29、十文字タケルはフラグを建てる
近城悠久の妹である絵鈴さんの部屋で休んでいると、美鈴から写真が送られる。
すぐに理沙に送るセレナの写真だと気付く。
どんな出来だろうか?と、美月のギフトを生で見たことない俺は興味津々であった。
「…………」
セレナの幻のクオリティはハッキリ言って……45点であった。
ところどころ妙に変だが、セレナのことを知らない理沙には気付かれないし大丈夫だろう。
多分……。
しかし、これが『月だけの世界』か……。
『月がある』という制限下であれば、美月が思うがまま自由な世界を構築するチートギフト。
しかもセレナ本人は写真に写らないのに、美月の作り上げる幻は実体があるのか写真にも撮れるということか……。
俺が思う以上に、美月の存在がヤバいと再認識させられる。
俺のギフト『命令支配』、星子のギフト『キャラメイク』とインチキギフト兄妹だがそれに引けを取らないチートギフトだと美月の存在が危うい。
改めて『月』という制限があって許されるギフトだ。
「ん?」
その画像の下に新しいメッセージが受信されてきた。
『美鈴とお姉様は許されざることをしようとしました……。果たしてこの行いは許されるでしょうか?』
『秀頼様に謝罪します』
『申し訳ありません』
なんかよくわからないメッセージが追記された。
賢者タイムかなんかだろうか?
『まぁ、別に未遂なら良いんじゃね?』
『許してくれるんですか!?』
『うん』
なにも実害がないし……。
美月からも何故か謝罪のメッセージを送られてくる。
やっぱり、姉妹揃って賢者タイムなのか?
よくわからんが、俺に許されたいなら許してあげようと思う。
美月と美鈴をなんかよくわからないことを許して、数回やり取りをしてスマホの画面を切った。
「しかし、セレナの出来が微妙とはいえ凄いな美月のギフト……」
原作だと美鈴の意識を奪ったりなど、やりたい放題なギフトであったがそれをリアルに見せられると圧倒されてしまう。
「…………あれか?知り合いの姿とか芸能人とかの姿をあのギフトで再現できたりするのか?」
例えば永遠ちゃんの幻を目の前に作り上げる、なんてことも……?
美月と美鈴の2人には口に出来ないが、これ知り合いの幻覚を生み出すことも出来るのではないかと気付く。
「永遠ちゃんの裸も……?脱がせることができる……?」
いやいやいや、CERO Dゲームが原作とはいえDからZに飛ぶのか!?
18のキラキラシール貼ってるゲームになるんじゃないのか!?
いや、永遠ちゃんだけじゃない……!
絵美や美月や美鈴も……、付き合っている子の幻全員脱がせることができる……?
「ご、ご、ご、ご、合法じゃないか……!」
本人に脱いでと言おうものなら彼女たち全員からまさしく『ゴミクズを見る目』で軽蔑されて見られるかもしれないが、幻ならなんでもありってこと!?
「くっ……。なんてギフトだ……!美月のギフトは18のキラキラシール能力なんて……っ!」
(いや、お前のギフトも充分18のキラキラシール能力モノだろ)
「倫理観考えろ!バカ者っ!あと、俺は命令するより、命令されたいっ!」
(知らんよ)
中の人の欲望の塊みたいなギフトは、実はそんなに俺の欲望を満たすようなことはそんなに無かったりする。
「はぁ……。永遠ちゃんごめん……」
宮村永遠のラインに『アーメン』と送る。
秒で疑問を返すスタンプが送られてきた。
『ごめんなさい。俺は明かせませんが、後悔をしています』と俺の気持ちをメッセージに乗せて送信した。
『よくわかりませんが、秀頼さんが後悔してるなら許されると思います!』
『悩んだことがあれば、私がなんでも手助けしますから!』
『がんばりましょう!』
そんな穢れた俺に優しい文章が送られてきた。
ん?今なんでも手助けするって書いたよね?
「はぁ……。死にたい……」
誰か自分を慰めて欲しい……。
因みに恋人の右手は悠久の自宅なので封印されている。
すぐそこにエロい格好で寝ているであろう女教師がいるのに、なにも出来ない自分が恥ずかしい……。
俺も早く大人の階段を登ってシンデレラから抱かれたい人生である。
(あー、やだやだ。童貞が夜に暴走してるよ。モテないってつれぇなぁwww)
「も、も、も、モテないわけじゃないですぅ!抱く相手がいないだけですぅ!」
(恋人がいても抱く相手がいないんじゃ、世間では負け組童貞なんだよ)
「男に見下されてもイラッとするだけだわ」
しかも、それが自分自身なら尚更である。
なんで自分自身に俺はこんなにコケにされているんだろうか……?
「はぁ……、とりあえず、送っとこ」
理沙に『タケルには内緒』だと釘を刺して、エセセレナの画像を送り付けることにした。
よし、これでミッションコンプリートである。
─────
「こ、こ、これが兄さんの……!恋人になるかもしれない人……!?」
セレナの幻の画像を送られた理沙は一瞬で興奮したのである。
その時、ガチャと部屋の扉が開く音がして反射的に理沙はスマホの画面をすぐに消したのであった。
「ん?呼んだ?」
「よ、よ、呼んでません!勝手に部屋に入らないでください!」
「いや、だって部屋の中から俺を呼ぶ声がしたから……」
そういって兄である十文字タケルは理沙の部屋へと入ってきた。
「あ、明智君とラインしていただけです!そこで兄さんの話題が出ただけで……」
「あ!お前、セレナのこと秀頼に聞いてたろ!?」
「あ、あははー……。そ、そうだったかなー?」
「演技が下手だよ理沙」
理沙の愛想笑いにすぐにタケルは突っ込んだ。
「しかしなぁ……。あいつは本当にかっけぇよなぁ……」
「どうしたんですか急に?」
「秀頼がさ、格好良いの」
「そんなの知ってますよ」
「はぁぁぁ……。あいつがモテるの見てると嫉妬なんかの感情なんかあんまり湧かなくてさ『だろうなぁ』って思ってきてさ」
「少しは嫉妬あるんだ」
「理沙の気持ちが取られてるしな……。あいつがモテているの見ると逆に秀頼の凄さが他の人にも伝わったみたいで俺も嬉しい」
「誰目線ですか?」
タケルはうんうんと頷く。
理沙は何故かタケルのノロケを聞かされていた。
「あと、私たちは明智君がモテているのを見て気が気じゃないんですよ。もっと兄さんが防波堤の役割をしてくださいよ」
「これでも山本と一緒にあいつと絡んでは他の女が入る余地は極力なくしているんだぜ?でも、そんな防波堤の隙間を縫う秀頼は流石だぜ」
「なんでそんなに誇らしげなんですか……」
十文字兄妹の秀頼トークは変な方向に弾んでいく。
「でもよぉ、秀頼に惚れる子って性格良い子ばっかりじゃん!まぁ、出会った頃のヨルとか和とか……。アレな子もいないわけじゃないが……」
「そうですね。確かに良い子ばっかりです」
「俺は秀頼の周りに悪い女を寄せ付けないという防波堤にはきちんとなっているわけだぜっ!悪い女を秀頼には近付けさせないからさ!」
はい、ギャルゲー主人公はおもいっきりフラグを建てたのであった。
──そんなこんな秀頼トークは2時間も続いたのである。