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40、近城悠久は気付く

ノックをして部屋の主である学園長の悠久先生の返事をもらい、「失礼します」と挨拶をする。

そのまま部屋に入ると、「あら、珍しい来客ね?なんの用?」とソファーに座っていた悠久先生が出迎える。


「ちょっと部屋を貸して欲しくてさ」

「部屋を貸して欲しくて学園長室に直接来た生徒はじめてなんだけど……。あなた最近、わたくしを便利屋かなんかと勘違いしてないかしら?」

「ちょっと電話したくてさ」

「しれっと無視した?」


忙しそうでもなく、ただスマホを使っていた悠久がやれやれと声を上げて、右手で頭をなぞっていた。


「他にも無人な教室あるじゃないの……」

「確かに無人な教室が7室あるけど見回りの先生とか来たら面倒だし……。一応、スマホの使用禁止の学校だし……」

「学園長室に乗り込み校則違反しに来たって堂々と言ってくる度胸が凄いわ……。まぁ、あんたには色々世話になってるし10分空けといてあげる」


悠久先生から許可を得られると、「ありがとうございます!」とお礼を言う。

「わたくしが座ってるソファー使って良いから」と促されて、彼女の隣の位置に座り込む。


「さて、職員室で仕事する……ん?」

「どうしたの?」


立ち上がって職員室に動こうとしていた悠久先生であったが、その動きを止めて至近距離で俺の顔をじっと見つめてきた。

まつ毛が長くてキレイな女性だと一瞬意識してしまい、耳辺りが熱くなる。


「な、なんですかいきなり!?」と、恥ずかしさを堪えながら叫ぶと「うるさいわね……」と嫌そうに顔を遠ざけてソファーに座り直す。


「あんたからメスの匂いがするわよ」

「は?メスの匂い?絵美とかヨルのじゃないの?」

「違うわね……。キャバクラの姉ちゃんたちが付けている男が好きそうな香水の匂いに近いかも。彼女たち、こんなの付けないでしょ」

「あぁ!明日香ちゃんの匂いかも」

「明日香?1年生の江波明日香って名前だっけ?新しい彼女?」

「全然違うけど……」


心当たりがあるのか、一発で本名を当てつつゲスな勘繰りをするが首を振って否定する。


「あんた、キャバクラとか行くんだ……」

「接待って言葉知ってる?わたくしがキャバクラに興味あるわけないじゃない」

「教師が接待でキャバクラ使ってるとか聞きたくなかったよ……」

「学校というのはね、キッズが不相応な大きな夢を抱くのを覚ます施設でもあるのよ。野球大好き少年の全員が全員野球選手になれないのと同じよ」

「そういう夢とも違うじゃん!」


どうやら教師は潔白みたいな幻想はやめろというメッセージのようだ。

それから悠久先生に「その江波さんとなにがあったの?」と促される。


「さっき手を握られたり告白されたりしただけだよ」

「えっ!?彼女じゃないってことは振ったの!?」

「なんで驚いてるの!?俺、冴えないかもですが彼女持ちですよ!?」

「その辺の倫理観が崩壊しているだけかと……」

「倫理観は崩壊してないです。見ない振りしてるだけですから」

「なにその無敵理論!?最強かよ!じゃあ複数人の女性と付き合うのは常識的におかしいのは知ってる!?」

「常識的におかしいのは承知です。見ない振りをしてるだけですから」

「最強かよ!」


悠久先生に案外まともなことを言われて、今の自分は鳩が豆鉄砲をくらった顔をしていると思う。


「あんたでも告白を振るとかあるんだね」

「ありますよ。特に自分のことを好きじゃないのに告白してくる相手に関しては見分けられるつもりですから」

「へぇ……。でも一目惚れとかかもしれないじゃん!」

「ないですね。俺、人の悪意とか敏感ですから。明日香ちゃんからは、そういう悪意な目線が見えましたから……。不特定多数の男にちやほやされたいし特別扱いもされたいってのがなんとなくわかるんです。俺じゃなくても良いんだなってわかる相手とか冷めるじゃないっすか……」


部長との過去で、人が発するそういう悪意の察知程度は察せられるようになってしまった。

それの副作用なのか、逆に絵美やタケルたちから鈍感と言われる辺り、人の好意に対する察知能力が犠牲になり低くなってしまったのだけれど……。


「だからこそあんた、自分のありのままを見てくれる女大好きだもんねぇー!この変態!」

「言い方!」


確かに内面的なことを見てもらえるのは好きであり、ありのままでも問題はない。

ただ、汚れた俺には物理的なありのまましか浮かばない。

ありのままの姿見せる云々の歌詞があるとある映画の有名な主題歌にそういう邪な気持ちを抱いた俺には悠久先生の言葉はからかいにしかならない。


「ポロリしてんのか!?」

「しませんよ!ポロリ期待派だ!」

「ポロリする覚悟もなく、人のポロリを期待すんな!人間のクズがっ!」

「俺はポロリする覚悟があるさ。だから求めるくらい良いだろ!なんなら悠久先生のポロリすら期待しているんでね。クフフ……」

「それはそれでクズ!」


ステルスメガネをくいくいっと動かす仕草をする。

こう見えて俺は前世では中学時代から目が悪くメガネだったので違和感なくくいくいっと動かすメガネキャラムーブをかますことが出来るのだ(高校時代からコンタクトレンズだったが……)。


「とりあえずさっさと電話しなさいよ」と疲れた顔をしながら彼女は学園長室を出ていく。

なんかあの人、原作時点でもタケルやヨルの無理を聞くご都合主義なキャラであったが、この世界の登場人物になりいざ接してみるとそのようなイメージが間違いなかったと確信できる。

しかし、原作タケルと悠久先生との関係以上に遠慮のない関係になった気がする。

今度なんかケーキでも買ってご機嫌取りしようと、部屋の主を思い心で拝み倒すことにする。

それからすぐにスマホの操作をして、上松えりなさんへ電話をかける。

5コール目がちょうど途切れると同時に呼び出し音が切れた。


『もしもし?お疲れ様です、ご主人様!』

「そんな呼び方やめてください。普通に明智で良いですから」

『さっきのメッセージの件ですよね?』

「いや、聞けよ」


ご主人様と崇める俺の命令を聞いたり、かと思えば都合良く無視したりとフリーダムな人だ。

彼女は淡々と「今、ターゲットの浮気現場を追跡中なので手短に」と返される。

本当にそういう仕事しているんだなんて感心しながら「はい」と返す。


『明日の放課後に駅近くのスタヴァでお会いしましょう。そこで詳しくお話させていただき……あっ!すいません、よろしくお願いいたします!』と慌てた彼女の声がして通話が終わった。

わずか1分程度の通話だが、どうやらかなり忙しい状況だったようだ。

こうして、セレナのことについてなにかわかったらしいえりなさんの経過報告は終わったのである。

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