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4、津軽和はライオン

「これでパーフェクト秀頼になったわね!」

「どういう定義でパーフェクト秀頼になったのかは知らないが、おそらくパーフェクト秀頼だ」


薬の効能云々以前に、薬の不味さで脳が刺激され記憶が開いただけのような気がする……。

三途の川の幻覚が見えるくらい、壮大な薬であった……。


「ふっ……。自分でパーフェクト秀頼を名乗るとは。お前のどこがパーフェクトな男だ。愚かな……」

「笑うんじゃねーよ、仮面女。お前の妹からパーフェクト秀頼って言い出したんだろうが!」

「はいはい口喧嘩しないの」

「口喧嘩の原因はアリアなんだよ……」


教室までの廊下を再び歩きながら、2人と遠慮のない雑談をしていた。

アリアはこの国の姫様だし、真面目にやりあったら勝てるわけのないアイリーンなんとかさん26歳を前に他の女の子たちよりも若干距離のあるやり取りになる。


自分たちが所属するクラスの教室が見えてきた時、見覚えのある女子生徒がこちらに向かって早歩きで姿を現す。


「あ……」

「あ……」


その彼女とバッチリ目が合い、お互い同じ声を上げた。


「アリア姉さん!おはようございます!」

「おはよう、和!」

「仮面ネキもおはようございます!」

「おはよう」


アリアと仮面の騎士に深々と頭を下げた津軽和がいた。

先ほど2人が和と面識があるのを聞かされたが、こんなに後輩としての態度を見せる和も珍しい。

基本、誰にも舐められないよう云々な津軽家の教えを律儀に守り通す謎の子だからだ。


「あ。ゴミクズ、居たんだ……。おはよ……」

「真っ先に俺と目が合ったのにリアクションは最後だし、反応も舐めてるしなんなんだよ……」


和がわざとらしく「居たんだー」と流し目でぼそっと呟いていた。

いつかこの小悪魔彼女をわからせてやりたいのは、彼氏として当たり前の感情ではないか?と強く思う。


「アリア姉さんたちに虐められてました?」

「話を聞けよ!どんな質問だ!?」

「めっちゃ突っ込んでますけど、こういう扱いされるのが好きな秀頼先輩をよろしくお願いいたします。彼への虐めは性的欲求に変換されるのでドンドン虐めてあげてください」

「任せて!」

「任せろ!」

「良いからもう帰れよ!」


和は的確に俺の心を抉るような言葉遣いをするので、ズサズサと刺されるような痛みがある。

おかしい、俺のキャラはこんなんじゃなかったはず──!


「っ!?」


そうだ、思い出した!

アリアから罰ゲームの如く『良薬口に苦し』を地で行くようなおぞましい液体を飲まされたが、あれによって俺の性格についての記憶も蘇ってきた。


初期の俺はもっとクール系じゃなかったか?

マゾヒストマゾヒストと馬鹿にされる性癖はしてなかったんじゃないか?

もっとノーマルな性格だった。

そうだろう?


「…………」

「いきなり黙り込んでどうしたんですか?」

「なにを隠そう。俺の記憶が色々と蘇ってきてね」

「だから何したっていうんですか?秀頼先輩の記憶が蘇ったところであなたが凡人なマゾヒストのゴミクズオブゴミクズのゴミクズ野郎なのには変わりありませんから」

「はい、ごめんなさい……」

「秀頼、よわぁ……」


俺のクール系な記憶が蘇っても、和からはもう『いくらからかっても大丈夫領域』の筆頭なせいで扱いは変わりそうにない……。

人生で何回目かわからないゴミクズを受け入れると「そろそろホームルームがはじまるので帰るっす」と言って和が動きだす。


「けっ、可愛くない後輩だ!」

「べーっ」


最後の最後に舌を出した顔を見せて背中を向ける。

そのまま早歩きになり、とことこと消えていく。

なんであんなに口悪い子と俺は付き合っているんだろう?

50回目以上になるこの疑問に答えられる人はいないのであった……。


「よほど和はあなたを信頼しているんですね」

「そうか?」


そのやり取りを一部始終眺めていたアリアはクスクスと笑っていた。

演劇の子芝居でも見ているかのような琴線に触れてしまっただろうか。


「だって普通、見ず知らずの異性の先輩を息を吸うように貶すなんて出来ませんよ。まるで兄妹のようだわ」

「複雑だわ……」

「これは和が秀頼を信頼しないと出来ない証ですよ」

「あいつ、俺が初対面の見ず知らずの異性の先輩時代から舐めてたけどな」


姉のお墨付きというか、姉の便乗というか……。


「ライオンがウサギを格下と認めるのと同じじゃないかしら?」

「はいはい。俺はどうせウサギですよ。ありがとウサギとさよなライオンだよ。魔法の言葉で楽しい仲間がぼぼぼぼーん」

「急に歌い出したけどなにっ!?」

「やめろ、通じてる私の方がショックを受ける」


逆にアリアにはガチで伝わっていないようで悲しくなってくる……。


「ウサギは寂しいと死んじゃうか弱い存在ですからね」

「まるでお前そっくりじゃないか」


むっつりと口を閉ざしていた仮面の騎士が補足するように説明し、肩にポンと手を置かれた。

その仮面越しにニヤニヤと嘲笑っているのが伝わってきそうだ……。


「でも俺のじいちゃんは鰐だからな!鰐仙人だぞ!」

「なに言ってんだこいつ?」

「秀頼、学校じゃなくて病院に行く?」

「だーっ!お前らが変な薬飲ませたせいで知ったんだぞ!スマホを取り出すな!」


姉妹が揃ってスマホを取り出していて制止する。

息ピッタリかよ、こいつら!

ワンチャン病院に行ったらタケルの親父さんの仕事場に連れて行かれそう。

アリアのスマホをポケットに仕舞わせた。


「ほら、仮面女もスマホ仕舞って!」

「いや、担任の星野にお前が記憶戻ったと連絡している。感謝しなさい」

「病院に電話するんじゃなかったのかよ」

「あら?なら病院に連絡してあげようか?」

「連絡しなくてよろしい」


アイリーンなんとかさんが星野先生に明智秀頼の記憶喪失が治ったことを報告したことを皮切りに、ホームルームでクラス全員に公表。


こうして、俺が完全に元に戻ったことはすぐに全校生徒に伝達される流れになったのだった。





──なお、その日の放課後。






「自分が明智先輩の記憶を戻したのにアリア先輩たちの手柄にされてメチャクチャ悔しいです!面識ないですが、抗議したい気分です!」

「いや、君がそもそも俺の記憶消したんだよ」

「あ……。えへへへへ……」


憤りと誤魔化しの感情に揺れる五月雨であった……。

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