38、江波明日香
いやいや、神様よぉ……。
もう転生者オチはこりごりだぜ……。
7人の転生者を集めると願いが叶えない限りそんなの集めないぜ神様よぉ!
多分部室で1人お祭りしているであろう神様にそんな悪態を付く。
いやいや、あり得ないって……。
あり得ない、あり得ないよな……?
いや、そもそもドラマのヒロインってなんだ?
ギャルゲーがアニメ化ならまだわかる。
舞台化もまだ理解出来る。
流石にギャルゲーのドラマ化なんか前代未聞過ぎる……!?
実写化なんてせめてパロディのAの付くビデオが精々じゃないだろうか!?
「ど、ドラマのヒロインとは……?転生者的な感じ?」
恐る恐ると、その事実を認めたくないが訪ねないといけない。
えりなさんへ電話もしなくてはいけないのに、なんでこんな気分にさせられるのか……。
「なーんすか、転生って?あはは!センパァイオモロー!アニメとかの観すぎですよ!」
「別に笑うとこじゃないんだけど……」
「そーなんですか?」
そんなわけなかった。
円とか織田先輩、アヤ氏みたいな面倒な転生者相手はもうこりごりである。
もっと平和な日常を送りたいんだ!
「そうじゃなくて!アタシはドラマのヒロイン並みに可愛いじゃないですか!」
「自信満々だね」
「だからこの世界がドラマの世界ならアタシはヒロイン扱いされてるってわけ」
「くっくっく……。はははははは!」
「別に笑うとこじゃないんすけど……」
「あ、ごめん……」
彼女は素で自分をドラマのヒロインと思い込んでいる系女子だった。
ヒロインとは?
俺の知っているこの世界のヒロインはコンバットナイフを愛用武器にしたがさつな狂犬女とか、サディスティックに隣の男子生徒A君を虐めてくる姫様とか、なにをやっても完璧な才色兼備
な大和撫子なエターナル少女とかである。
そもそも江波明日香ちゃんなる子はモブでしかないのだ。
だからなんか面白くて笑ってしまった。
おもしれー女。
「センパァイのことはよく見てました!」
「え?」
急に俺の2つの手を取り、手を握ってくる。
ほぼ初対面とはいえ、この距離の詰め方エグくない!?と思うのは俺の価値観が違うからなのか……?
見た目と年齢だけは若いが、もう中身は30代おっさんな俺には自分の価値観が古い可能性も捨てきれない。
現役でスーファミとかセガサターンとか初代プレステを遊んでいた高校生なんか周りにいない。
俺はもうマスターや達裄さん、悠久先生側の人間なのである。
ある意味、コナン君ですらある。
「センパァイ!一目惚れです!付き合ってください!」
「…………え?告白……?」
「はい!センパァイさんにぃ、惚れちゃいました!」
「…………」
出会ったその日に告白されてしまった……。
なんだこれは?
罰ゲームかなにかか……?
初対面のその日に告白されたという意味では楓さんもそれに該当するのだが、彼女とはつり橋効果のようなものがあった。
しかし、お互い何も知らない者同士から告白されると嬉しい以上に戸惑いや詐欺とか嘘を疑ってしまうのもまた古い価値観だからなのかな……?
「……」
いや、『センパァイのことはよく見てました!』とか言ってたし、ラブコメにありがちな片思い的な感じで遠くから見てました的な感じか……?
ギャルゲーでは100以上見てきたシチュエーションのリアル本能寺が、現実でされるとキョドルだけである。
心で「はぁ……」とタメ息を吐き、自分に素直にならなくちゃいけないかと思い、彼女と目を合わせる。
「わりぃ……。俺は君の求めるような普通の恋愛は出来ないから……」
「は……?」
「俺と付き合っても君を傷付けると思う……。多分明日香ちゃんを不幸にすると思う……」
本当は付き合っている子、全員に言ってあげなくてはいけない言葉なんだと思う。
全員公認とはいえ、複数人の女の子と付き合ってしまっている環境に彼女は耐えられないと思う。
自分だけ見て欲しいのに、自分だけ見てもらえない残酷な泥沼のような俺の恋愛にそんなに何人も何人も引きずり込みたくない。
「は、はぁ!?アタシを振るんですか!?良い度胸ですね!?」
「そうだね。良い度胸してるよな俺……。明日香ちゃんは可愛いし、行動力もあるしすぐに彼氏ができるよ」
「ちっ……」
うわー……、露骨に舌打ちされたよ……。
聞かない振りしとこ……。
「あと、男にちやほやされたいんだったら尚更俺なんかやめときな。まぁ、ちやほやされたって君の心は満たされないのだろうけど……」
「なっ!?」
「じゃ、用事あるから」
昼休みの貴重な50分。
既に昼休み開始から10分は過ぎてしまっている。
俺は先生に注意されないほどの早歩きをしながら学園長室に向かって行く。
早くえりなさんに連絡しないと……。
(今のお前、若い子を振って年上の子に熱上げてるみたいだぜ)
うるせっ。
中の人の茶々を慣れた感じに捌いていた。
─────
「はぁ……?何あいつ……?」
ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく。
アタシを振ったという事実に苛立ちが収まらない。
男に告白されまくったアタシを躊躇いなく振るという行為そのものに怒りを覚える。
告白されたのに、あからさまにあんなに邪険にされてしまい、プライドがぐちゃぐちゃにされた。
「アタシより、用事が優先……?」
良い度胸してる。
『男にちやほやされたい』とアタシを見透かした言動も許したくない。
ちやほやされたくて何が悪いのか。
ちやほやされて嬉しくない人間なんかいるわけないじゃないか。
「後悔させてやる!ちょっと男を誘惑して……」
『──そこまでだ』
「え?ぐっ……!?」
くぐもったような女性の声をした何者かがアタシの口を塞いでくる。
抵抗しようとじたばたするも、彼女が拘束を外してこない。
「は、はなれ!なんら、おまへ!?(離せ!なんだお前!?)」
「じたばたするな……。勢い余ってその自慢の小顔を破裂させてしまいそうになる」
「っ!?や、やめて!?」
「破裂させたら、流石にそのギフトでは癒せないよな?」
「なっ!?なんでっ……!?」
「大人しく連行されろ」
そう言って謎の女から、首根っこを捕まれながら空き教室へと連行されてしまう。
顔も、見れないまま強い力で引っ張られていく……。
解放された時に床に雑に叩き付けられた。
「この!?あ、あんた……!?」
怒りながら顔を上げて、相手の顔を確認するとオペラ座の怪人を彷彿とさせるような無機質な仮面を被った金髪の女性から見下ろされていた。