11、深森美鈴のときめき
「この3人揃うの久し振りだねー」
「クラスバラバラになってからははじめてかもな」
「なんか感動しちゃいますね」
「…………美鈴は入ってませんが?」
自然公園で4人の女性集団が集まっていた。
その中で詠美、美月、遥香、美鈴の順番で各々の感想を述べる。
去年まで同じクラスだった詠美たちの輪の中に、違うクラスの美鈴がポツンと加えられていた。
「今のクラスも楽しいけど、ハルカとミツキと一緒だった去年のクラスも良かったねー」
「美鈴は完全に去年のクラスの方が良いですけどねっ!」
「そんなに美鈴さんの今年のクラスハズレですか?」
「ハズレとか当たりとかそういう次元の話ではないのです!秀頼様がクラスに居ないだけで評価に値しないだけの話ということですわ!詠美さんが同クラなのに嫉妬を覚えるほどに」
「わたくしと遥香はそもそも秀頼と同じクラスになったことすらないんだが?」
美月の発言に「う……」と遥香も痛いところを付かれた顔になる。
なんやかんや2人も秀頼と同じクラスになったことがないのに不服な気持ちがあったのだ。
「それにしても今日は何しましょうか?」
普通に遊ぶ約束をしていた4人だが、ランチを一緒にする程度でノープラン集団である。
みんな男とデートなら色々と計画を立てるのに、女と遊ぶとなるとみんな受け身になっていた。
結果、全員ノープランということになり待ち合わせ場所だった自然公園から出られないでいた。
「ボーリングいこっ!ボーリング!私、やったことないんだよボーリング!」
「ボーリングはダメですわ……。美鈴はすぐに腕が痛くなります故……」
「あれはダメだ。筋肉痛で2日は死ぬ……」
「深森姉妹よわぁ……」
詠美の提案にイヤイヤと文句を垂れる深森姉妹。
同じ言い分で拒否しているところでおもしろくなった遥香がクスクスと笑う。
「んじゃ、どーしよー」と詠美が項垂れる。
「ハルカはなんかある?」
「ボクもボーリングは苦手で……。ボール転がす時、胸当たっちゃうと痛いし……」
「もうボーリングの意見聞いてないから!というかなんでそんなにみんなボーリング行ってるの!?私、誘われてないんだけど!?」
「遥香さん、しれっと巨乳自慢しましたね……」
「私からしたらハルカもミスズも大きいのよ!」
「わたくしは?ねえ?わたくしは?わたくしも詠美より胸あると思うんだが?」
詠美も絵美同様、そんなに胸がない。
ご先祖様の貧乳遺伝子が佐木家と佐々木家にあるのかもしれない。
「詠美さんが明智さんと付き合う前だったかな?去年の秋に明智さんと付き合っている人たち全員でボーリングしたんですよ」
「くぅっ!ハルカに先に付き合っているマウント取られた!」
「たまに秀頼と幼馴染みマウント取る奴が何を言っているんだ?」
「もうなんか決めません?やっている話がいつもの教室とまったく一緒なんですよ」
4人共プライベート用の気合いを入れたオシャレをしているのに、ただ駄弁っているだけのことを咎める美鈴。
「動くかー……」と詠美が脱力した声を出していた。
「ん……!?」
「どうした美鈴!?」
「何故かときめきを感じましたわ……。秀頼様以外にこのようなときめきを感じる時なんてないのに」
「いや、そんなこと知らないが……」
「ひぃ君以外にときめく相手がこの公園にいるのかもねー」
「それは美鈴の名にかけてあり得ませんわ」
しかし、本当に秀頼に会う前の虫の知らせのようなソワソワした感じが美鈴の中で起きている。
ちょっとだけ美鈴に緊張が走っていると、近くにいた遥香が「あ!」と声を上げる。
「明智さんたちだ!」
─────
「方向はこっちで良いんだよな?」
「こっちで大丈夫だ」
「そもそも会えない可能性とかないの?十文字君、事前に連絡してる?」
「いや。事前に連絡しなくても絶対いる」
「その人の予定とかないんですか!?」
「ずっと暇って言ってた!」
俺、絵美、星子からの質問責めを見事に捌いていくタケル。
タケル主導という珍しい構図だが、今日ばかりはそれに従って動いていた。
「おはようございます、秀頼様!」
「おはよ…………。えぇぇぇぇ!?美鈴!?」
「素敵な反応いただきました!」
そんな中、突然現れた彼女の1人の襲来に足を止める。
呑気に絵美が「おはよー美鈴」と挨拶しながら手を振っていた。
「な、なんで深森妹が……!?」
「美鈴だけじゃなくてお姉様やその他もいますわ」
「誰がその他だ!絞めるかハルカ」
「絞めましょう」
「なんでノリノリなんですの!?」
「その他とか言ったからだろ……」
「めっちゃいるじゃん……」
タケルが疲れたような声を出して、見えないように弱いパンチを俺の脇腹に叩き込んでくる。
正直すまんかったという気持ちでいっぱいである。
「というかどんなメンバーだ?今から何するんだ?」
「あぁ。今からタケルの想い人と会いに行くために俺たちが駆り出された」
「えっ!?ジューモンジの好きな人!見たい見たい!着いてったら会える!?」
「おい、ふざけんなよ!?8人は過剰だって!?」
「大丈夫ですよタケル先輩。たい焼きはまだ余ってます」
「そんな心配してないから!?」
「お姉さまからたい焼きたくさん買ってもらって助かりましたね!」
「え?巫女さんをお姉さまのままで通すの?」
「そこどうでも良いだろ!?佐々木が巫女さんをなんて呼ぶかとか突っ込まなくて良いから」
「み、巫女さん?巫女さんって誰ですか?」
「三島も気にしないで良いから!まずみんな、声を静かにしてくれ!」
「タケルが1番うるさいが?」
「お姉様に同意」
「だまらっしゃい!」
全員の注目を浴び、とりあえず全員を静かにさせた。
「はあはあ」とタケルは大声を出したからか、少し息切れしている。
「大変だなタケル」
「このメンバー全員と付き合っていられるお前の大変さが身に染みているんだが?」
「まだ一部だよ」
永遠ちゃんとか、ゆりかとか不在だし。
「すでにこの人数でも狂気なんだよ」
「お前にもそのポテンシャルあるって」
「なくて良いよ」
ギャルゲー主人公。
しかもハーレムルート突入も可能。
俺なんかよりよっぽど複数人の女の子と付き合えるポテンシャルの塊のような男だと思うけどね。
「早く行こーよ、ジューモンジ!ひぃ君も楽しみなんでしょ!?」
「めっちゃ楽しみ」
「マジで佐木らも来るのかよ……」
予定を美鈴に尋ねたら「暇でしたから」と返答された。
ならなんで4人で集まっていたのだろうか……。
こうして8人でセレナと会うことに決まったのであった。