15、深森美月は盗撮を非難する
「理沙からセレナの写真が見たいって連絡きとる……」
「これあれだな。なんとなく理沙の向こう側にいつものメンバーの影が見える……」
「またマスターの店に集まっているんですわね……」
「あ、明智さん!ぼ、ボクにもスマホ画面見せてください!」
ぎゅうぎゅう詰めのように集まり、小さなスマホ画面1つを4人で見るのが無理なわけで、かなり窮屈である。
彼女3人の胸が俺の身体1つに密着しているという状況に、絵美たちを待たせているのに性的興奮を覚えるなというのが無理であって顔が赤くなる。
なにやってんだ俺……。
人に見られているのに……。
「とりあえずこそっと隠れて撮影してみるか!美月、ちょっと飲み物とたい焼き持ってて!」
「このメンバーでわたくしが秀頼の変わりの荷物運びに選ばれたことに大変不本意なんだが?」
「撮影終わったらまた荷物持つからさ」
密着された状況から抜け出し、2歩前に出る。
スマホをカメラ状態にして理沙のお願いに応える。
「というか、黙って撮影するのは盗撮なんだが……。盗撮というのは人間のクズがすることなんだぞ秀頼」
美月からの正論パンチだったが、俺はその程度で止まらなかった。
「パンツじゃないなら良いじゃん」
「美鈴の黒パンツなら許しますわ!」
「いや、そういうの──え?黒パンツなの?ヒラヒラの?」
「ヒラヒラですわ!」
「食い付かないでください!食い付かせないでください!」
三島からの制止にハッとする。
美鈴の黒パンツを想像してしまい、セレナはどうでも良いかもとか逸れてしまった。
「それに俺は今から彼女である絵美たちの楽しそうにしているところを撮影するんだ。彼女を撮影するのに、盗撮はないんじゃないのぉ?それにひょっこりセレナが写っちゃうだけで」
「明らかに無罪ですわ!」
「うーん、これは無罪ですね!」
「こうやって不正は連鎖するんだな……」
秀頼の言い分に美鈴も三島も同意してしまい、美月は「それなら良いか……」と同意を示す。
真面目な彼女だからこそ、納得いかないといった表情が見て取れた。
全会一致で盗撮じゃないことになり、絵美やタケルにフレームを当てつつセレナが写るようにスマホを動かした時にふとした違和感に気付く。
「あれ?」
「どうしましたか明智さん?」
「セレナがスマホ画面に写らねぇ……」
「まさかそんな……、って本当じゃないですか!?カメラ越しだと絵美たちは誰と話しているんですのって驚愕するんですけど!?」
美鈴と三島もその異変に気付く。
美月も俺のスマホ画面を見て息を飲む。
セレナのいる箇所にはなにもなく、スマホの画面には背景しか映らない。
「か、彼は一体なにと恋愛しているんですの……?」
「この世のものじゃない……。甲冑さんの仲間だ……。し、知り合いですか?」
「遥香はなにに尋ねているんですの!?」
甲冑に取り憑かれた?らしい三島が甲冑と会話しているが当然俺らにもわからない。
俺でいう中の人みたいなものか?
イマジナリーフレンドが住みついてる人って珍しくないのかな……?
(誰がイマジナリーフレンドだ死ね。てめぇとはフレンドでもなんでもねぇ)
中の人本人が不服の意思を見せる。
ここで反応を示すと美鈴たちに変な目で見られかねないので知らない振りをして聞き流す。
「もしかして十文字さんのギフトは『イマジナリーフレンドを実体化』させるギフトなんですかね?」
「なに、その悲しいギフト……」
イマジナリーフレンドの女の子に恋してるってこと?
なにそれ?
本当にギャルゲーでありそうな設定をお出しされても困惑する。
そもそもタケルのギフトはそんな能力ではない。
「これは単に秀頼のスマホがおかしいんじゃないのか?わたくしのスマホでセレナを撮影してみようじゃないか」
隣にいた三島に荷物を渡すと、美月が自分のスマホを取り出す。
数秒ポチポチと操作して、カメラ機能を立ち上げてセレナにカメラを向ける。
「美月……。盗撮ってのは人間のクズがすることなんだぞ……」
「最低ですお姉様……」
「美月さんが人間のクズだったなんて……」
「だからなんで毎回わたくしだけがこういう弄りをされるんだ!虐めだ!こんなの虐めじゃないか!」
「美月可愛い」
「この男ぉ……!」
羞恥した赤い顔になりながらスマホの握っていない左手でぽかぽかと叩いてくる。
利き腕ではない彼女の左手の殴りなど痛くもかゆくもなかった。
「そういうの良いから早く確認しませんこと?」
「わかってるよ!たまには美鈴が弄られろ!」
「じゃあ秀頼様、美鈴を弄ってくださいませ」
「え?」
「ボクも明智さんに弄られた時ないです!弄ってください!」
「え?」
逆に弄れと言われてもまったく弄る要素もなく、困惑する。
無理って目で美月を見ると「扱いの差が酷い!」と文句が垂れた。
「じゃあ弄れる美月が特別なんじゃね?」
「そんなの嬉しくないではないか!」
「ところで早くセレナを盗撮しないの?」
「またわたくしを弄った!あとやっぱり写らない!」
撮影しようとするスマホの映像にも写らず、シャッターを切ってもどうやらダメだったようだ。
「秀頼様のスマホがおかしいみたいな言い方でしたが、お姉様のスマホもおかしかったみたいですね」
「ここだけで何回わたくしは弄られるのだ……?」
「まあまあ。美月さんにみんな親しみを感じやすいんですよ」
「抜けていますしね」
「おかしい……。絶対おかしい……」
三島に慰められている美月を傍目で見ながら、スマホの操作を切り替える。
「あれ?秀頼様、メインカメラからインカメに変えてどうしたんですか?」
「…………あぁ、ちょっとね」
中の人が(イチャイチャしながら抜けている振りして喰えない奴だなお前……)と呆れたように言ってくる。
「もしかして自撮りしながら美鈴とツーショットで撮影しますか!?」
「いいよ、するする」
「あ!ずるいぞ美鈴!?」
「ボクもツーショットで写りたいです!はい、美月さんに荷物返します!」
「そもそもこれ、秀頼の荷物だからな!?」
お互いに荷物を押し付けあっていた。
美鈴に抱き付かれたままツーショットを撮影しながらセレナってなんなんだろうな?と1人疑問を浮かべていた。