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28、鬼教官の深森美鈴

秀頼がセレナの正体に近付いた気がするも、実はそんなに近付いていないことに気付き始めた頃……。


深森家のご令嬢2人は、姉の部屋へと集まっていた。


「相変わらず殺風景な部屋ですわね」

「わたくしはシンプルな部屋の内装が好きなんだ」


美月の部屋の感想を述べながら美鈴が入ってくる。

これから、始まることの準備に勤しんでいた。


「月の確認は済みましたわ。ちっちゃい月でしたが、今日は大丈夫です。お姉様のギフトを扱える日ですわ」

「うむ。月があって助かったな」


美月は「良かった良かった」と頷いている。


「そういえばお姉様のギフトってネオン街のような場所で星とか月が見えない都会でも使えますの?」

「え?月が出ているなら使えるんじゃないか?」

「じゃあ新月の場合は?」

「使えないかも……」

「なにもかもグダグダですわ……。自分のギフトの発動条件くらい把握してくださいまし……」

「仕方ないだろ!?わたくしのギフト、使う機会ないんだから!」

「能力自体は凄いのに宝の持ち腐れですわ……」

「ギフトなど使わないに越したことなどない……」


美月がそう言って久し振りのギフトを発動する。

ここ数年使わなかったと思いだしながら、目を瞑り集中する。


「『月だけの世界』……」


月の光の力が美月の腕に集中するのを感じる。

美鈴もごくりと喉を鳴らしながら、美月のギフトを見守っていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と力を込めながら、セレナのイメージを脳内で作り上げる。

