8、思い出した記憶
「そういえばお前さ、クラスのアリアから『記憶が蘇る薬』みたいなの飲まされたんだろ」
「あれが薬かどうかは議論したいところだがな……。不味いし、死にかけるし、色かヤバいし、薬じゃなくて毒だし。それに不味いし、不味い」
「よっぽど不味かったんだね……」
「逆に見てみたいです。そのアリア先輩?が持ってきた薬」
タケルからアリアから渡された薬の話を振られると、みんなも興味があるのか絵美も星子も食い付いてきた。
喋れないように口を抑えられて、吐き出さないように一滴残らず飲まそうと拘束し、2時間は身体が破裂するからと水を飲まないように禁則事項を出されてと色々な縛りが拷問に収束するのは辛い出来事であった……。
「あれ飲んで効果あったの?」
「確かに。茜ちゃんから記憶戻してもらったのに意味ないんじゃない?」
「そんなことはない。色々と思い出したさ。忘れかけていたこととかもたくさん思い出したよ」
「そうなの?」
「あぁ。中学時代の絵美と咲夜と永遠ちゃんと理沙と円の水着の柄とかな。ふっ、あの時のみんなの腋に注目したこととかね」
「ロクなこと思い出しませんね……。あと!それ、私入ってないのが理不尽です!私も海とかプールとか行きたいです!」
それはスターチャイルドの予定次第……。
多分、夏休みなんかはずっと暇しているイメージしかない。
「そういえば夏だとスタチャの水着写真集出るな」
「拝むしかないな」
「なんで男はすぐそういう話行くかな……」
「たまには私じゃなくてお兄ちゃんの写真集欲しいです!」
「需要が……」
「わたしも欲しいよ?」
「からかうのはやめてくれ……」
真顔で絵美と星子が明智秀頼の写真集なるものに興味津々らしいが、そんなおぞましいモノに価値なんてないだろうに……。
でもよくよく考えれば、ゆりかとか美鈴とかも欲しがりそうなのが困る……。
「もっとなんかわたしたちが知らないエピソードの記憶が戻った話とか聞きたい!」
「知らないエピソードの記憶?」
「確かに!お兄ちゃんの子供時代のかわいらしい記憶とか」
「…………」
子供時代のかわいらしい記憶?
虐待されて、全身アザだらけで、毎日血まみれだった悲惨なモノしかないですが?
逆に俺が真顔になった。
多分そういうエピソードは求められてないだろう。
大真面目に虐待エピソードを語ったらドン引き間違いなしだ……。
もうちょっとエンタメに富んだ話がないかと思考すると、前世の記憶まで飛んだ。
「あ!俺のじいちゃんの話とか」
「え?秀頼君のおじいちゃん?」
「あぁ。昔、じいちゃんは弟子のグリリンさんに暗殺されたんだけどその人が実は鰐仙人で術天老師と呼ばれた偉人?だった!」
「真顔で嘘付かないでください!私の祖父に鰐仙人なんていませんからっ!」
「星子ちゃん……。今のは秀頼君の秀頼ギャグだよ」
「お前はいつも脈絡のないギャグとか突拍子なジョークが好きだもんな」
「え?」
絵美とタケルの中では、さっきのエピソードはジョーク扱いのようだった……。
「わたしが初対面の時、『ブランコはブラコンに似てる』みたいな戸惑うギャグ披露してましたね。あんなの子供には通じませんよ」
「はい……」
10年ほど前の本人もあまり覚えていないようなジョークにダメ出しされてしまうのだった。
「そういや秀頼って昔から子供っぽいギャグしないよな。腹芸とか安易な下ネタとかそういうの(チ●コとかおっぱいとかの連呼だけで笑わすやつ)」
「秀頼君、そういうギャグしなかったねー。……安易じゃない変態チックな下ネタは多いけど」
「そういうのはつまんないって俺、生まれる前から知ってたから。女子からしたら幼くてドン引きするでしょ?」
「そこだけ妙に達観しているのはなんなの!?」
「下ネタだけでアウトなんです!」
それこそ前世の小学生時代にチ●コだけで笑わすギャグみたいなは卒業したのであった。
死ぬ間際はギャルゲーばかりやっていたからか、ギャルゲーのようなギャグを好んでしまっていたのは認める。
「逆に俺は星子の子供時代とか知りたいな」
「普通です」
「4文字で星子ちゃんの人生語り終わったんだけど……」
星子が「んー……」と頭を悩ませる。
「別に面白い話しなくて良いよ」と指摘すると、「ほとんどの人の人生がお兄ちゃんみたいに面白い人生歩んでないんですよ」とさらっと返された。
「お兄ちゃんや絵美先輩が期待しているような過去なんかありませんよ。ただ、見たことない兄と会ってみたくて期待に胸が膨らんでいました!」
「めっちゃ良い子や……!」
「せいこちゃぁぁぁん!」
「これがウチの妹なんです!可愛い……」
「私だけ子供に接するみたいな反応やめてください!これでも皆さんと1つしか変わらないんですからね!?」
3人して、星子を真っ直ぐに成長した自分の娘を見るかのような輝いた目で見ていた……。
「もし、秀頼がゲスで星子ちゃんの存在を受け入れないクズ野郎だったらどうなってたと思う?」
「グレてましたね。お兄ちゃんと仲良しな人、全員軽蔑してたでしょう」
「怖いからそういう話するのやめて……」
そんな雑談に華を咲かせていると、ミルクたいと書かれた看板のお店が見えてきた。
「ここのたい焼き種類豊富でいろんな味あるんだよ!」と嬉しそうに語る。
「へー」と相づちを打つ。
しかし、俺も絵美も星子もそもそも入ったことのある店なのでにこやかにして黙っていた。
しかも、記憶喪失になった時もこの店のたい焼きの差し入れももらってたんだよなぁ……。
実に反応に困る。
永遠ちゃんからオススメの店があると勧められたらマスターの店で、知らない振りをしてやり過ごそうとしたが大失敗したデートのことが嫌でも思い出された。
「俺ら3人クリームで良いよ。店の外で待ってる」
「お願いします十文字君」
「出来立て期待してます」
「なんでだよ!?せっかくなら行こうぜ!?自分の目で選びたいじゃん!俺だけパシリみたいに扱うなよ!?」
4人もいるのに1人だけで買いに行くのは寂しいらしいタケルからミルクたいを勧められる。
まぁ、でも知り合いが店番をしてない可能性あるし初来店って顔にしておこう。
絵美と星子にも初来店をした風の客を演じるように伝達しておくと、2人とも了解の合図として頷いた。
店長1人、バイト3人でまわしている店らしいのであの人と会うのは4分の1。
そう簡単に25パーセントなんか引くはずもないので、タケルの顔を立てながらはじめて店に入るように「どんな店だろ?」とか棒読みで演技をしながら入店していく……。