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88、五月雨茜の絶望

「とりあえず落ち着いてください」

「はい。落ち着きました」

「早いですね!?」


五月雨から落ち着くように諭されて、焦りを払拭する。

真顔になりながら、彼女をじっと見る。


「では、そうですね。記憶を思い出していきましょう」

「いや、別に記憶喪失とかなっていたわけじゃあるまいに……」

「なってたんです!早く!目を閉じて下さい!」

「え?俺、記憶喪失になってたの?」

「落ち着いてください!心を乱さないでください!」

「は、はいっ!」


後輩である五月雨に強く指示され、背筋がピンと伸びる。

こ、こんな子だっけ……?

若干絵美ちゃん化している気がする……。


(絵美ちゃん化ってなんですか秀頼君!?わたしが乱暴者みたいじゃないですか!?)


なんていう脳内の絵美が抗議をしてくる。

乱暴者じゃなくて、親しみやすいってことだよ……。

ははは、やだな……。

変な汗が吹き出てきそうだ。


「じゃあとりあえず椅子に座ってください」

「はい……」

「ふかーく息を吸って……。吐いて……」

「すぅー…………、はぁ…………」

「楽になりましたか?」

「な、なんとなく」

「なんとなくじゃダメです!精神統一させる気構えです。心に余裕を持たせますよ。好きな食べ物のイメージしてください」

「え?食べ物?」


いなり寿司とか?

五月雨茜の精神統一をさせるための指示を10個ほど的確にこなしていく。


「そこで10秒間、息を止めてください」

「…………」


というかこれ、ASMRだ。

五月雨からあれこれ指示されることによる既知感が、一時期嵌まった興奮を覚えるアレと重なる。

…………あれ?

ついさっき同じことを考えていた気がする。

どこでだったか?

なんとも不思議な違和感が沸き上がってくる。


「自分が明智先輩の視界を塞ぎます」

「お、おう……」


彼女のASMRが終わると、視界を閉ざされる。

彼女のひんやりとした冷たい手で目の辺りを触られて、いけない感情が沸き起こる。

な、なんなのこのプレイをしている気分になるのは?

どぎまぎしていると、ささやくような五月雨の声が耳元から聞こえる。


「明智先輩に……。自分がギフトを使いました……。絆を砕く、最低なギフトです」

「あ……」

「明智先輩は気を失いましたね……」

「あった……。あぁ。そうだった……」


どうしてそんなこと、忘れていたんだ……。

追い詰められた五月雨に抵抗も出来るはずもなく、無抵抗でギフトを当てられた。


「それから記憶を失い……。3日ほど、記憶がない状態で学校に通いました……」

「そうだったな……。そうだ。ついさっきまでの俺は……。俺じゃなかった……」


豊臣光秀だと自覚しながら、明智秀頼の振りをしていた……。

いや、多分今もそうなんだけど!


完全にみんなとの絆が断たれていたんだ……。


みんなと再会して、悠久に世話になり、天使ちゃんを気にした。

そんな違和感のある日常に溶け込んでいたんだった。


「ごめんなさい……。明智先輩……」

「俺が……。俺がわざと君のギフトにかかったんだ。謝らないでいいよ……」

「優しいですね……。自分に罪悪感を抱かせないようにするその気遣いが……、心を痛くさせます……」

「…………」


俺の視界を塞ぐ手が震えている。

彼女の動揺が現れている。

五月雨は泣いているのかな……?

全部想像でしかない。


「泣くなよ」

「明智先輩……」

「天使ちゃんは笑顔の方が可愛いんだからさ……。俺は君を泣かせたくなくて、この選択をしたんだ。だから悲しまないで……」

「せんぱい……」


彼女の手が目から離れる。

いきなり開かれた視界から広がる光に、目が一瞬怯み、薄目になる。

いきなりの光ってこんなにまぶしいんだな……。


「誓いの言葉……、思い出しましたか……?」

「あぁ。ちょうどさっき君とした約束のことだね……」


五月雨のサポートのおかげで明智秀頼としての記憶がすっぽりと抜けていた記憶も大体思い出した。

『なら、記憶が戻ったらお願いがあるんです』というおねだりも……。


…………。

なんでもお願いをきく……?


あれ?

俺、なんの約束をした……?

豊臣光秀状態の俺は気安い感じでOKを出したが、なにやってんの!?


『お願いがあります!ギフト狩りのために、死んでください明智先輩!』みたいな流れになるんじゃ……。

かなしみのー、というバッドエンドになるんじゃなかろうか……。


「そうです!約束覚えてくれていましたか!自分のお願いをなんでも聞いてくれる約束です!」

「し、したっけかな?そんなの?」

「えぇ!?今、思い出した流れじゃないですか!?」


嫌な予感しかしない俺は、とぼけることにした。

なんでも約束を聞いてくれる聖人はどこにもいないのである。


「そうですか……。明智先輩、誓いを忘れちゃったんですね……」

「ごめんね……。思い出せたら思い出すよ」

「わかりました……。この五月雨茜。もう自分なんか生きている価値なんてないんです……」

「そんな大袈裟な……」

「大袈裟じゃありません……。生きていても楽しくありません……。切腹して、この場で死にます」

「天使ちゃん?天使ちゃん!?」


ブレザーのボタンを取り、上着を脱いでいった五月雨は、どこからか取り出したのか小型のナイフを手にしていた。


「いや、そういうのよくないよ!?」


ヨル・ヒルといい、なんで今時のJKは刃物を常備してるのさ!?


「止めないでください明智先輩!?」

「いや、止めますよ!?」


ブラウス越しにブラが透けている格好で刃物を持って自殺しようとする後輩なんか、意味なんかなくても止めなくてはいけないだろう。

そういえばこんな子だったな!と、忘れていた五月雨茜の情報がわき水のように溢れだしてきた。

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