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86、明智秀頼は察する

「ふーっ、ここなら一目には付かないな……」


ウーロン茶を片手に、五月雨茜を引っ張って部室まで約3分ほど早歩きをした俺は地味に汗をかいていた。

単に体力的なのもあるかと思うが、汗の8割は女の子を無理矢理引っ張ったことによる体力的なのも大きいと思う。

俺だけならもっと足を早めることが出来るが、五月雨茜の足の限界を知らないのでかなーり加減したスピードを出していたのである。


「あけちせんぱぁぁい!」

「な、泣くなよそんなに……。怖くないよ、ほら!あたたかい目ぇ!」

「怖くて泣いているわけじゃないですから!」


五月雨茜は泣いているというよりかは、涙目であった。


「ど、ドキドキしました……」

「わ、わりぃ……」

「ひ、人の手を簡単に取りすぎです……」

「気を付けます……」


悪人顔の異性の男に手を取られたら確かに恐怖でドキドキするよな……。

俺が五月雨茜の立場なら男のアレを踏み潰していたかもしれない……。

豊臣光秀として行動するのは危険かもしれない。

椅子を引っ張りだし、深呼吸をしながら座ることにする。


「記憶を戻します……」

「大丈夫か?」

「な、なにがですか……!?」

「…………天使ちゃんの身体、震えているよ」

「っ!?」


隠しているのかもしれないけど、俺には彼女の不安が手に取るようにわかる。

その不安は多分──。


「記憶を戻したら本当は不味いんじゃないの……?」

「え?」

「君の意思じゃなくて、何者かの悪意があってこんなことしたんじゃないの?」

「な、んで……」

「だから、君の意思で本当に記憶を戻して良いのか決断して欲しい」


ギフト狩りが裏に関わっているであろうことは、ゲームのファンならば五月雨茜の時点で察することができる。


「俺は……、天使ちゃんが酷い目に遭うなら記憶なんか戻さなくて良いよ」

「明智先輩……」

「でも……、それでも天使ちゃんが俺の記憶を戻したいなら……。俺が君を守るよ」

「っ!?」

「よわっちい癖に何言ってんだって話だけど……。そこは、俺をどれくらい君が信頼しているかだけど……」


彼女が明智秀頼にそこまでの信頼があるかわからない。

でも、それでも彼女が危険に晒されるくらいなら守ってあげたい。


「ありがとうございます。決心が付きました……」

「そっか……」


まぁ、断るよなぁ……。

学年も違うし、ただの部活?の先輩後輩程度でそんな信頼を向けられるわけがない。

椅子から立ち上がり、ウーロン茶の缶を握りながら教室に戻ろうと立ち上がろうとする。


「あ、ちょっと動かないでください」

「え?あ、あの……」

「今からギフトを使います。集中するので明智先輩はリラックスして座っていてください」

「は、はい……。はい?」

「自分のギフトは『絆を絶つ』より、『絆を戻す』方が難しいんです。人間と同じですね」

「天使ちゃん……」


俺に泣きながら微笑むと、椅子に座るようにとジェスチャーで指示をされる。

それに従うように、俺は椅子に腰かける。


「守ってくれるんですよね明智先輩?」

「守るよ」

「なら、記憶が戻ったらお願いがあるんです」

「俺が叶えられるなら。な、なんでも…………。なんでも……」

「なんでもって言った?」

「なんでもって言いました!」

「そうですか」


一瞬、彼女の『なんでもって言った?』に迫力を感じた。

なんかヤバいスイッチを入れたかもしれなくて、嫌な予感がしたが撤回出来る雰囲気でもなく頷くだけ頷いた。


「自分を守ってくれるならお兄ちゃんみたいな人って決めてました」

「……お兄ちゃん」


あー、そういえば五月雨茜の兄って……。

地味に忘却していた彼女の過去を思い出す。


「でも、腹は決めました」

「て、天使ちゃん?」

「絶対に逃げないでくださいね」

「う、うん。記憶が戻るなら椅子から離れないよ」

「そういうことじゃありません。鈍感な人ですね」

「鈍感?」

「ゆっくり目を瞑ってください」


しれっと話をすり替えられた気がしないでもないが、昼休みが押していることに気付くとその言葉に従って目を閉じる。


「そんなに力を入れないで良いですからね。眠るように優しく……、やさしーく目を閉じてください」

「…………」


な、なんか恥ずかしい……。

ムズムズした気分になる。


「あとは、座る時も姿勢崩しても良いので力を入れないでくださいね。……ちょっと肩が高いです。もうちょっと下げましょうねー」

「…………」


制服のブレザー越しに、五月雨茜が肩を下ろそうと力を加えてくれたことがわかる。

これが楽にするということらしい。


「頭の脳内にも邪なことは考えないでください。ポワポワーって天国に行った気分でリラックスしてください」

「…………」

「良い感じですよ明智先輩」


これ、ただのASMRだ!

恥ずかしい気持ちにさせられている原因がリアルASMRを受けているからだ!

『邪なことは考えないでください』と忠告を受けながら、なんかドキドキな展開になるのかと期待しちゃう。


「では、ギフトで人々との絆を思い出させますよー!」

「はい……」

「いきます!」


これがモニター越しだったら、着ている衣類でもぶん投げる勢いであったがそうはならずに落胆しながは目を閉じる。


「うっ……」

「脳に負担がかかり酔うかもしれません。気をしっかり持ってください!絆を断った時みたいに気絶するかもしれませんが……」

「さ、先に……言え……」

「明智先輩!?明智先輩!?」

「しゅぴー、しゅぴー……」


意識をここで手放してしまった。

ただ、なんとなくあたたかいものが頭にぶわぁぁっと広がっていった。

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