23、ユカちゃん
脳が破壊されたえりなさんが自信満々にセレナの調査に向かい別れることになる。
今日会うべきは残り2人……。
えりなさんと別れた後は1人になり、会うべき1人を呼び出すことになる。
当然、タケルに語った恋愛関係になるわけがない2人目の相手だ。
「エニアーっ!どうせいるんだろ!?この状況を楽しんでいるんだろ!?今すぐ姿を現せっ!」
えりなに続く2人目のストーカーに対して、空に向かい叫ぶ。
しかし、10秒経とうが30秒経とうが幼女神の姿は現れない。
「見て見て!変なこと叫んでる男がいるよユカちゃん!」
「はっ!ああいうキモい厨二病がこの世界には多いのよね。ないわー、あと4年の年を取って中学2年生にはなりたくないわ……」
しかも近所の小学生2人にこそこそと噂される始末である。
人の目があったから登場しないのか、単純に気分じゃないから登場しないのか……。
少なくともエニアは人の目とか気にするタイプには見えないが……。
チラッと小学生2人組を盗み見る。
「あ、こっち見てる……、ユカちゃん……。ロリコンって実在するんだ……」
「キモッ!こっち見んなロリコン!お前、いつも私見てるな!」
「…………」
なんとも言えない気持ちになりすごすご小学生相手に背中を向ける。
たまにあのユカちゃんと呼ばれる子に会うが、あの子俺苦手なんだよね……。
いつもはユカちゃんを連れて逃げ出すお母さんと一緒なのだが、今日は友達と一緒で逃げ出すのは俺になっていた。
(雌豚を屈服させた10分後に小学生に屈服するってなんてギャグ?)と中の人はからかってくる。
まあ、良い。
エニアを呼びつける方法なんか100以上ある。
俺はユカちゃんたちから逃げ出した足で走りだし、1番近所にあった飲食店に向かう。
「いらっしゃいませー」と挨拶されながら、普段は入らないファミレスに入店する。
人の数はまばらですぐに席へ案内される。
「お決まりでしたら」
「このブルーベリーチーズケーキとパンケーキとコーラフロート。全部2個ずつ!」
「かしこまりました!」
たたたたっと厨房に走り出す店員さんのウェイトレス姿のスカートを凝視しながら見送る。
中々のミニスカじゃんと感心していると、『クハッ!パンチラ鑑賞会へのお誘いか?』と目当ての人?の声が向かい合う席から聞こえてくる。
「あ、エニアじゃん」
『クハッ、クハッ。久し振りだなぁ。ロリコン』
「ロリコンじゃねぇよ。シスコンだよ」
『クハァ?シスコンって誇るべきものなのか?この国の人間は昔からよく異名を付けたがる。『第六天魔王』とか『軍神』とか。クハハハハッ!』
「いや、シスコンと並べて良い異名じゃねーよそれ……」
急に申し訳なくなったじゃねーか……。
歴史の教科書に掲載される有名戦国武将に頭を下げたい気分である。
「にしても、ほぼ毎日学校で出会っているのにエニアの姿は本当に久し振りだな……」
『クハッ、恋しかったか人間?』
「正直面倒ごとがなくて平和だった」
『えいっ』
「イデッ!?えっっ!?」
急に店員さんを呼び出すボタンを押すと、俺の頭上から盥が落ちてきた。
頭に鈍い音をしながらぶつかった盥が地面に落ちるのを見て、店の天井に目を向ける。
室内の温度を保つエアコンがあるだけで、盥のセットする引っ掛かりなどなにもなかった。
『クハッ!すまん。『ボタンを押すと盥が落ちる』ギフトを使った』
「なんだそのギフト……」
『まだ誰にもあげてない、今朝神が作ったギフトじゃ』
そういえばギフトってエニアが1個1個作ったのを素質ある人とか、境遇に合わせて配っていたのだったか。
そんな眉唾みたいな設定、前世で語られていた気がする……。
「地味……。何に使えるのそのギフト?」
『ビル火災したビルの中で火災報知器押した時とか……』
「ギフトの所有者を殺す気だな……」
『でも、相手を涙目にさせる程度の破壊力がある自信作のギフトじゃ。クハッ』
「ボタンを押すなんて面倒な行動を取らせなくても俺のギフトだったら誰だって涙目に出来るんだよ」
『えー?明智秀頼のギフトずるくなーい?』
「お前が元凶だろ」
明智秀頼に配ったギフトが『盥落とし』だったらどれだけ平和だったか……。
俺ももう少し、平和なセカンドライフを送れただろうに。
『この素晴らしきギフト、ボタン押すのが大好きな子供に配ってやろう。ふっ』
右手の人差し指の指先にギフトの力を圧縮させたエニアは息を吹きかけるとすっと消失していく。
もしかしてこれ、ギフト配りの様子……?
そんなこんな、エニアの新作ギフト発表会が終わりを告げたみたいであった。
「ど、どんな奴に今のギフトを配った?」
『クハッ。現在8才でファミレスのボタンを押すのが大好き小僧じゃな!最近の悩みはファミレスのボタンからタブレット注文に移行したのが気に食わんらしい』
「そ、そうか……」
よく知らん男の子が、将来俺の後輩となるギフトアカデミーへの入学が決定的になった瞬間である。
『早くブルーベリーチーズケーキ来ないかの……。くはっ……』
そんなノリで明智秀頼の人生もエニアに狂わされたと思うと、イラッとする。
『待つのめんどい……。店壊そうかな……』とやる気ないエニアの声に俺はゾッとしていた。
可愛らしい姿はしているが、中身は畜生。
こいつとわかりあえることなんかないんだろうとこの世界のラスボスに恐怖を抱くのであった。
「お待たせしました!ブルーベリーチーズケーキとパンケーキとコーラフロートです!…………あれ?お客様、女の子なんていましたっけ?」
「待ち合わせです」
「はぁ……。年の差激しそうっすね……。兄妹かなんかですか?」
「あはは……。ど、どうですかね……?」
「あ、ただのロリコンか」
『やるな小娘!貴様は見る目がある!クハッ、実はこやつと神の年齢差にすると1万年以上差があるぞ!』
「はぁ……。子供の戯れ言か……」
俺とエニアを怪訝な目で見ると「ごゆっくりどうぞ……」と、早く帰って欲しそうな声で呟いた。
そして、そそくさと厨房の方へ逃げていった……。
「絶対裏で俺らの悪口始まるって……。気持ち悪い客だってあのファミレスの姉ちゃんから誤解されてるよ……」
『くは?』
俺は非常に頭が痛くなってきた……。