20、探偵失格
それからはちょいちょいタケルや絵美に絡まれることはあったものの、特にセレナとやり取りをすることはなく時間は過ぎていく。
基本的にこの世界、タケルを好きな人ほど俺に対する初期の好感度が低くなりがちなのだ(ヨルとかヨルとかヨルとか)。
あとは、肌がやや黒く目付きが鋭くて悪人顔の俺は結構見た目で敬遠されることも珍しくない。
子供の時はそんなことはなかったんだけど身体が成長するにつれ、見た目がどんどん悪役の明智秀頼に収束していった。
詠美や絵美、理沙たちなどは俺がもっと大きくなってから出会ったらここまで親しい仲にはなってなかったかも……。
子供フィルターはマイルドだった悪役フィルターは、高校生にもなるとほぼ全て剥がされた状態なのだ。
「ん……?」
そんな感じでセレナと彼女観察を続けているとスマホのバイブが鳴り、メッセージに気付く。
理沙か、他の彼女たちからのモノと思ったが、メッセージの差出人を見れば見慣れない名前が表示され、眉がピクッとつり上がる。
今から会う予定の人から、早く来いという催促の話題に仕方ないかと移動を始める。
そのまま少し離れていたタケルの背中を触る。
これから女と会うので極力絵美たちに悟られないように気を配っていた。
「どうした秀頼?」
「今から俺はトイレに行く。そしてその帰り道にここまで来るのに迷う」
「は?」
「だから俺抜きでみんなと帰ってくれ。じゃっ!」
「お、おい!?なんじゃそりゃ!?」
「わりぃ。今日は家に帰らないかもしれないから」
おばさんにも連絡しとかないと。
今から3人の人物と会うし、わりと忙しい時間が始まりそうだ。
「なんなんだよ、いつもいつもコソコソと1人でなにか背負うように逃げて単独行動してさ……。こういう時くらい、最後まで一緒に居てくれよ……」
「お前は相変わらず寂しがり屋なんだから。大丈夫だよ、逃げるんじゃなくて進むために行動するんだよ。大丈夫、この俺の行動の結果が必ずお前とセレナにとって良いモノに変えてみせるから」
「秀頼……」
「セレナの未来には暗雲が見える。ちょっとその暗雲を払いに行ってくるだけさ」
「お、おい……」
タケルを説得してこのまま待ち合わせしている人と合流を急ぐ。
本当はこのまま絵美、星子、詠美、美月、美鈴、三島とのデートを楽しみたいところだったのだけれど、残念ながら待ち合わせ人はそれを待ってくれるほど暇な人ではなかったようだ。
そのまま指示通り公園を出ると、紺色の長い髪を整えていて姿勢良いピシッと立っているスーツ姿の知人が視界に見えた。
タケルに語った俺と恋人になるわけがない今から会う3人の内の1人が彼女である。
やっぱりどことなく俺の恋人であるあの子にそっくりな気がする。
「はぁぁ……。まったく素人である君が我を見付けてしまうなど探偵失格ではないですか」
「お久し振りですね上松さん」
「そのうさんくさい笑みをやめないか!我、明智秀頼を多大に警戒している!」
「むしろあなたがずっと着いて来ていて警戒される対象ですからね?」
「ぐぐ……。いつから我があなたたちをマークしていたことに気付いた?」
「最初からです」
「最初から!?」
この女、セレナと会う前から俺に着いて来ていた。
いや、正確には俺に着いていたわけではなさそうだが……。
「正確には美月と美鈴と合流してからですね。あれからなんとなく付けられた気配があった。また深森家からの探偵の依頼ですか?そこにたまたま俺が合流してしまった。そんな流れですかね?」
「え?こわっ……」
先ほどセレナの撮影している時のどさくさで、インカメにしている際に俺の後方から上松さんの姿をキャッチして確信したのであった。
にしてもまたこの人と会うことになるとは奇妙な縁である。
「俺は上松さんが深森家に雇われたことを知った時から、常にあんたが俺の日常をストーカーしているという可能性を持って生活している。いるかもしれないという先入観があれば、尾行されれば気付けるものです」
「え?神?……わ、我を弟子に取りませんか?」
「取りません。そういうのは1人で充分です」
そもそも俺は最近、自称弟子に対してデート以外なにかしたことがあったっけ……?
バッティングセンターでそれっぽいことをしてから1回も無いかもしれない。
「ふふっ……。ならその1番弟子を始末したら自動的に我が明智秀頼の弟子に繰り上がりますね」
「そんなシステムありませんから!それに絶対その喧嘩、買っちゃう人なんだから!」
ゆりかなら涼しい顔して『ふっ、来い』とか言っちゃうタイプである。
ヨルと同レベルの狂犬を侮ってはいけない。
「もちろん我は抵抗するで?拳で!」
「お願いですから無益な争いはやめてください!」
やたらゆりかに対してバチバチに火花を散らすのはなんなのだろうか……。
「そういえば最近まで、記憶を失っていたみたいで。あの時は全然我の尾行に気付かなかったのに記憶が戻った途端にすぐバレるなんて悔しいじゃないですか!」
「あの時すら俺は尾行されてたのかよ。逆に顔を合わせなくて良かったよ」
多分会っていたら、またまた混乱が強くなっていただろうし。
「しかし、凄いね君。よく我の電話番号を調べたもんだ」
「調べたもなにもあんたから名刺をもらってすぐに番号登録したんだよ」
「え!?マジ!?名刺渡したんだっけ!?」
自信満々に『なにか探偵の仕事があればこの連絡先を使えば我に電話が行くんだからね!他の探偵を頼ったら許さないわよ』とかなんとか言っていたのに記憶にないらしい。
「なんで番号登録したの!?」
「そりゃあ美人が連絡先くれたら登録するでしょ。男として基本」
「び、びびびびび美人!?」
「電撃でもくらった?」
「あばばばばばば!」
「ピ●チュウ!」
自身がピ●チュウになりスマブラみたいなB必殺技の電気ショックを上松さんに当てている気分になる。
「び、美人なんてはじめて言われたぁ……!我、人生ではじめて口説かれてる……」
「口説いてないよ」
なんでこうも俺の知り合いの成人女性はこんなにみんながバラエティー豊かに違う方向でダメ女が多いんだろう。
むしろ年下である星子や天使ちゃんや乙葉たちの方がしっかりしているまである。