2、仮面の騎士は外す
「さらばでござる!ワイ、記憶喪失になった振りをして神ゲーをする決意を固める!」
「そ、そうか……」
なんなんだったのかよくわからない白田がピューと走って席に戻ると、携帯ゲーム機になっているズイッチを起動していた。
たまになんで俺、白田と会話しているのかよくわかんない時がある。
それをひしひしと感じていると、じっとした2つの視線を感じてしまい、ぎょっとしながら振り返る。
「ふふふふふ……」
「ふっ……」
「な、なんすか……?」
アリアとその従者?姉?である仮面の騎士にくすくすと笑われていた。
いつものこととはいえ、相変わらず俺への扱いが悪い……。
「秀頼にぃ……、良いのあるんだ☆」
「へ、へぇ……。ろくなものじゃないオーラが……」
アリアがスターチャイルドが得意とするスタチャスマイルをしている辺り嫌な予感しかない。
思ったことを口にすると、「光栄に思え」と仮面さんが上から偉そうに威圧を掛けてくる。
「秀頼は誤解してるよ」
「誤解?」
「記憶がないから人を信じられないのだろうけど、記憶を失う前の君がこの仮面…………アイリを打ち倒したことであたしたちの中では特別な存在なんだよ?」
「アリア、私のことをこの仮面って呼んだか?」
「言ってないわよ」
「と、特別なのか?俺が……?」
アリアとアイリから特別扱いされている記憶なんか一切ないが、あれ以降から事あるごとに突っ掛かり虐められることも増えた気がする。
オモチャとか奴隷とかそういう意味での特別扱いは確かに増えた気もする……。
──特別扱い自体はされているが、多分マイナスな意味でされている……。
「そんなわけで来なさい秀頼」
「ガシッ」
「え?え?仮面さん?」
アリア様が指示すると、わざとらしい擬音を口にしながら左腕に抱き付きどこかへ連れだそうと仮面さんが動き出す。
「出発、しんこーっ!」
「おーっ!」
「ちょっと君たちー!?そんな爽やかなキャラじゃないでしょ!?」
ネチネチネチネチと腹黒いことを企むようなタケルにとってのメインヒロインでしょ!?
記憶を失っているとまだ思い込んでいるとはいえ、流石にキャラが違うことは火を見るより明らかだ……。
「きゃー!秀頼があたしのこと爽やかだってー!」
「爽やか系女子はモテるからな!」
「爽やか系ってよりはぶりっ子系?」
「きゃー!秀頼があたしのことぶりっ子だってー!」
「ぶりっ子系女子はモテるからな!」
「ポジティブかよ、お前ら……」
無敵な姫様姉妹である。
何言っても喜びそうな気がする。
そんなルンルン気分でテンション爆上がりのアリア様指導の元、3分ほど歩かされてから無人の教室に連れ込まれた。
無人教室の前にある廊下も人通りが少ない場所なので、かなり嫌な予感がする。
ロクなことがなさそうだと本能がアラームを鳴らし続けていた。
(でも逃げないのが主なんだよなぁ。ウケる……)
そして、中の人は笑いを噛み殺している。
完全に他人事だ……。
この身体、君のじゃないの……?
(なんか後輩にされそうだなというのに察しつつ記憶を消されたり、酷いことされそうなのを察しつつノコノコ連れられたり主のマゾさ加減は命張らないと興奮しない領域になってて面白い奴だぜ……)
急にベラベラベラベラ脳内に語り掛けてきやがって……!
アリアと仮面に気付かれないとはいえ、人前で饒舌に語られると周囲に伝播しないか不安になる。
「とりあえず座りなさい秀頼」
「あ、はい」
何事もなく椅子に座らせる命令を下すアリアに聞こえていないことに安心しつつ、何されるのか不安になるというデッドオアアライブを体験している気分になる。
「安心しろ。アリア様は敵じゃない」
「敵みたいな見た目してる奴に言われても説得力ねー!」
「それはただのメラビアンの法則が働いているに過ぎん。仮面を外しながら同じことを言ってやる」
オペラ座の怪人のような無機質な仮面を右手で外すと、切れ目美人のイケメンな女性アイリが姿を表す。
宝塚のような格好良さや気高さがある。
久し振りに素顔を見た気がする。
「安心しろ。アリア様は敵じゃない」
「いや、やっぱり敵みたいな仮面持ったまま言われても説得力ないって!」
「それは残念だ。さぁ、はじめようかアリア様」
「おい!?」
不安さが増幅しただけだった。
「記憶を失っても秀頼は流されやすいね……」
「流してる奴が言うセリフじゃないんだよ!」
アリアから何故か変な同情をされていて複雑な気分になる。
「実はあたしの独自ルートで記憶喪失に効く薬が入手出来たの」
「へー、そうなんだ。でも、薬で記憶喪失が治るなんてそんなバカな話あるわけ……」
「ギフトの力が込められたモノだからね。世には出回らない、秘匿の薬……。あたしはそれを特急で作ってもらってようやく今朝完成したの!凄いでしょ!?」
「めっちゃ凄いじゃん!」
ギフトのでたらめな力の凄さよ……。
聞いたことはないが、自由な効能の薬を作るギフト能力者みたいなのがアリアの知り合いや、部下や、お抱えの医者などにいるのかもしれない。
アリア様のギフトでないのは確実だ。
「ふふっ。作ってもらうのに大金はたいて、頭下げたんだから」
アリアがそのポケットから取り出した青白く光る液体の入った瓶を掲げる。
効能のヤバさはわかったが、液体の色がとにかくおぞましい。
「実現が不可能な薬ほど不味いというデメリットがあるんだがな……」
仮面越しのくぐもった仮面の騎士さんの声がする。
確かに死ぬほど不味そうな色をしてると思ったが、今の俺にはまったく必要のない薬だ。
「凄い!凄い!」とおだてながら、彼女らに拍手を贈る。
「そんなわけで秀頼」
「はい」
「あなたにこの薬を飲む権利をあげるわ」
「…………」
「うわっ。すごっく嫌そうな顔……」
どっかの知らない民族のよくわからん置物をもらった方がまだもらって嬉しい……。
──え?これ、俺が飲む流れ?
青白くまがまがしく光る液体を畏怖の念を持って目が釘付けになっていた……。