99、城川千夏は知る
「くしゅん!」
「どうしたの楓ちゃん?風邪でも引いた?」
「あらあら。楓ったら。彼氏と朝までヤッてた?」
「ヤッ……!?」
「ヤッてないって!?そういうんじゃない……。なんか噂されてる……」
「あらあら?サーヤみたいにスピリチュアルなことを断言するじゃない」
一ノ瀬楓はファミレスにて、親友の灰原ノアと牧原小鳥の3人で駄弁っていたところに急に噂をされているようなくしゃみに見回れた。
それを隠すように、かなり抑えたくしゃみであった。
「彼氏に求められてるんじゃないのぉ?」
「きゃー!楓ちゃんエッチ!」
「いや、今の彼氏は記憶喪失してるから……」
「いや、どんな状況!?」
つい最近、記憶喪失状態の明智秀頼に楓は会ったばかりなので彼氏に求められている説は皆無なのはわかっていた。
(彼氏に意識されてないって気付いちゃうのも辛いなぁ……)
他人のような視線を向ける彼の目に少なからずショックはあった楓。
その時に、スマホのバイブが鳴りラインが着信した。
明智秀頼と同じ学校に通う深森美鈴からの連絡だった。
すぐに楓はラインの通知を見て、スマホを持ち上げた。
「誰からー?」
「美鈴ちゃん」
「あー、あの性欲強そうな子だ!」
「明智君の彼女、半分以上は性欲強そうな子しかいなかったけど……」
「…………」
ノアと小鳥の雑談が頭に入らないまま、美鈴のメッセージを読んで頭で理解していくとドンドンと声が漏れてきた。
「…………え?」
「どうしたの?」
そこでようやくノアたちの話が頭に入って、メッセージの内容を2人に暴露した。
「彼氏、記憶喪失治ったって……」
「今記憶喪失知らされたばっかりなんだけど!?」
ノアも小鳥も衝撃の波がジェットコースター並みにぐいんぐいんと急降下していくのであった……。
─────
「くしゅん!」
「うわっ!?私目掛けてくしゃみしないでよ!?」
「妾の噂してる輩がいるな……」
「またスピリチュアルなこと言ってる。ただのくしゃみでしょ」
「(´・ω・`)」
サーヤとスタヴァの姉ちゃんの会話が本当に遠慮ないやり取りばかりであった。
円と咲夜のような既知感があるやり取りである。
「明智さんも占いに嵌まるなんて、意外と乙女だね」
「あはは……。そうかな……?」
「千夏の前だと大分汐らしいわね」
クスクスとスタヴァの姉ちゃんが笑っていた。
「と、ところでサーヤはなんで占いをはじめたんだ?やっぱり占いが大好きだから?」
「あ!確かに!私もサーヤの占い師になった動機知らないかも……」
「妾が占い師になったきっかけのことか?そんなの普通に利益率が高いから」
「…………は?」
「利益率?」
きょとんとした顔で、いきなりリアリストなセリフを聞かされてコーヒーを飲もうとしたのがピクッと止まってしまった。
利益率……?
「占いはいわば無形商品。仕入れゼロで、知識が身に付けば無限に稼げるし。最近はネットでの占いも受け付けていて、これがもう大当たり!」
「…………無限に稼げる」
「…………で、でも!店にはなんかキーホルダーとか石みたいなのもあるじゃん!あれは有形商品じゃん!」
「あんなのただの転売よ。100円で仕入れたのを1000円で売れれば900円の利益。10000円で売れれば9900円の利益。最近は1500円で仕入れたツボがじゅうまん……」
「いや、ストップ!ストップ!」
「えー……。めっちゃ稼いでるじゃん……」
「最近はマーケティングの勉強してるから」
「それも占いの師匠から習ってるの?」
「師匠?」
スタヴァの姉ちゃんが『師匠』という単語を口にしたのでピクンとする。
俺に質問をされたかと思ったが、相手はサーヤにであった。
「占いの師匠とかいるのか?」
「サーヤは遠野川江の師匠を自称してるの。ジャパンの有名占い師遠野川江に本当に習ってるとかサーヤの人柄もあって半信半疑なんだよね」
「遠野川江……」
確かにジャパンの占い師界の有名人だ。
インフルエンサーといっても過言ではない。
そして、達裄さんの義理ママだったはず……。
無くはないか……?
「占いは師匠から習ったけど、売り方であるマーケティングはその息子さんから習ってる」
「本当なの?それ?」
「ほんとほんと」
「…………」
それ、絶対達裄さんじゃん……。
世間は狭いなぁ……。
あの人、サーヤとも知り合いだったのかよ……。
意外と顔が広いんだよなぁ……。
達裄さんもサーヤも……。
「サーヤって地味にスペック高いわよね」
「あら?付き合いが長いのに今更気付いたのかしら愚民?」
「そんなにお金稼いでサーヤのゴールはどこなんだ?」
お金とかに執着心があんまり無さそうなサーヤにはいったいどんな夢があるのか。
大学生でありながら、占い師にマーケターとして活躍する彼女により一層興味心が膨れ上がっていく。
「き、筋肉のある男からチヤホヤされる!そんな生活が……じゅる」
「唾液を拭けよ」
「サーヤはそういう人だよね……」
「ブッ!」
「唾液を吹けとか言ってねーだろ!」
「だから私目掛けてやらないでって!汚いなぁ!」
そんなサーヤの興味心がバブルのように弾けとんでしまった……。
そんな記憶喪失が戻ったばかりの放課後であった……。