27、お互い触れたくない
2組、3組、4組……。
80人弱の女子の名前と顔のリストを見終わるも終わりが見えない。
いちいち反応するのも面倒になり、悠久からも「飽きてるじゃん」と突っ込まれた。
「やっと5組かぁ……。知ってるっすか、悠久先生?俺、去年も今年も5組なんすよ」
「知ってるわよ。あんたのクラス、わたくしが承認しているんだから」
そんな軽口を言いながら、1年5組の女子リストを開く。
「こ、これは!?」
「見付かった!?」
ガバッと起き上がった悠久は、パソコンの画面に視線が吸い込まれていく。
「ははは。乙葉が出席番号1番で草」
「あんたもでしょ……」
赤坂乙葉というメチャクチャ知り合いが出て来て笑ってしまう。
それから綾瀬翔子、五月雨茜、津軽和、細川星子と知り合いの多いクラスのようであった。
「文芸部女子が多いな……」
「ドキドキするわね……。ドキドキな文芸部……」
「なんか違うことイメージするなぁ……」
1年5組の星子のクラスもろくにセレナのような人はいなくて6組に突入する。
違う、違う、違うと女子の選別を進めていくが1年にそれらしい子は見付からなかった。
そのまま2年1組の女子リストへと飛ぶ。
「おぉ!?上松ゆりか!」
「本当にあなたは自分の知り合い大好きね……」
「そりゃあ彼女だもん大好きだよ!見て見て、ゆりかってやっぱりモデル体型してるよね!」
「そういうノロケ気持ち悪いからクリックして進めて」
「2年の女子は半分以上知り合いだからパパっと見ていこう」
広末とか、麻衣様とかをはじめ、2年には知り合いが多いので1年生よりも早くリストを飛ばすことができた。
違う違うと進めると、我が愛するクラスである2年5組のリストにたどり着く。
「女子出席番号1番のアリアだ!見て見てアリア」
ちなみにこのクラスのトータル出席番号1番は俺である。
「絶対必要ないよね!?5組に探し人いないのはわかりきっているでしょ!?6組に行きなさいよ」
「一応ね。一応!あ!絵美ちゃんだ絵美ちゃん!」
「あんたと毎日会ってる子が探し人なわけないでしょうよ……」
なんて元気があったのもこの辺りまで。
2年生全員に3年生全員とリストを見終わった頃にはげっそりしていた。
「目が痛い……」
「ご苦労様……。結局いないんじゃん……。収穫なしってわけね」
「いやいや。そんなことない」
「え?」
ぐっと腕を伸ばしながら、悠久の呟きを否定する。
「収穫なしっていう情報が出たわけだから収穫はあったよ」
「でもそもそもは収穫なかったんでしょ」
「まぁ、元々はね」
「じゃあ収穫なしよ」
「でも収穫あったんだよ」
「収穫なしの確信を得た収穫ありなんて変!それは収穫なし!」
「だから収穫あったんだよ!」
どうしても俺の頑張りを無にしたいのか、収穫なしに持っていきたい悠久である。
「ならさ、念のため他校のギフトアカデミーのリストも見る?」
「念のためと言いつつ悪魔みたいなこと言い出すなや……」
悠久が悪魔のように妖艶に微笑みながら他校のリストをちらつかせる。
さすがにそんなことをする元気も時間も俺にはない。
「まぁ、大丈夫だよ。とりあえず今ので大体絞り込めたから」
「そう?近場の第4か第6辺りは調べた方が確実よ?」
「いや。そこに答えはないと勘が告げている」
「ただただ面倒なだけでしょ?」
「8割はね」
セレナなんていう実在するかしないかもわからない少女探しばかりに躍起になるわけにもいかない。
上松えりなさんに依頼していることもあるし、今回はここが切り上げ時だ。
「そういえば近い内に他校との交流の行事があるんだった」
「他校との交流?」
「そう。第4と第5の生徒の交換留学みたいなやつ!」
「みたいなって……」
第4ギフトアカデミーって確かアリアが通ってたとこだっけ?
交流の行事ねぇ……。
あれ?……そんなの原作にあったっけ?
俺の知らない学校行事に、セレナのことがぶっ飛んだ。
ま、まさか……。
原作の世界から徐々にこの世界がズレてきているとかか……?
な、なんでだ……?
たまに俺の知らない展開が押し寄せてきて、もうほとんど原作知識なんか役立たずになっているのかも……。
原作との違いを考えられるとすれば……、悠久がそんなにタケルと絡みがなくて俺とばっかり雑談しているからかもしれない……。
「その交流会って学園長の案?」
「うん。秀頼が色々な人と知り合いになるきっかけになればと思ってね。学生たちの顔を広げる機会になるかなぁ……なんてね」
「そうなのか」
「今年お試しでやってみようって第4ギフトアカデミーの学園長同士でこないだ意気投合したのよ」
「ふーん」
やっぱりタケルが悠久に絡まないからか、変な行事を思い付いたらしい。
でもちょっと他校のギフトアカデミーとか興味ある。
「交流会で第5から第4に行きたい人も募集する予定。まぁ、開催が今年になるか来年になるかはわからないけどそういう話もあるよってこと」
「なら俺行こうかな。第4ギフトアカデミー行ってみたい」
海外留学のジャパンバージョンみたいなイメージだ。
そんなんワクワクしかしない。
これはおばさん説得してでもやる価値のある交流会である。
「あ、それはなし」
「…………は?え?なんで?」
「あっち行ったらあんたウチに来れないじゃん。絶対ダメよ、秀頼が立候補しても学園長権限で審査落とすし」
「さいですか……」
俺の夢と希望は悠久の学園長権限で打ち砕かれたのであった。
「はぁぁぁぁ……」とため息を付く。
権力には敵わないようだ……。
「がっかりし過ぎよ」
「う、うん。そうだ、悠久に質問あるんだった」
「どうしたの?」
「もし、ギフト所持者でありながらギフトアカデミーに通わない者がいるとしたらそれはどんな境遇の人だ?」
「そうね……。確かにそういう人もいるだろうけど……。考えるなら……」
悠久がうーんと唸りながら回答を出していく。
「義務教育を受けられないような環境に置かれてそもそもギフト陽性が確認できなかった者……。岬麻衣ちゃんの境遇とかはそれに近いわよね」
「え?麻衣様?」
「あ、ごめん……。間違って生徒の境遇を口にしちゃった。忘れ……、麻衣様ってなに?」
「お互い忘れよ」
お互いに都合が悪い話が出て来て、麻衣様のことを考えないようにする。
「あとは、病気やケガなどで学校に通えない者。障害者のような普通の学校の環境では勉強できない者。亡くなった者……。こんな感じかしら」
「なるほど……」
セレナの背景は今悠久が挙げた4パターンほどか……。
果たして該当する者がいるのか。
彼女の複雑な環境が渦巻いているように見えた。