93、明智秀頼は平等に扱いたい
「まぁ、とりあえず……。ただいま、明智君」
「おう!お帰り!」
「まったく……。あんたは色々な災難に巻き込まれ過ぎ」
「お祓いとかしてもらうべきかね……」
円から小言をもらいながら、本気でお祓いをしてもらうことも視野に入れる。
『このクラスの中で1番問題児が誰か?』と質問されたら真っ先に『俺』と答える自信があるほどに、事件や事故の災難に遭ったなぁと申し訳ない気分になる。
「でも、無事に秀頼君が戻ってきて良かったよ!」
「確かにそうね」
「こっちは毎回ハラハラするんだから巻き込まれない努力をしろよ」
「本当に申し訳ない……」
誠意を込めた謝罪を送る。
しかし、まだ3人だけだ。
他にも永遠ちゃんや星子たちの他のクラスや下の学年の子にも頭を下げに行かないと……。
「ん?」
「どうしたの絵美?」
無事一件落着の空気の中、絵美が腑に落ちないといった声を出して注目を浴びる。
ヨルからも「どうした?」と尋ねられると「あ……」と絵美が漏らした。
「茜ちゃんから記憶を戻してもらったのは良いんだけど……。手を繋ぐ必要あったの?」
「え……?」
「そういえば……」
「お前さ、彼女以外の女に対して簡単に手を取るなよ…………。明智、五月雨を彼女にしたとかないよな?」
「…………」
「あ、これいけない雰囲気」
「わかりやすいですね、秀頼君」
「お前さぁぁぁ!本当にっっっ!」
「ご、ごめん!下心とかまったくなかったんだけど!」
「またナチュラルに女垂らししてたなぁ!」
「ひぃぃぃ!?」
瞬殺で五月雨茜との交際を見破られてしまい、また責められる形になる。
もう、何度目なのだろうか……?
「後からみんな集まって説明するつもりだったんだよ!?」
「大体、いつ茜ちゃんと仲良くなったの!?そんなに絡みなかったじゃん!」
「そ、それは記憶失っていた時に天使……五月雨と仲良くなっちゃって」
「わたしが彼女だってわかっていながら、なんで他の子と仲良くなるんですか!?」
「ご、ごめん!孤独で、友達が欲しくて……」
「それ言われたら責められないじゃないですか。的確にガードしないでください」
そんなつもりはなかったのだが、共感されてしまい絵美からの責めは終わった。
「もう、こういうの慣れたけどな……」
「慣れてはいけないんだろうけど……。本当に私たちから1人に選ぶつもりあるの?」
「あ、あるよ!」
「そう……。す、捨てないでね?」
「そういう釘刺しはずりぃよ円!あたしだって捨てられたくねぇよ!」
「す、捨てないから焦らないで!大丈夫、実はもう俺は全員養う覚悟は出来てるから!」
「それはそれでわたしは複雑ですが……」
本当に、俺の恋愛ってどうなるんだろうね……?
当の本人が1番知りたいことであった。
「1番になりたいわよね」
「当然だね!」
「明智の1番目指した争いはまだまだ終わりそうにねぇーな!」
「フラグかなんか?」
俺たちの戦いはこれからだENDを迎えそうになっていて、ちょっと怖い。
「明智も準備終わったんなら部活行くぞ」
「そうだな……」
「茜ちゃんと付き合ったこと、今日言う?」
「いや、こういう報告は楓さんも含めた全員の前で言わなきゃいけないと考えてる」
「秀頼君はそういう人だよねー」
後から楓さんにだけラインで報告みたいなのは、正直好きではない。
みんな平等に扱いたいというのが本音がある。
手間にはなるがまたマスターの喫茶店を借りるとか、みんなでまたキャンプとかのイベントを開いたりした時に紹介をしようと思う。
「あとは、明智。家で世話になってる悠久に記憶戻ったこと言わねぇと」
「あ、そういえばそうだった。悠久先生にお礼言っとかないとな……」
「悠久先生?どうした明智?頭おかしくなったか?」
「先生を付けただけで!?」
そういや、悠久って呼んでたんだったな……。
呼び方の上書きを直すのがちょっとしんどい……。
「そういえばさ、明智を悠久に貸してからあいつメッキリご機嫌なのなんなん?」
「は?そうなの?」
「なんか、お前のこと話す時メスになってる気がする」
「よく保護者になってもらっている人に対してメス呼ばわりしてるな……」
「あ、明智君が学園長先生の肩を持った」
「待ってくれ。そんなの全部関係ないから」
ヨルと円から悠久との関係を疑うように責められていく。
全部不本意な言葉ばかりで、頭が痛くなる。
「明智君博士の佐々木先生。あなたはどんな判断だと思いますか?」
「なんですか、その気味悪いレッテル……。でも、ちょっぴり悠久先生に優しくなりましたよね」
「そんなことない。もし、そんなのがあればストックホルム症候群なだけだから!」
「いきなり難しいこと言い出したわね。あと、関係ないけど急に『ストックホルム症候群』とかいう単語が出て驚きました」
「じゃあ横文字NGだね」
「はいはい。テンプレテンプレ」
ヨルからは聞き飽きたとばかりに流されてしまった。
ちなみに、ストックホルム症候群とは誘拐や監禁した加害者に対して長い時間接した被害者が友情や共感などの信頼関係が強くなってしまう心理学用語である。
悠久は加害者ではないが、悠久が前より親しくなった気分になっているのはこれに近い感情だと思う。
「帰る直前に報告したら悠久先生に迷惑かかるな……。じゃあ、絵美たちは部活に行っててくれ!俺は悠久先生と話してくるから」
「わかった」
「終わったら部活行く」
そういうと絵美たち3人の空間から抜け出し、俺は職員室目掛けて廊下を歩くことになる。
ちょっとだけ緊張する今日この頃……。