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3、豊臣光秀の祖父

「うわぁ!?大丈夫!大丈夫!記憶喪失治ったから心配せんといて!?」


記憶喪失は治るかもしれないが、不味さで死にそうな薬なんか飲む勇気もなく立ち上がって逃げようと試みるが、ガバッと背中から仮面の騎士に拘束される。


「風呂に入らされる猫みたいな奴だな。安心しろ、失くなった記憶すべてをアリア様は取り戻させてくれる」

「大きなお世話だよ!?俺、記憶全部戻ったからぁ!」

「まったく……。秀頼は相変わらずシチュエーションと同じ反応をしてくれるわ……。可愛いわ!」

「ざっけんなよ!」


サディスティック姫様姉妹に虐められながら逃げ出そうと試みるも身体がビクともしない。


「暴れれば暴れるほどに痛くなるぞ」

「いだだだだだ!?」


抜け出そうとすればするほど、関節が痛くなる蟻地獄のような技に固めらられていく。

アイリの激しいロックに涙目になりながら、最終手段であるギフトの使用を決める。

こればかりは多用したくないが、仕方ないと腹をくくった時だった。


「アイリ!秀頼がギフト使うわよ!」

「お前のギフトの弱点は喋れないと使えないこと!」

「ひっ!?」


関節技を離すと、一瞬で仮面の騎士が俺の口に指を突っ込む。

唇の右端と左端を同時に引っ張られて、口がモゴモゴとしか発せられなくなる。


「お前は覚えてないだろうが、私はお前に決闘で負けた汚点があるからな。今回ばかりはその復讐に走らせてもらう」

「ひってるおー!(知ってるよー!)」

「観念してね、秀頼。すぐに終わるから」


アリアが激ヤバな薬の瓶を振りまくる。

液体がぐしゃぐしゃと揺れて、尚おぞましい色が濃くなっていく。


「の、のひたくあい……(飲みたくない……)」

「なら、秀頼のことをよく知っている子Nから聞いたあなたが喜びそうなことを言ってあげるわ」


喜びそうなこと?

復唱しようとすると、アリアが力強く口を開く。


「ひれ伏せっ、ゴミクズ!」

「な、なんれこみくす!?(なんでゴミクズっ!?)」

「やっぱり喜んだ!」

「ちがう……」


『ゴミクズ』なんて教える奴なんかあいつしかいないじゃないか!

Nって完全に和だろ!

