31、五月雨茜の苦手教科
「勉強を教えてって、そんなにダメなのか?」
「ぅぅぅ……。勉強は自分のギフトになんの役にも立たないのですよ……」
「ギフトでどうにかするという発想はやめようか……」
五月雨茜のギフトは『好感度調整』だったな……。
教師に対して、『テストの点数を甘く採点してもらうように好感度カンストさせたら良いんじゃない?』なんて案を真っ先に思い浮かんだ俺は性格が悪いのかもしれない。
実際、性格が悪い自覚があるのでこのことはこちらで飲み込むことにする。
「得意な教科は?」
「げ、げ、現代文とか歴史・地理系……」
「文系だねぇ。苦手分野は?」
「ギフト全般……」
「オゥ……。あってはいけないことが……」
ギフトアカデミーでも当然数学なり、英語なりも学ぶことになる。
しかし、やはり1番重視されるのがギフト系の授業である。
「あと、自分にはそれ以上に苦手な分野がありまして……」
「ほう?聞こうか」
情報系だろうか?
因みにギフトアカデミーでは、プログラミングなどの授業はないのでこの辺りは癖がない学校だと思う。
「自分、体育が赤点になりそうなんです!」
「…………体育が赤点?え?なに?」
「体育です!」
「体育が赤点?え、体育?体育!?たいいくっ!?」
「何回言うんですか!?恥ずかしいからやめてください!?」
体育?
適当に走ってれば2は取れるだろう……。
運動ダメな咲夜ですら2は取れていたはず……。
絵美で3程度だったか……?
彼女はよく体育が成績の足を引っ張ると愚痴ってる。
因みに永遠ちゃんは体育も5という。
文武両道、素敵な才女だ。
神様とはとても残酷である。
「天使ちゃんも大変だね……」
「お恥ずかしい話。自分、施設育ちで全然勉強出来る環境じゃなかったので……」
「へー……」
知らない情報である。
ギフト狩りをしているのだから、何かしら普通じゃない背景があるのは察することが出来る。
そうか、施設育ちか。
親が不在なゆりかと言い、瀧口のそういう人を見付かる察知能力は高いみたいだ。
「そっか。施設はどんなところ?」
「子供のお世話とかばっかりでした!でも、自分は細いし小さいしで全然力仕事が出来なくて迷惑ばかりでしたけど……」
「たくさんの人に囲まれていたんだね」
五月雨茜のキャラデザを見た時は、コミュ障キャラかとも思っていた。
しかしゲーム本編とリアルで接してみると意外と社交性があるように見えるのは環境のせいだったのか。
設定資料集に掲載されていない部分が、こんな形で補完されるのも複雑な心境にさせられる。
「施設なんて友達とか多くなりそうで楽しそうだね」
「そ、そうですかね?あんまり実感はないですが……。明智さんみたいに両親から可愛がられて育てられる家の方が自分は羨ましいです!」
「いや、俺に両親いない……。叔父夫婦に育てられた……」
「そ、そうだったんですね……。ごめんなさい!で、でも叔父夫婦に可愛がられて育てられたんですね!素敵です!」
「いや、叔父からは……。あ、なんでもない……」
「え?え?なんですか?なんですか!?すいません!すいません!」
「理由もわからずに謝られても……。天使ちゃんは気にしないで……」
「気になるじゃないですかぁぁ!」
天使ちゃんが悪いわけではないのだが、こう立て続けに答えにくい質問がバンバン来ると気まずくなってくる。
「自分が先輩の地雷踏んじゃったみたいじゃないですかぁぁぁぁ!」
「気にしないで。地雷を埋めている俺が悪いんだから……」
「やっぱり自分が踏んでましたぁぁぁ」
「家族方面はマジで気にすんなって。付き合いの長いタケルとか絵美とか星子すら家族とギクシャクしているの知らないんだから」
「笑顔でエグいこと言いますね……」
引きずらせないように笑顔を保つ。
最近はもう家族のことは気にしないように努めているが、やっぱりどこかトラウマになっている部分は抜けそうにない。
「あ!ほら、サンクチュアリが見えてきたよ!」
「き、喫茶店でお勉強なんて頭が良い人みたいでドキドキします……」
「今からそんなんじゃ勉強出来ないよ……?」
こうして3万人の学生に聞いた全国たむろしたい喫茶店ランキング万年圏外入りの常連になっている聖域の名を冠するサンクチュアリの喫茶店へとたどり着いたのであった。
カロンコロンと聞き慣れたベルが来客した気にさせられる。
「いらっしゃい」とマスターの声が響いた。
「こんにちは、秀頼君」
「こんちはマスター。後輩と勉強しに来たよ」
「こ、こ、こ、後輩です!よろしくお願いいたします!」
「当然のように女連れかい」
「あ、これまだ内密な話だけど。彼女、俺と付き合ってます。祝福してください」
「何回祝福されれば気が済むんだい。もう何回も祝福したじゃないか。おめでと、おめでと。後で5年前の仙台よ旅行雑誌あげるよ」
「もらっとくわ」
「いるんかい」
いつか彼女たちと旅行する時に、たくさん候補があるに越したことはない。
今回はカウンターではなく、向かい合えるようにテーブル席に向かう。
「注文は?」
「エスプレッソ」
「クュゥのオレンジ味」
「いや、ウチのオレンジジュースはバレリーフだけど……」
「……じゃあバレリーフでお願いします」
「はーい」
五月雨がスンとした顔でオレンジジュースを注文した。
後でマスターにクュゥの追加をお願いしておこうと決めたのであった。