34、谷川咲夜は弄りまくる
「居なくなるとか!そういうの全然ないからさ!」
雲行きが怪しくなり、慌てて永遠ちゃんの言い分を否定する。
明智秀頼になってからも、家族から逃げたくなって家出を考えていたこともあったがあれもまだ小学生になる以前の話。
居なくなる予定など、まだサラサラ無いのである。
「ほ、本当ですか……?どこにも行きませんか?」
「い、行かないよ!ほら、俺って地元愛強いじゃん!地元のボランティアとか常にしたいなーって考えてるし!」
「考えてるだけじゃないですか!行動に移してないし!」
「ボランティア活動するより、俺は大事な人と一緒に過ごしたいから!」
「そ、そ、そ、そ、そうなんですね……!」
かぁぁと赤くなった永遠ちゃんが、俺から目を反らすと無言で隣に座った。
まさか旅人になりたいみたいな話でこんなに揉めることになるとは考えもしなかった。
てっきり咲夜に『お前には無理』的に笑われて終わりみたいなのをイメージしてただけに、俺も焦りだしている。
「でもなぁ、秀頼ってある日急に居なくなりそうな掴みどころのない風みたいな奴だからなぁー……」
「それは俺が風属性って褒められてる?」
「急に行方不明になりそうって貶しているんだよ」
「なんだと!?」
「でも明智先輩はそういうところありそうです!急に自分たちのこと忘れちゃうし!次、また記憶喪失したらふらっと居なくなってそうです」
「それは天使ちゃんが俺にギフト使ったからでしょ!?なんでナチュラルに俺が記憶喪失したみたいな他人事なはのさ!?」
「あー。でも確かに秀頼は意味もなく紛争地域とか行ってそう」
「紛争地域に出向く際は、必ず意味を見付けてから行くよ!」
そんな実の父みたいに『次の冒険が俺を待ってるぜ!』みたいなアニポケノリでふらっと消えることはしないよ。
せめて書き置きは残すつもりだ。
「いえ、問題は秀頼さんは記憶喪失にならなくてもどこかに消えていそうな可能性があることです」
「確かに!」
「ありそう……」
「いや、無いよ。安心して」
「でも、秀頼さんの夢は旅や冒険なんですよね?」
「…………」
「図星だな」
女3人に虐められるような目で睨まれて、小さくなる。
なんでこんなことになったのだろうかと後悔するがもう遅かった。
勉強道具はいつの間にか手から離れていた……。
「大丈夫だよ。俺、地元愛強いから!」
「多分、そんなにないだろ」
「う、うるせぇな!」
咲夜から淡々と見透かされる。
「あと、地元愛の話は先ほども聞きましたよ?」
「そ、そうだったね……」
永遠ちゃんからも突っ込まれる。
逃げようにも永遠ちゃんが座るソファーを通る必要があるので、逃がすまいという意思がありありと伝わってくる。
トイレにすら行けない状況である。
「…………ちょっと疑問があるんですけど、良いですかね明智先輩?」
「ど、どうしたの天使ちゃん?」
「明智先輩、宮村先輩に弱くないですか?」
「そ、そんなわけねーし?な、咲夜?」
「度々ウチらで疑問が上がる話題に五月雨から踏み込まれるとは……。やるな、天使ちゃん」
「ナチュラルに天使ちゃん呼びしないでください。先輩に天使と呼ばせる後輩とかヤバいじゃないですか」
咲夜の天使ちゃん呼びに五月雨が焦りの突っ込みを入れている。
あれ?
俺も天使ちゃん呼びやめた方が良いのか不安になってきた。
「後輩からもやっぱりそう見られているみたいだな、エイエンちゃん」
「調子に乗らないでください」
「むぅ……。なんで秀頼ばっかり許される」
「咲夜のは弄る気満々だからじゃない?」
「秀頼だって散々弄りまくってるがな!」
咲夜も永遠ちゃん呼びをして、彼女本人から拒否されてしまっていた。
俺の指摘に反論されて、俺もよくよく考えれば弄ること多いと痛覚した。
「でも、やっぱり秀頼さんって絵美とか咲夜とか円みたいに私に対してビシッと強く言ってくれないんですよね……。最近は美月にすらガンガン弄りまくるのに……」
「いや、そんなことないよ?」
「いや、無理だ秀頼。その馴れ馴れしい秀頼ワールドの空気感が永遠には無いと気付かれている」
「秀頼ワールドってなんだよ!?気持ち悪いワードを作るんじゃねーよ」
「さ、咲夜が気持ち悪いって言われてる」
「え……?」
永遠ちゃんがドン引きしたのか、口元を抑えている。
あ……、俺の性格悪い豊臣光秀部分の素が出ちゃったかと思いすぐに訂正しようかと思った時だった。
「う、羨ましいです!」
「…………ん?」
「もうちょっと秀頼さんは私にも素を見せて欲しいんです!気持ち悪いとかバカとか下ネタとか私もそういう突っ込みがされたいんです!」
「今の永遠、気持ち悪いな……」
「咲夜から欲しいわけじゃないですから!」
本当に眉を潜めた咲夜がぼそっと呟いた。
「要するに永遠先輩はイジ構って欲しいわけなんですね」
「イジ構って……?」
五月雨の作成した造語に引っ掛かりを覚えながらも、隣に座る永遠ちゃんはコクコクと頷いている。
「私ももうちょっと秀頼さんからSっぽく突っ込まれたいです!」
「なーんか秀頼って永遠とか遥香とか碧みたいないかにもな女子ぃーみたいな子には強く言わないからな」
「それでいて、いかにもな女子ぃー枠に入る絵美とか理沙にはガツンと言うのは付き合いが長いからですよね!?」
「そ、そうかな……?」
それよりも女子ぃーが気になってまったく話が頭に入ってこない。
「ウチみたいに子供の時から付き合いが長いと遠慮がなく、永遠からの中学時代からの知り合いでかつ女子ぃー枠には遠慮があると見た!逆にヨルやゆりかみたいな女子ぃーからちょっと外れた奴にはガツンと行くと……」
「嫌な言い方するなぁ……」
女子ぃーが頭に入らなくても、悪口言ってるのは伝わってきた。
「秀頼さんの本性がSなのはわかってますよ!」
「…………え?そうなの?」
永遠ちゃんから突然本性云々の話をされて、一瞬思考が停止した……。