87、明智秀頼は目覚める
────?
眠っているのか……?
いつ寝たんだっけ俺……?
これは、机……?
机に突っ伏して寝ているのか……。
突然落ちていた意識が少しずつ覚醒していく。
手の感触を敏感にさせながら、状況を判断していく。
授業中に寝てしまったのかと思い、同じ姿勢のまま固まってしまう。
ヤバいな……。
怖い先生の授業ならもっと寝てる振りしていよ……。
ちょっと腰が退けながら、耳を傾けていく。
どんな音声を拾うのか、緊張してしまう。
──シーン……。
しかし、誰の声もしない。
授業中だとしたら自習の時間か?
いや、自習の時間だとすると雑談している山本とかアリアの声がするはずだ。
ウチのクラスは自習の時間は静かに出来ないヤンチャヒューマンしかいない陽キャの集まりだ。
「…………」
起きて大丈夫か……?
しかし、すぐ近くに人の気配がある。
監禁されているのかな?
ギフトアカデミーに入ってから色々なことが人生で起きているなぁ。
ゴーストキングと戦わされたり、甲冑に追いかけまわされたり……。
もうちょっと平和が欲しい。
しかし監禁は冗談だとしても、これからどうしようかな……。
パッと起きて逃げ出すか、このすぐ近くにいる人に話しかけた方が良いのか……。
悩ましい気持ちに起きることに葛藤していると、その近くにいる人が動いたような音がする。
「…………?」
その人物が、俺に駆け寄ったのがわかる。
どうしたんだろう?と不安によぎると、その人物が口を開いた。
『格好良い……。でも、寝てると可愛い……』
「っ……!?」
『あっ……』
誰のものかわからない少女の声が、明らかに俺に向けての声だったのに反応しビクンとしてしまう。
ちょっと顔がにやついてしまい、顔を上げるに上げられない。
『明智先輩……?起きちゃいました?』
明智先輩?
俺の後輩なのか?
まだまだ頭が回転しないまま、のっそりしながら顔を上げる。
「ぅぅ……」と、今の声で反応しましたというのを装っておく。
「すいません!自分起こしちゃいました……」
「いや、いいよ……」
目を押さえながら、まぶしい光に目がくらむ。
「うっ……」
なんか、久しぶりに目が覚めた気がする。
ずっとずっとずっと……、覚めない夢の中にいた気がする。
目を開くと、白くて美しい髪に朱と水色のキレイな目を向ける少女が立っていた。
「目が覚めましたか?」
「…………」
「どうしましたか?」
「あぁ、いや。なんでもない……。ちょっと驚いただけ」
記憶がまだ安定していない。
どんな仮定を経て、無人の教室(部室かここ?)で、彼女と2人なのだろうか。
思い出せない……。
「お、おはよ……。五月雨……。あ、天使ちゃん?」
「え?」
「あれ?ごめん、ちょっと待って。あれ……」
て、天使ちゃんってなんだよ。
気持ち悪い……。
どんなアダナのセンスだ。
なにがどうなって天使に結びついたのか、全然わからない。
「明智先輩?」
「あぁ、なんでもないんだ。なんでもないよ、天使ちゃ…………。あれ?」
頭では五月雨茜とわかっているのに、どうしてか『天使ちゃん』と口に出てしまう。
あれ?
なんか俺……、またおかしくなっちゃったか?
(またwwwwww)
中の人が大爆笑していてムッとしてしまう。
現状がまったくわからない状況に混乱が止まらない。
「明智先輩、さっきまでの記憶ありませんか?」
「さっき?」
「あ、完全に抜けてる!ちょっと!思い出してください!思い出してください!思い出してくださいっ!」
「待って、待って、待って!?そんなに身体を揺すらないで!?」
思い出せるものも思い出せないんだけど!?
後輩の五月雨に身体をぐらんぐらんに揺らされ、目が回っていく。
こ、こんなに強いっけ彼女……!?
いつもはつけもの石1つ持てなさそうなほどに弱いのに、何故か今日は火事場の馬鹿力を発揮しているようだ。
「ねー!思い出して!思い出して!」
「な、なにを!?」
「記憶ーー!」
「忘れてないよ!?」
突然、なにを恐ろしいことを言うのか。
まるで俺の記憶が消えていたかのような口振りで、こっちが驚かされてしまう。
「忘れてたじゃないですか!いや、自分のせいなんですけどっ!」
「え?そうなん?」
「なんで忘れてたことすら忘れるんですか!?」
「なんて理不尽な……。天……、五月雨のせいなんでしょ?」
「はい!自分が悪いです!」
「なんで自信満々なんだよ」
わけわかんねーよ……。
そもそも、五月雨ってこんなに馴れ馴れしく絡んでくるタイプの子だっけ?
時折現れる小悪魔タイプの津軽和並みに彼女のテンションが全然掴めないでいた。
「さっきの誓いはどうなるんですか!?」
「さっきの誓い?」
「なんでも言うこと聞くって言ってたじゃないですか!」
「なんでもって言った?」
「言ったのは明智先輩です」
「俺がそんな恐ろしいことを……。天使ちゃんに言ったのか……」
「そもそも天使ちゃんって呼んでるじゃないですか!」
「なんで俺が天使……、五月雨を天使ちゃん呼ばわりしているのかさっぱりわからないんだ……」
ぎゃあぎゃあと絡んでくる五月雨と意味がわからないながら口論になっていたのであった……。