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43、上松えりなの探偵ジョーク

えりなさんの連絡から3分ほど経ち、「お待たせしましたご主人様」と謝罪をしながら大変腰の低い彼女が現れた。


「全然!気にしないでください!」と俺の方も同じくらいに腰が低くなりながら頭を下げる。

(雌豚をぐちゃぐちゃにしよーぜ!)とやたらテンションの高い中の人の囁きが響く。

えりなさんのこと気に入ったのかな……?


「それで、セレナのことなにかわかりましたか?」

「バッチリです。バッちりなです!」

「バッちりな……?」

「いえ、忘れてください……。我の小粋な探偵ジョークですから……」


真顔でかぁぁと赤くなりながら、目を閉じて俺の視線をやり過ごす。

あ、あぁ!

名前のえりなと、バッチリを融合してバッちりなと……!

全然伝わんねーよ!

彼女の滑った謎ギャグに反応が困りながら、こほんとわざと咳き込みながら仕切り直す努力をする。


「すいません、その前に1人大事な人物をお呼びしております」

「大事な人物?すぐ来る?」

「はい!すぐ来ます!」

「バッちりなじゃないですか!」

「早速弄らないでください……。ご主人様ぁ……」


涙目になりながら上目遣いで注意をされる。

中の人が虐めたくなるのもなんかわかる可愛さだった……。

最近、ドMな心にSも芽生えつつある気がする。

俺が俺でなくなるような……、そんな中の人に侵食されているような感覚……。


(こんなギャグシーンに伏線っぽい変な描写入れるのやめたら?別に俺、侵食しないよ?)と、本当か嘘かわからない悪魔の声が聞こえてきた。

えりなさんが来た途端、急にベラベラ干渉しに来ている……。


「あ!来ました!来ました!今日、このスタヴァにした理由はこのためなんです!」

「このため?」


まったく話が読めない中、彼女が「すいませーん!」と誰かに声を掛けている。

誰だと思いながら振り返ると、スタヴァのお姉ちゃんが不思議そうに立っていた。


「あっ!サワルナの天敵!」

「え?スタヴァのお姉ちゃんの……サワルナさん?」

「悪いわね瀬川さん。ちょっとだけ呼び出してしまって」


えりなさんがそう言ってサワルナさんに謝罪と、「時間を取ってくれてありがとう」と感謝を示していた。

……ところで、なんか聞き慣れない言葉があったような……。


「瀬川さんって誰?」

「サワルナ!サワルナが瀬川!」

「え?サワルナさんって瀬川って偽名だったの……?」

「違う!本名!瀬川沢琉奈!常識でしょ?」

「普通は通ってるカフェの店員さんの本名なんか知らんのよ。ね、えりなさん?」

「いや、普通は通ってるカフェの店員さんと仲良くなんねーのよ」


それを言われたら元も子もない。

サワルナさんが「別に害虫男と仲良くないんですけど!」とえりなさんにもの申していた。


「てっきり沢が名字で琉奈さんって名前かと……」

「そんなわけあるか!名前に()れるな!」

「あ、サワルナじゃないんだ……」


千夏さんからも、『高校からの後輩で4月から同じ大学に通うようになった、今日からこの店で働くことになった沢琉奈です』と紹介されたから珍しい名前だと思いつつ、挨拶した記憶がある(この時のサワルナさんは千夏さんの前なので猫を被っていた)。


「ところでさ、明智!この人、あんたの恋人?ねえ?ねえ?恋人?恋人?」

「はじめて俺をまともに呼びましたね……。あと、恋人でもなんでもないですから」

「チッ……。千夏先輩に明智は彼女持ちでしたって報告するチャンスだったのに……!」

「舌打ち聞こえてますが……」

「聞こえるように舌打ちしました」

「あっそ。あと、俺に恋人がいたからって千夏さんにはなんも関係ないでしょ?」

「え?は?」

「え?は?」

「あぁ、そういう……。よしっ!こいつ馬鹿だ!」

「なんで馬鹿呼ばわりされたの?」


サワルナさんが何故かガッツポーズを決めていた。

意味がわからずえりなさんに目線を送るも、彼女もよくわからず首を20度ほど傾けた。

多数決でサワルナさんの行動が意味不明になりました。


「千夏先輩はお前なんかなんとも思ってないんだからなっ!」

「知ってますよ」

「すげぇよこいつ……」

「え?ところでなんでサワルナさんを呼んだんですか?意図がわからないのですが?」


めちゃくちゃ驚いているサワルナさんをさておき、えりなさんに向き直ると「うむ」と力強く返事をする。


「実はセレナさんという少女の調査をしたところですねー……。実は色々わかったことがありましてー」

「セレナって誰ですか!?あんたの彼女!?ねぇ、ねぇ、彼女彼女?害虫の彼女ってことでOK!?みなさーん、害虫にはセレナって彼女がいるみたいです!」

「違いますから。セレナは俺の彼女じゃないですから。大人しくえりなさんの話を黙って聞いててください」


今はそんなに客足の少ない時間帯だから大事になっていないが、既に数人のスタヴァのお客さんからの『うざってぇんだよ、カス』と言いたげな女子大生たちの視線がとても痛い。

店員さんのサワルナさんが何故か言いふらすような声を上げたが、みんな苦笑していた。


「セレナさん、実はサワルナさんの妹です」

「はぁ!?サワルナにセレナなんて妹いないんですけど!?なんでサワルナの妹が害虫の彼女なのよ!」

「だからセレナは俺の彼女じゃない…………は?」


固まった俺に対し、えりなさんは頷いてみせる。


「だから、セレナさんがサワルナさんの妹だと判明しました」

「だから!サワルナにセレナなんて名前の妹居ないって!知り合いですらないわよ!」

「え?本当に意味わかんないんだけど……」

「つまりですねー」


えりなさんがもったいぶるように溜めて、大げさに口を開く。


「ここにいる瀬川沢琉奈さんの妹さんがセレナさんだと判明しました」

「だからサワルナの妹は害虫の彼女じゃないって!」

「あー!なんにも話が進展しないじゃねぇか!」


何故か俺が突っ込みにまわらざるを得ないほど、えりなさんもサワルナさんも同じことしか口に出さないのであった。

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