美鈴の目の前にセレナの幻を投影させる。


「ど、どうだ美鈴!?」

「幻のような人物の幻を作りましたわ!」

「いや、呑気なこと言ってないで写真を撮影してくれ!わたくしのギフトはそんなに持たないのを知ってるだろ!?今ですらかなり辛いんだから!」

「いや、待ってくださいお姉様……。投影されたセレナさんの髪の色が黒髪だし、身長もかなり高いですし、目もかなりタレ目でこれ別人ですわ……」

「なんだと!?」


美鈴はスマホで撮影しようにもセレナではない謎の人物が現れてカメラのアプリのシャッターを押す気にならなかった。


「本当だ……」

「しかもズボン脱がせたら映えてます」

「脱がすな」

「お姉様の欲求不満な感じ、出ちゃってますねー。フタナリが好きなんですか?」

「『出ちゃってますねー』じゃねーよ!フタナリってなんだ!?」

「む、無自覚フタナリだとっ!?」

「だからフタナリを説明してくれ!?」

「とりあえずこれはボツ。やり直しですわお姉様」

「フタナリの説明をしろ」


美鈴に説明を求めるが、肝心の妹は姉の言葉をスルーしながら「もうちょっとセレナさんに寄せましょう」と美月が生み出した幻のフタナリセレナっぽい人から少し遠ざかる。


「おかしいな……。ギフトそのものは効いているのだが、幻を生み出すなんて始めてやったから精度が良くないな……」

「普段の修行不足ですね」

「うぅ……」

「さぁ!もう1度幻を作ってくださいまし!」


美鈴に急かされてセレナ像を作る。

しかし顔付きが男らしくなったり、幼女になったり、服装が違ったりと中々形が定まらなかった。


「ムズい……」

「お姉様、やり直しです!」

「お、鬼……」


ついに美月が操れる10分の制限時間が越したのだが、双子が躍起にセレナの幻作りに熱中しその限界の壁をナチュラルに越していたのに気付いていなかった。


「も、もう疲れた……」

「セレナさんの髪はもっと艶がありました!似てきているんですから後ちょっとです!」

「わたくし、段々セレナの顔がわからなくなってきた……。よく知る顔ならパッと頭に浮かぶのに……」


初対面なのもあるし、幻を見すぎてゲシュタルト崩壊をしてきた美月。

それに対して「美鈴は覚えていますから安心してください!」と鬼教官になった妹の強い言葉が投げ掛けられた。


「あと、もっと胸が小さいです!肌はもっと白め!」

「ぅぅぅ……。こうですかぁ……」

「良い感じですわ」

「じゃあ完成だ!」

「60点ですが妥協しましょう」

「これで60点……」


美鈴がスマホでカシャカシャと撮影していく。

セレナの撮影は出来なかったが、美月の生み出した幻はきちんとスマホに納めることが出来たのであった。


(しかし、お姉様のギフトは凄すぎますわ……。これは悪用したらとんでもない力を秘めてますわ……)


美鈴は撮影しながら、姉のギフトの凄さを再認識していた。

「60点は1点の60倍……」と混乱している美月であるが、このなんでもありなギフトの力に美鈴は恐怖すら抱く。


(月が無くては使えないギフトだけど、もしその欠点を克服したとすれば……。お姉様は多分自分のギフトの凄さに気付いていないのでは?)


セレナの幻を消す美月を眺めながら、身近な姉がとても恐ろしい人物かのように考えてしまっていた。

美鈴自身が、そのギフトの力に蝕まれていた。

そのギフトを、扱える美月はやはり特別なのだった。


「ふぅ……。本当に疲れるなこれ」

「ところでお姉様。先ほど『よく知る顔ならパッと頭に浮かぶのに……』とおっしゃっていましたが、よく知る顔の幻なら簡単に出来るんですか?」

「ど、どうだろうか?少なくても顔がうろ覚えなセレナよりは美鈴や永遠の方が早く作れるだろうか……。多分……」

「そうですか。なら実験してみましょう」

「実験?」

「お姉様のギフトを知る実験です。今回のセレナさんの幻作りはグダグダだったので、きちんとイメージが出来ている人の幻ならばしっかりとギフトを操れるかやってみましょう」

「よし、やろう」

「お姉様の男らしさ、美鈴好きですわ!」

「嬉しくないんだが……」


美月も自分の修行不足が身に染みたので、そんな美鈴の思い付きに乗ってみた。

そんな姉に対し、美鈴は「秀頼様を作ってみてください!」と要求を出す。

「わかった」と頷いて、秀頼の頭を浮かべた美月は先ほどの要領でセレナの幻を消して秀頼の幻へと形を固めていく。


「よし、これでどうだ!」

「完璧ですわ!へぇ、お姉様の秀頼様のイメージってブレザーなんだー。ブレザー好きなんだぁ」

「う、うるさいな!」


美鈴の茶々に美月は赤くなる。

「秀頼様なら一発で出来るなんてー、このこのー」と美鈴に弄られる。


「よし、なら次は永遠でも……」

「お姉様。この秀頼様のズボンの下ってどうなっているんですかね?」

「ど、どういうことだ?」

「お姉様のイメージなのか、見たことないから再現されていないのか、秀頼様本人のサイズが再現されるのか。どう思います?」

「ど、どう思うなんて……。し、知るわけないだろ……。というか偽セレナみたいに脱がせる気か!?」

「お姉様も気になる癖にぃー」

「気になる」

「真顔でしたわね」


姉妹で顔を合わせ、ごくりと喉を鳴らす。

開けてはならないパンドラの匣──いや、パンドラのベルトに手を付ける。

お互いに頷き合い、ベルトを外した時だった。

「あ!?」と美鈴が声を上げた。


「ひ、秀頼ぃぃぃ!?」

「秀頼様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


秀頼の幻が消失した。

「なんでですのお姉様!?」と美月に問い詰めた時、グタッと彼女が態勢を崩す。


「た、タイムアップだ……。これ以上ギフトの使用ができない……」

「何やってんですかぁぁぁぁぁ!?」

「くっ、殺せ」


深森姉妹の悔しそうな嘆きがマンションの部屋に響いていたのであった。

なんとか秀頼は貞操を守ったのかもしれない……。

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