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84、五月雨茜のクイズ

あぁー、可愛いよな天使ちゃん……。

俺にこういう目の保養になる後輩がいるってだけで、なんかもうあの来栖さんに出会うまでの灰色な女っ気のない学園生活よりも鮮やかに見えてくる。


絡みのあった女などそれこそ吉田みたいな……。

うん、泣きたくなるからやめよう。


「あけっ!明智先輩はこれから帰りですか?」

「帰りどころか今から買うんだよ」

「はぅ!そ、そうでしかっ!」

「え?教室に帰って欲しい?」

「いえ!そういうわけでは!自分が先輩にそんなこと言える立場じゃないのですっ!」

「そ、そう……」


急に早口で弁明をはじめて、凄く彼女に親近感が沸いていた……。

「ささっ、どうぞ!どうぞ!」と自販機を譲るように天使ちゃん──ではなく五月雨茜がジェスチャーで伝えていく。

別に自販機はたくさんあるのだから違うところで買えば良いのにと思いながら、硬貨を入れてウーロン茶を購入した。

自販機の中からガタッと落ちてきた音がして、早速その商品の缶を取り出した。


こういうウーロン茶の販売をするメーカーは、俺が元生きた世界と同じであり、この世界を作った神様のガバガバっぷりのご都合主義が目に見えてしまう。

この世界作った奴、この辺考えるのサボったな……。

見覚えのあるウーロン茶缶を持って帰ろうとした時に、白い髪とオッドアイな五月雨茜が視界に入り「あ……」と思い付く。


「そうだ。天使ちゃんにもなにか飲み物買ってあげようか?」

「えっ!?いや、そんな……。お金かかっちゃうし……」

「大丈夫だよ。気にしないで」

「あ、ありがとうございます……。なんで……。なんで記憶が……なのにっ!」


悠久先生からは昨日から昼飯代として毎日500円受け取っている。

昨日も今日もパン1つに飲み物1つしか購入していないので、500円でもお釣が来るレベルなのだ。

ここで五月雨茜に飲み物を奢ったところで赤字にはならない。

むしろ余っていく500円のお釣を彼女に奢ることで、少しでもお金を残らないようにして罪悪感から解放されるように財布を開く。


「なに欲しい?お茶が良いかな?それとも、なにかコーラとかみたいなジュースの方が良いかな?」

「え、えっと……。明智先輩が自分に奢りたいやつを奢ってください!」

「…………んん?」

「お願いです……。自分の心の良心をこれ以上、揺さぶらないで欲しいです……」

「ちょっとなに言ってっかわかんねぇけど……」


なんかのゲームだろうか?

五月雨茜の好みの飲み物当てろゲームみたいな。

それをするなら悪役な親友役ではなく、ギャルゲー主人公の十文字タケルにやるべきではないだろうか。


4台並んだ自販機を見比べてどれにするか迷う。


「甘いのが良い?コーヒーみたいな方が良い?」

「だから、任せます……」

「そっか……」


付け入る隙も見せることなく、素っ気ない。

難しいお年頃である。


「あ!」


そうか、俺は明智秀頼だった。

目付きが悪くて、ゲームに登場するような893みたいにおっかない顔しているのが俺だ。

その評価がある俺に話しかけられて警戒するのは当然だった。

それに明智秀頼なんか、ギフト狩りのブラックリストに入っている超要注意人物──、いや公にされていないだけのガチモンの犯罪者。

そりゃあ、冷たくされて当たり前だっ!

むしろ、会話してくれるだけ彼女に感謝である。


「ありがとう、天使ちゃん……」

「な、なにがですか!?なんのお礼ですか」

「俺と会話してくれて……。俺のことなんか嫌っていてもおかしくないのに……」

「そ、そんなことでお礼を言われても……。あと、別に自分は明智先輩のこと嫌ってないですから!」

「そ、そう……?」


でも、心では嫌っていたとしても、本人にそんなこと直接言えないよね……。

そんな被害妄想が生まれながら、50パーセントくらいは彼女を信じることにする。


「あっと……。早く買わないと昼休み終わっちゃうな……。仕方ない」

「え?」


五月雨茜に奢る飲み物を買うために自販機に硬貨を3枚投入すると、彼女から驚きの声があがる。

「ん?」と疑問を抱きたがら五月雨に振り返ると、少しだけ目を見開いていていて、めちゃくちゃ俺を凝視していた。


「どうしたの?」と尋ねると「いえ……」と歯切れの悪い反応が見せる。

この反応が当たりなのか、はたまた嫌いな飲み物が交ざっている自販機を引き当ててしまった故の驚きなのか。

どっちにも取れそうに見えるのがむずかしい。

これが女心というやつか……。


「えっと……、あ!これにしよ」

「えっ!?な、なんで!?」

「え?」


五月雨茜が慌てた時には、俺の指はボタンに吸い込まれていき、すでにピッと鳴ってしまっていた。

うわ、間違ってしまったとやっちまった感が出てしまった。


「わ、悪い……。嫌いなジュースだったかこれ?」

「い、いえ……」


俺がボタンを押してしまったのは、なっっちゃんオレンジ味である。

可愛らしいパッケージに、オレンジ色をした缶のジュースだ。


「あ、あげる……」

「なんでこれを引き当てられるんですか……」

「ん?」

「偶然だとでも言うんですか!?記憶障害なんてなってないんじゃないですか!?」

「なってる!なってる!なってるから!落ち着いて天使ちゃん!」

「なら、どうして……。これを押したんですか!?」


本気で苦しい慟哭を叫び、目に涙を浮かべる五月雨茜。

困った……、なんか泣かせてしまった……。

俺もたじたじになっていた。

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