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95、明智秀頼は勘違いされる

「どうしたんですか、悠久先生!?落ち着いてください!動揺してますよ!?」

「ど、ど、動揺はしてる……」

「ならまずは座って落ち着いてください」

「うん……」


そわそわとしていた悠久先生を再びソファーに座らせる。

『記憶戻ったー』『やったやーん』くらいで終わると思っただけに、彼女の反応は意外でもあった。

俺に情でもあったのかな?


「本当に……?本当に記憶戻ったの?」

「はい。悠久先生やみんなのサポートもありながら、ようやく記憶を思い出せました!」

「でも、悠久先生って呼んでる?しゃ、シャレでしょ?」

「あ。これは慣れですね。『悠久』の方が良いですか?呼び捨てするのに一切抵抗失くなりました」

「ダメ!悠久先生って呼びなさい!あと、なに勝手に記憶を甦らせたの!?そういうのは最初にわたくしに1ヶ月前に報告しなさい!」

「な、なんでそんなに機嫌悪いんですか?1ヶ月前って……。俺、数日しか記憶消えてないんだけど……」


弄る感じじゃなく、本当に機嫌が悪い態度に見える。

こんなに悠久先生に対して、意見を言えなくなるほど俺が遠慮がちになるのもはじめてである。


「そうやって、わたくしを捨てて今日からは絵美ちゃんや永遠ちゃんやヨルちゃんと一緒に若い子たちと夕飯を突っつくんでしょ!?」

「普通に実家で夕飯食べますけど……」


もしかしたら絵美は10パーセントくらいの確率で夕飯に混ざる可能性はあるが、おそらく今日は来ない。


「その遠慮のない生意気な感じが秀頼だぁぁぁ!」

「何言ってんすか!?俺、そもそも秀頼ですから!?」

「今朝までのわたくしの弟だった秀頼はどこ……?」

「いえ、俺に姉貴は居ないですが……。その兄弟勧誘みたいなやつ、流行ってるんすか?」


今日だけで五月雨に兄勧誘と、悠久からの弟指名をされたわけだがそんな簡単にポンポンポンポン俺に姉妹は増えるわけないのである。


まぁ記憶喪失中は確かに悠久をだらしない姉みたいに慕ってはいたが、今はもうダメな教師としてしか見られない。

ちょっとは慕ってはいるとは思うけど……。


「やだやだやだぁ!帰らないで秀頼……」

「なにを本気で言っているんですか……?記憶戻るまでの居候だったじゃないですか?」

「秀頼とまだお別れ言えてないもん!」

「いえ、まだ卒業まで1年以上ありますが……」

「そうじゃなくて!もう、ストレートに言う!ずっとわたくしの家に住んで!」

「なんで!?」

「もう1人寂しい近城家に住みたくないの!移住して!いっそ、永住して!」

「ちょっと!?悠久先生!?」


向かい合っていたソファーから立ち上がり、俺の隣のソファーに座り直しておねだりのように懇願が始まる。

1人寂しいかもしれないけど、それが悠久の生活だったんじゃ……。


「お願い!秀頼!一緒に住もう?お願い!」

「あ、あの……」

「高校生だし、親から自立しても良い年だし?」

「自立って言いますかこれ?」

「おねがい、ひでよりぃぃぃ!これからもずっと家にいてぇぇぇ!」


ついにワガママお嬢様モードになってしまった悠久先生……。

そんな簡単に頷いて良い問題なのか悩んでいると、コンコンとどこからかノックが聞こえてくると同時にガラッとスライドのドアが開いた。


「学園長先生。資料の確認を──」

「秀頼がいない生活なんかわたくしもう耐えられないの!」

「あの……、来てますよ先生……」

「ひでよりぃぃぃ!来てくれるの!?」

「言ってないです!変な解釈しないでください!先生が来てます!」

「え?」

「あ……。すいません。学園長先生……。明智とお取り込み中でしたか……」

「ちがっ!違うの!これは恋人とかそういうんじゃないから!スカウト!ただのスカウト!」

「はぁ。そうですか」


しかもよりによって学園長室に入ってきた先生はウチの担任である星野先生である。

年齢はおそらく悠久と近いくらいの、まだまだ若い女性教師である。


「よ、用事は!?」

「資料を提出に」

「そう。机に置いておいてください」

「はい……」


凄く気まずい雰囲気の中、悠久と星野先生が大人の対応をしている。

さっきまでの駄々っ子もきちんと仕事しているんだなぁとちょっとだけ見直してしまう。


「学園長先生!私は先生と明智のこと応援してますよ!PTAや教師陣には内緒にしておきますから!」

「だから違います。誤解なんです星野先生」

「学園長先生は、私の1つ下なのに仕事人間で男にまったく興味ない人だと思っていたのでなんか親近感ありますね。ふふふ」

「いえ、男にはガッツリ興味ありますよ」


『まったく相手にされていないだけで』と、俺が余計なことを口に挟んでしまいそうになり言葉を飲み込んだ。

それにしても星野先生は楽しそうである。

教室での担任としての顔ともまた別のモノに見える。


「明智も学園長室でイチャイチャなんてやるわね」

「全然違いますが……」

「見付かったのが私だから良かったけど、他の学校関係者に見付かったら学園長先生はクビだし、明智は退学になるから気を付けてね」

「だから違いますって!」

「とりあえずわかりましたから……。早く帰りなさい」

「はーい。失礼しまーす」


ニヤニヤとした星野先生が『ごゆっくり』と顔で物語っていた。

最悪の勘違いをされてしまった……。

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