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5、佐々木絵美はついて行きたい

記憶が消えたりなんなりとトラブル続きの長い長い1週間がようやく終わりを告げる金曜日の夜。

誰もがテンション爆上がりな日であろう。

それは俺とて例外ではない。


「もう今の俺に出来ないことないわ。作詞とかの才能が開花しそう。スタチャに曲提供できるわ」


居間のテーブルにはルーズリーフ1枚と消せるボールペンが1本。

ここに今から兄からスタチャへ送る神曲の種子が産声を上げようとしていた。


「曲名『ヒャハー週末、グッバイ平日』。中々パンクになりそうじゃないか」


デスメタル好きの血が騒ぐ響きだ。

良い歌詞が生まれそうだ。

これをスタチャの作曲家として知られるTT(遠野達裄)に送り付けてやろう。


「『週末ハイ。弔いの犠牲。それは等しく月曜日鬱。立ち上がれ人類。君は前世に焦がれる。ツタンカーメンも立ち上がる』」

「恥ずかしいからやめなさい」

「あ……」

「歌詞のセンス、ないよ」

「並び替えるから大丈夫だったのに……」


声に出ていた歌詞をかき消すようなおばさんの叱責にボールペンを握る右手が止まる。


「まったく……。全然家に帰らないと思って心配していたのに……。帰ったら帰ったらで心配させて」

「あははは……。ほら、人間生きてたら昔に戻りたいみたいな時があるじゃん!だからちょっと戻ってただけだよ」

「タケル君の家に行くと昔に戻れるの?」

「いや……。別に……」

「昔に戻りたいなんて……。あの人に虐待されていた頃に戻りたいの?」

「そういうわけじゃねぇけど……」


おばさんから「なにそれ?」ともっともな反応を返され、なにも言い返せない。

すごすごと小さくなり、ついには書いていたルーズリーフの紙を折り曲げていく。

作詞をする気にもなれないまま、部屋に戻ってベッドに潜り込む。

そんな感じでふて寝をして朝を向かえた。





─────






今日はタケルと例の子と会う約束の日だ。

まさか、原作であるゲームでは影も形も存在しないヒロインであるセレナと会う日が来るとは……。

一体この『悲しみの連鎖を断ち切り』の世界はどういう構造をしているんだろう?


「なーんか、最近慣れ気味だったけど……。よくよく考えたらおかしなことだらけだ……」


アリアから記憶喪失を治す薬を無理矢理飲まされたからなのか……。

最近は考えたことすらなかったことが目に付くようになった。


「…………」


そういや、なんで俺ヒロインたちと付き合ってんだろ?

そういうのって普通はギャルゲー主人公の役割なのでは?

この世界の十文字タケルを操作しているギャルゲープレイヤーがいるのであれば、明智秀頼に女をかっさらわれ続けるバッドエンドなんじゃないか?

今の状況がバッドエンドの前振りに繋がるとしたら……?


もしかして……俺、これからタケルにざまぁされる対象?

──忘れかけていた危機感が蘇りつつある。


「くっ……」


アイロンとワックスで髪型のセットをして、スプレーで固めながら自分の人相の悪い悪役顔を睨み付ける。

いつ見ても真面目系な男が主人公であるエ□マンガによく現れる寝取るのが板に付くチャラ男である。

特に肌が浅黒いところなんかプレイボーイ感が半端ない。

タケルなんか確かに真面目系なウブボーイな見た目してるもんな……。

新しい原作対策を円と綾瀬の2人で建てなくてはいけないかと目を細めながら考えていると、俺の横にバタバタと誰か駆け寄ってくる音がする。


「おっはよー、秀頼君!髪型セットして気合い入ってるね!」

「おう。まあな」


お隣さんの幼馴染みである佐々木絵美の休日乱入だ。

この唐突感も懐かしく感じてしまうほど、記憶がなかった豊臣光秀に戻っていた頃が長い期間だったと錯覚させられる。


「よし!早速だけど今日は1日デートしよっ!」

「え?」

「なにがしたいとかじゃないんだけど、隣に秀頼君がいるだけでわたしは幸せなの!ねっ!」

「わりっ!今日、タケルと用事あんだわ」

「えっ!?」


しかも星子も一緒のオマケ付き。

休日だとゲームするために部屋に引きこもる時は髪型セットなんかしないのだが、それ以外は暇でも髪型セットをしているので暇に見られていたのだろう……。


「普通さ!長くデートが出来なかった日々が続いてようやく復活して、その土日に真っ先にすることが男友達と遊ぶことなのっ!?」

「わ、悪い……」


でも、原作で存在しないヒロインであるセレナが今後どう関わるのか見届けないといけないし……。

でも絵美の言い分の通り、デートもしたい。

…………ならっ!


「今日さ、タケルからあいつの想い人紹介されるんだけど絵美も来る?」

「行くっ!」

「よし、行こう」


両方一緒に満たせば良い。

いつだって答えは強行突破である。

絵美はもう既におめかしも気合い入れてしているのがわかっている服装だったので即答するのがわかっていた。


「えー!?十文字君が好きな人なんてどんな人だろ!?血の繋がらない理沙ちゃんみたいな人かなっ!?」

「それはそれでどうなんだ……?」


普段絵美やその友達からどんな目で見られてしまっているのか察することができる言葉である。


「あ、そういや……」

「どうしたの?」

「タケルから色々手品出来る仕込みをお願いされていたんだったな。準備しよ」

「こき使う気満々だね……」


髪型のセットも終わり、絵美を家の中で待たせる。

色々な準備を10分ほどで済ませて居間に戻ると彼女はおばさんに挨拶をしているところであった。

準備の終わった俺と目が合うと察したらしく、絵美が立ち上がった。


「んじゃ、行ってきまーす」

「また来ますねおばさん!行ってきまーす!」

「楽しんできてねー」


おばさんにそれぞれ挨拶をして、明智家から飛び出したのであった。

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