13、三島遥香は感じてしまう
先ほど4人と合流したラインほどまで美月に引きずられてしまい、服が伸びていないか心配しながら形の崩れた襟を直す。
美鈴と三島という2人の同行者の顔も見ながら3人は一体俺になにを言いたいのか。
この3人の共通点は……。
──素敵な人たちという、まったくとんちんかんなことしか浮かばなかった。
それどころか残った4人も素敵な人たちである。
「お姉様も遥香もやはり気付きましたか?」
「あれは気付くなというのが無理だろう」
「ボクは未だに信じられませんよ……」
彼女らは冷や汗をかきながら、なにかについて感想を述べている。
なにかとはなにかを考えると、やはりそれは……。
「君たちが引っ掛かったのはセレナのことか?」
「流石秀頼様です!」
「やっぱり明智さんなら気付きますよね!?」
「ま、ギフト所持者なら気付かないわけがないがな……」
「そうだな」
あの場にいる詠美以外の3人共ギフト所持者なのにまったく気付いていない気がするが……。
察しが悪い長い付き合いのタケルと絵美と星子がとたんに頼りなくなるような美月の指摘である。
「あれが詠美が言っていたこの世ならざる者の正体そのものじゃないのか!?」
「あれは確かにおぞましいなにかでしたわ……」
「多分ギフトの力です。ボク、一目で『エナジードレイン』と同じ悪い力を感じたのです……」
「『エナジードレイン』ってなんですのお姉様?アニメとかだとたまに聞きますが?」
「さぁ……?わたくしはアニメもよく知らないしなぁ」
「いや、君たちは三島のギフトそのものを知らないんかい!」
ギフトを知らないなら、三島がいることそのものに疑問を持ちそうだが……。
「悪い力をセレナさんから感じるのは同意です。美鈴もあの忌まわしき紋章と同じ禍々しさが彼女全体から伝わりました……」
「わたくしもギフトの力を一身に浴びるギフトだからかな。すぐにギフトの力の根元だと察したよ」
「ふーん」
アニメの知識がなかったら、なんも知らん側として絵美たちと居ただろう。
それくらい、別にセレナに関して一目でおかしいと感じるものはなかったわけだ。
つまり、この3人がやたら感覚が鋭いだけである。
タケルらはおかしくない、と思う。
「でも、流石明智さんです!」
「え?」
「あぁ。まさか、わたくしたちみたいに彼女がギフトの力の集合体ではないかとよく察せられたもんだ」
「いつも頼りにしてますよ、秀頼様ぁ!」
「あ、あぁ!」
原作とアニメの知識ありきなのに、変な尊敬を受けてしまい、後ろめたさがすごい。
ピュアに驚かれる3人のキラキラした視線で多大なダメージを受ける。
光属性3人のピュアな眼差しは、闇属性の俺には自分の傷口を抉るものである。
「なんなんでしょうね、セレナさんって……。ゲームのアバターみたいです……。十文字さん、存在しない女の子にお熱ですか?」
「実際にそういう人を見ると……、なんかこう……、アレだな……」
「お姉様のそれ、オブラートに包んだつもりですか?」
「…………」
前世では存在しない女の子である永遠ちゃんにお熱だった俺は、美月のさりげない一言に今日一どころか、今月一の爆発的な胸の痛みが襲う。
俺にとっちゃ、この世界のヒロインたちみんな存在しない女の子……。
「げ、ゲームのアバターか。言い得て妙だな……」
咄嗟に話題を変えるように促す。
これ以上、無闇に変なダメージは受けないように心がける。
この急な話題転換であるが、三島たちは強くその議題に吊られていく。
「ですよね!本物の肉体がどこかにあるのか、本当に存在しないアバターのような存在なのか、それとも死後にも適用するギフトなのかは一切わかりませんが……」
「それとも星子のギフトの『キャラメイク』だったか?あれみたいに人の姿を変えるギフトとかではないのか?」
「でも、なんとなく姿を変える系のギフトとは雰囲気が違う気がしますわ……。星子さんのギフトはあんなにギフトの力が濃くありませんし……。秀頼様が千姫さんから女性に変えられた際もギフトの力はそんなに感じられませんでした……。姿を変えるギフトとはまた一線を画すものと定義されるべきでは?」
この子たち3人でセレナのギフト能力を推理しつつある。
優秀過ぎて、俺いらねーなこれ。
路線変更して三島、美月、美鈴の3人でギフトの問題解決する非日常SFファンタジーの物語に変わっても許容出来そうである。
「そもそも十文字さんとセレナさんを会わせて大丈夫なのでしょうか?」
「あんなに女に浮かれたタケルに会うなというのも酷よな……」
「あの人、性欲あったんですね……」
なんかタケルが可哀想な人扱いされつつある。
普段からどんな目で見られていたのか、察せられるだけにあいつの春を邪魔したくないなぁという気持ちも強い。
「秀頼様!美鈴たちにできることはないでしょうか!?」
「静観かなー……。ま、なんとかなるっしょ」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。外野の俺たちがとやかく言うもんじゃないさ。見守ってやろうよ」
「秀頼がそう言うならわかった。見守ってやるか」
俺が取ったのは静観──という名の現状維持である。
タケルちゃんだってあれでもギャルゲー主人公なのだ。
なんとか乗り越えてみせるはずである。
なにより、俺に対して10人以上の恋愛を見届けてきてくれたタケルの恋愛を温かく見守ってあげたい。
こうして4人のセレナ議論については、様子見という結論に達したのである。