悪魔と小悪魔が手を結ぶ恐ろしい事態になった。


(ファイトっす!ゴミクズ先輩!)という奴の応援が聞こえた気がする。


「そろそろ20回振ったかしら?」


アリアはその色に満足すると、カパッと音を立てて蓋を開けた。


「復活しなさい、明智秀頼」


アリアがいつにもなく妖艶な表情をしながら、瓶を俺の口に突っ込む。

そのまま容赦なく、液体が口に放り込まれる。


「があああああっ!?うえっ……」

「やめろ!液体の1粒も吐き出すなっ!」

「んんっ!?」


仮面の騎士に口を抑えられる。

気絶しそうなほどに不味い液体に、吐き気が止まらない。

味?かは知らないが、吐瀉物と汚物と海鮮風味と生ゴミと血液が混ざったようなこの世のものではないダークマターのオールスターが集結したような豪華さで死ぬる。


「──っ!?」


──一瞬だけ変な幻覚を見た。






─────





『光秀やー、光秀やー』

『あ、じいちゃん……』

『今は秀頼と名を変えておったか。姿も形も名前も変わったがその姿、慣れねー』

『急にフランクになるなよ……』

『あえて秀頼ではなく、元の光秀と呼ぼうではないか』


豊臣光秀時代、小学校に上がる前に暗殺されて亡くなった父親側の祖父の姿の幻覚と幻聴が聞こえてきた。

川のような場所の真ん中にじいちゃんが立っていておいでおいでとジェスチャーをしている。

そのジェスチャーに従うようにとことこ着いて行く。


『というか、ここどこ?』

『三途の川じゃよ……。まさか光秀がまたここに来るなんてのぉ……。16年振りの2度目の再会じゃの……』

『また俺死んでるじゃん!2回目の死亡かよ!?』

『でも、大丈夫!じいちゃんは三途の川で修行して魂をこの世にはね飛ばすほど鍛えた!ハァァァァァァ!』

『っ!?』


じいちゃんがメキメキメキと音を立てながら筋肉が膨張していく。

血管が浮き出て、俺よりも若々しい肉体美を披露してきた。


『なっ!?じいちゃん!?』

『ワシは光秀の知っている通り鰐仙人(わにせんにん)と呼ばれておってな……。それはもう天下一武術界で一躍有名だったものよ』

『知らん知らん』

『一般的に知られていた鰐仙人の他にも術天老師とも呼ばれていてな!』

『世界観が違い過ぎんだよ』


知らん情報のカミングアウトが大津波の如く襲ってくる。


『お前の活躍はずっと見ておった。流石はワシの孫じゃわい!ワシには及ばないがそこそこ強いじゃないか』

『鰐仙人とか名乗るじいちゃんの正体……、知りたくなかったよ……』


長寿の姉とか居そう……。


『どれ、今回ばかりは鰐仙人の力を貸してやろう』


『ふんっ!』と意気込んでいる。

アリアに続いて何するの?

怖いよ、この老人……。


『戻れっ、アホッ孫っ!』

『があああああっ!?』


腹を蹴られながら、三途の川の景色が徐々に晴れていった……。


『すまんの。1回目はまだ修行途中で復活させてやることに失敗してしまったが、2度目は助けてやったぞい』


そんなじいちゃんの声が耳に届いた……。


『死人の復活という禁忌に触れたが故、ワシの存在も消えるか……。ふふっ、ワシもそろそろ転生の時期か……。異世界でツエーしたいのぅ……』


三途の川に吸い込まれるように、鰐仙人の身体が消えていった……。




─────





ま、マズッ……。

死ぬ方がマシなくらい不味い液体が口に残りながら、薬を飲ますアリアの顔が涙目でぼやけていた……。


「薬を全部飲み干したわね!よくやったわ、秀頼!」

「ど、どうも……」


吐きたいのに「吐くな」と脅す仮面に従いながら、無表情になり口元を抑える。

なんだったんだ、あのじいちゃんの幻覚は……?


「み、水を……」

「この薬、しばらく身体に馴染むまで液体の摂取を禁じられてるの……」

「がっ……」


別に記憶喪失じゃないんだから水なんか飲んでも……。

頭にそんな言葉が浮かんだ時だった。


「ギフトで作った薬だからね。今、薬以外の液体を摂取すると身体が破裂するぞ」

「おっかない薬をポンポンポンポン飲ませんな!……うっ」


舌に吐瀉物と汚物のような味が残っていて、胃液が口に逆流してきたのを必死に飲み込む。

死ぬ、死ぬ、死ぬ!

車に轢かれてあの世に行った時以上の苦しみが蝕んだ時だった。


「よく耐えたわ、秀頼」

「え?」

「あーん」

「ん?」


アリアの右手が口に伸びてきて、なにかを口に入れられる。

口に入れられた衝撃で、なにかを噛むと甘い味が口に広がる。


「甘くてうまい!」


噛めば噛むほど甘くて。

すぐに口の中で溶けていく。


「頑張ったわね秀頼。ご褒美よ」

「な、生キャラメル?」

「そ。幸せになれる生キャラメルよ。死にそうな目に遭わせてごめんね。この生キャラメル、とっても美味しいでしょ。あたしのお気に入り」

「めっちゃうまい……」


不味い味が、生キャラメルの甘さで上書きされる。

口を開くと2個目の生キャラメルを入れられて、より幸せな気持ちにさせられる。


「1粒500円の高級生キャラメルなんだからね。しっかり味わいなさい」

「あ、ありがとう……」


お気に入りで1粒500円の生キャラメルを食べているのか……。

2粒食べて1000円。

うまいなぁ……。


「アリア……。それ、1粒5000円だ。0が1個少ない」

「え?そうだっけ?」

「えっ!?」


1粒で俺の1ヶ月ぶんのお小遣い!?

違う意味で真っ青になりながらも、口の中は本当に幸せに満ちていた。


「記憶、取り戻したでしょ?」

「うん。色々と……」


若干途切れ途切れになっていた記憶喪失も完全に復活していた。

本当に効果自体はあったギフトの薬であった。

アリア様の飴と鞭をくらいながら、ちょっとだけ彼女への苦手意識が和らいでいた。

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