19、十文字タケルの考え方
わりと居ないもの扱いにされながらセレナを観察していると色々な違和感が彼女から見て取れる。
結構ベタベタと絵美や美月たちにボディタッチが多い気がする。
女子同士だし、特に違和感がある光景ではない……。
はずなのだが、その手付きはやや自然のモノとは認識出来ない。
その手付きはまるで自分はなにもおかしくないと確認するかのような感じがする。
──自分の存在は彼女たちと同じ。
そういう訴えに見える。
「どうした秀頼?暇そうにして?」
「暇じゃねーよ。俺、この用事終わったら3人と会う人いるんだ。これでも予定カッツカツなんだよ」
「え?知らないんだけど?それなら無理に誘わなかったのに……」
「良いんだよ。全部の用事が思い付きだから」
タケルも女子にセレナの相手をさせていて、こちらにやって来た。
というか、既に1人はすぐそこに待機させている。
「どうせ会う人全員女だろ?」
「まあねー。でも、絶対恋愛関係になるような人たちじゃないから安心してくれ」
「世の中には絶対なんて言葉はないんだぜ、秀頼」
「あ?」
タケルがなにか指摘する感じに声を上げる。
「世の中100パーセントと0パーセントはないんだよ」
「なんだそれ?」
「親父の受け売りなんだけど100パーセント成功する手術も、0パーセントの成功確率の手術も存在しないんだと。だから0と100はないって昔から聞かされてきた。だからもしかしたら秀頼も今から会う人3人と付き合うかも……」
「だから絶対ないっての……」
「わかんないの!どんなに可能性が低くても1パーセントはあるの!絶対って言葉を軽々しく使ってダメなの!」
何故か変なところが譲れないらしい。
「絶対に100パーセントと0パーセントはないの!」
「絶対って軽々しくお前が使ってんじゃん」
良いこと言った風なのに、最後の最後で台無しである。
全員に配った冷えた味ランダムたい焼きを口にしながら、タケルに純粋な疑問を投げ掛ける。
「セレナはボディタッチが多いが、元からああいう子なのか?」
「ボディタッチ?そういやさっき佐木に触ってたな。あ、今は三島に触ってる」
「そうだな……」
三島の本気『エナジードレイン』にセレナが触ったらどうなるんだろう?
なんて、ギフト研究家な原作の悪役秀頼みたいなことを思い付いたりしたが、それは置いておく。
「別に俺にボディタッチはそんなにしないんだけど……。でも、何回かぶつかった時あるんだけど、触る度にしょっちゅう静電気起こしちゃうみたいでさ。俺とセレナの身体の相性は悪いみたいだ」
「身体の相性……」
「お前から復唱されると変な意味に聞こえるんだが!?」
そりゃあ、お前……。
──『アンチギフト』が効いているだけなんじゃ……。
しかし、タケルは自分のギフト体質が静電気の正体だと気付いてはいないみたいだ。
「でもその静電気、俺に痛みは一切ないんだよ。そういう出来事が1回だけじゃなく数回あって……。それで変だなってなって、お前にセレナを見て欲しいと思ったんだ」
「なるほどね……」
「あと、少し彼女の影が人より薄いのも気になってさ……。はじめて会った時はそんなこと感じなかったんだけど……」
「影……」
太陽を受けて地面に伸びる影に注目する。
確かに絵美たちの影は黒く立派に伸びているなら、セレナの影はグレーに見えなくもない。
「タイムリミットってやつかな……」
「タイムリミット?」
「いや、なんでもない。単に雲が出てきたからそう見えるだけなんじゃね?雲が陰ると影は薄くなるよ」
「そ、それは確かに」
タケルは空の雲を確認すると、なるほどと頷く。
タケル相手だから誤魔化せているが、わりとアニメで放映されたセレナの最後が刻一刻と迫ってきている。
そういうことなんだが、結局セレナがなんだったのかはまったく明かされることなく退場する。
アニメの尺稼ぎだなんだとアヤ氏みたいに彼女の存在意義を唱える人も珍しくないくらいに、彼女の正体は俺も知らない。
ただ、タケルの目の前で消えてフェードアウト。
原作にも登場しないキャラクターだから、セレナ消滅に原作シナリオは一切影響しない。
そんな寄り道のようなセレナシナリオ。
このアニメを担当した監督は、よくこういう原作レ●プをやらかす人として悪い意味で有名な人だった。
セレナもそういう原作レ●プの被害者なのかもしれない。
ただ、セレナ消滅に関しては考察勢がシュバババとあれやこれやと論争を巻き起こしたのも事実である。
彼女の正体はなんだったのか?
彼女はそもそも人間だったのか?
セレナはエニアの刺客だったのか?
などなど。
そんな考察勢の琴線に触れたのか、アニメ勢だった人たちも答えが載っているわけもない原作3部作を買い漁るというオタク界隈の変な社会現象にもなっていた。
ギャルゲーをしない層までファンを取り込んだという意味では、実はそこそこセレナの功績は大きかったりする。
セレナの正体に気付いていたとされるのは、なにを隠そう明智秀頼である。
タケルからセレナを紹介された後日、『あの女には深く関わらない方が良いぞぉ?』とニヤニヤした薄ら笑いをした忠告をした悪役の親友。
セレナの正体とも呼べる伏線はこれしかない。
「…………」
もう泣いて良いかな……?
なんでこんな原作者も知らない謎に挑まないといけないのかなぁ……。
わかるわけないじゃないか……。
そもそもこの謎に挑まないといけないのか?
明智秀頼の死亡フラグに関係ない以上、全力でスルー安定のフラグである。
ただ、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズの一ファンとしてセレナの正体を暴きたい欲も出てくる。
明かされなかった謎が、そこにあるならそりゃあ確かめたいよなぁ?
円なら絶対に見て見ぬ振りをするだろうが、俺のセレナに対する好奇心は止められるものではなさそうだ。