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32、明智秀頼の憧れ

飲み物をマスターから受け取った後は、ギフト関連の勉強に移る。

五月雨がうーん、うーんと唸っていた。


「とりあえずギフトの存在について。人の力とは別のものが働いて」

「人の力とは別のもの……」

「いわゆる神から後付けされた力ってわけだ」

「うーん?」

「大丈夫か?」

「自分、ギフト狩りなんでギフトなんかわかんないっすよ!」

「言い訳しないの。はい、復唱」

「神からの後付けされた力!」


やる気があるのかないのかよくわからない五月雨の勉強を教えてあげる。

体育の成績も赤点にならないようにしてあげないといけないのかと思いながら、懐かしき去年使っていたものと同じ教科書を五月雨から借りて読んでいた。


「おい、永遠。ウチも秀頼から教わりたい」

「咲夜はね、高次方程式の勉強でしょ?」

「秀頼!ひでよりぃぃぃ!」

「大声で叫ぶな……」


因みに俺と五月雨が使っているテーブル席の後ろには咲夜と永遠ちゃんがいつものように勉強をしていた。

本当に俺と五月雨が入店して5分経たないぐらいでやって来ていたのである。

最近、よくこの2人が喫茶店で勉強しているところを何回も見ている気がする。


「というか、お前五月雨だったよな?」

「五月雨茜です!」

「真面目そうな見た目して勉強出来ないキャラか?お?ウチとキャラ被りしてるんじゃないか?」

「してないだろ」

「してませんよ」


五月雨にだる絡みをしてくる咲夜に、俺と永遠ちゃんが同じ突っ込みを返す。

五月雨茜を彼女紹介していないので、咲夜も永遠ちゃんも部活の後輩として見ていると思われる。


「ただでさえ、ウチにロクな出番がない!マスターの方が出番がある気すらしてくる!」

「毎日秀頼さんと会ってるじゃないですか……。今朝だって、理沙と一緒にこないだガチャポンで当てたキーホルダーとか自慢してたじゃないですか」

「そうなんだが……。何故か今、ウチの存在しない記憶が永遠に語られた気分にさせられるんだ……。確かにウチはそんな話をしたのに、はじめて聞いたエピソードにすら思える」

「茜ちゃんとキャラ被りして電波キャラに転向してるじゃないですか」

「最近悠久の出番多くないか!?」

「いや、私たちほとんど学園長先生と絡みないじゃないですか」


咲夜の言い掛かり?ボケ?に永遠ちゃんが相手をしてあげていた。

咲夜を『何言ってるんだこいつ?』と『すまん!』と謝りたい気分になり、変な心境にさせられる。


「さぁ、勉強しよ。勉強しよ。天使ちゃんも将来のために頑張らないと!」

「自分に将来とか考えられないんですよねー……。大人になった自分がイメージ出来ないんです……」

「…………」


五月雨茜も、基本的にどのルートでも報われない死を迎える。

大人になった自分がイメージ出来ないどころか、大人になれないまま死ぬ展開しかないから笑えない冗談である。

悪役である明智秀頼や佐々木絵美と違い、赤坂乙葉や五月雨茜はヒロインなのに死ぬというなんか厳しいゲームである。

一ノ瀬楓もどうあっても死ぬ展開しかないし、俺の周りロクな死に方しない人しかいないのも奇妙な縁である。


「明智先輩の将来の夢とか聞いても?」

「現実的な夢なら達裄さんの下で働くとか、大企業でお茶汲み係とか考えてるよ」

「だ、大企業でお茶汲み係ってなんだ?ウチのマスターに憧れたか?」

「それはない」


いつの間にか咲夜も永遠ちゃんも俺たちの雑談に巻き込まれていた。

当然勉強している2人のシャープペンも止まっている。

こうなる気しかしなかった。


「秀頼さん……。現実的じゃない将来の夢とかあるのですか?」

「う……」


そこで勘の鋭い永遠ちゃんの目が光る。

しまった、そんな後悔が頭に広がる。


「秀頼が『やべっ』って顔してる!突っ込め永遠!どうせウチが押しても絶対言わないからこそ永遠が言え!」

「私、気になります!」


なんか昔のアニメで聞いたようなフレーズを口にしながら、キラキラした目を向ける永遠ちゃん。

現実的じゃない自分の将来の夢とか、それこそ前世の両親にしか言ったことないようなことで恥ずかしい。


「秀頼さぁーん!」

「わ、笑わないでよ……?」

「笑いませんよ!ね、2人共!?」

「自分はどんな夢でも笑いませんよ!」

「ウチモワライマセンヨ」

「1人笑う準備してない?」


でも空気的に3対1の構図が出来上がっていた。

これ、言わなきゃいけない流れのやつだ……と察してしまった。


「ウチワラワナイ、ウチワラワナイ」と連呼する咲夜にちょっとイラッとするが、観念したとばかりにため息を吐く。


「旅人とか、冒険家とか……。1人でどっか歩きまわって世界を旅することとか夢だなぁー……」


ウチのバカ親父が冒険家をしていた背中を見て育ったからな……。

前世では絶対親父みたいにはなるもんかとも思ったが、こっちの世界で色々なことに関わって広い世界を歩いてみたいとか考えてしまっていた。


「オーロラのある寒いところとか、砂だらけの砂漠。人の集まる大都会。そんな世界を旅してみてぇなぁ……。子供みたいとか笑うなよ咲夜」

「その旅や冒険はどこまで行くんだ?いつ終わるんだ秀頼?それが気になるんだが……」

「え?終わりなどはないよ。終わらせることは出来るけど」

「アゲハ蝶的な?」

「は?」


咲夜に爆笑されるかとも思っていたが、やけに冷静だった。

やたら永遠ちゃんも五月雨も静かだと思った時だった。








「置いて行かないでください秀頼さぁぁぁん!」

「自分要らない子ですかぁぁ!?」

「は?」


永遠ちゃんも五月雨もなんか俺に駆け寄って泣きついて来た。

予想もしない反応に、こちらもどんな反応を返せばわからなくなっていた……。

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