワルナさんに口説かれてる!」
「死ね」
「ひど……」
こうして無理やりサワルナさんの連絡先を渡されてしまうことになる。
いらねー、と思いながら友達追加だけはしておく。
……うわ、ラインのアイコンリーフチャイルドのエンブレムじゃん。
絶対サワルナさん、リーチャのファンじゃん!
「…………」
あれ?
そういえば達裄さんがリーフチャイルドのファンが十神病院で入院しているとか聞いたことあるような……。
まさかな……。
この後はめちゃくちゃサワルナさんは叱られることになり、他人事な目でえりなさんと観察していたのであった。
瀬川麗奈がセレナを名乗る理由。
単に本名を略したから。
達裄の話について、20章の15話参照。
もう秀頼もあんまり覚えてない。