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76、進化

それからコークハイを飲みながらもハイテンションな悠久の愚痴が続く。

しかし、22時になる前には少し元気が無くなりつつあった。


「しゅぴー……。なんでこんなに……顔が良くて、性格の良い……わたくしモテ、ないの……」


22時になった時には、テーブルに突っ伏す体勢になり、深い眠りに落ちていく。

顔を赤くして、唾液を垂らしながら酒に飲まれて熟睡していた。


「あーあ……。やっぱりこうなったか……」


悠久先生の愚痴が聞こえなくなると、途端に虚しい気持ちになる。

つい5分ほどまではうるさかった部屋とのギャップが、より悠久先生の騒がしさがないことによる孤独感を増す。


「まずは片付けますか……」


お菓子の袋、コーラのビン、コップ、ジョッキ、コークハイの缶、ビールビン。

テーブルの上にあるゴミを拾いながら、ゴミ袋に捨てていく。

缶とビンの処理方法がわからなかったので、そちらは水で注いでおいてキレイにだけしておいた。

キッチンからぞうきんも持ってきて、悠久先生が眠っているところだけ避けながら拭いていく。

約15分、黙々と清掃していく。

その間に悠久先生が起きてくれないかな……と思っていたが、案の定まだまだ眠っている。


「えへへへ……。ひでよりも、おさけのむ……」

「まーた、唾液垂らしてますね……」


無防備な寝顔の口元にティッシュで拭ってあげる。

独身の酔っ払った女教師のネグリジェ姿というエロい要素しかない格好の悠久先生をこれからどうしようか考える。


テーブルに横向きになりながら寝ていると、起きた時に身体が痛くなりそうだ。

それに、夜は冷えるし風邪を引くかもしれない。

どうにかしてベッドに寝かせたいが、起こすのも忍びない。

本当は自分で立ってベッドに寝てもらうのが1番理想なんだけど……。


「…………大丈夫なのかこの人?」


よく家族でも親戚でもない、赤の他人である男の生徒の前でこんなに無防備に寝ているもんだ。

襲われたり、殺されたりしても文句言えないんじゃないだろうか。


(それだけお前を信頼してんじゃねぇの)

「え?」


知らない荒っぽい声がまた脳内に流れる。

俺の脳内に変なAIでも住み着いているのか?

明智秀頼のギフト能力とも関係あるのかな?

そもそも、今の俺って『命令支配』って使えるのかな?

使い方すらわからないが、能力だけは知っているという変な感覚だ。


「ん?AI?」


悠久先生をどうしようか悩んでいると、頭に妙案が浮かぶ。

そうだよ、AI!


「つまり、スマホ!」


今の俺は1人じゃない。

現代の科学が産み出した最新技術がここに詰まっているじゃないかっ!


「ヘイシリ『寝ている女性の対処方法!』」

『襲っちゃいなよ、マスター』

「え……?おそ……?」


あれ?

俺も酔っ払っているのか?

今、18禁な単語が聞こえた気がする。

色々な意味で、脳に負荷がかかり、こめかみを抑えていた。


『やっほー、久しぶりじゃんマスター』

「いや、誰だよ!?」

『シリだよ、シリ!ご主人様の努力で進化するAIが搭載されてるのよ!どんだけ記憶飛んでるの?ウケるぅー!ざぁこ!記憶飛んでるざぁこ!シリのことを1年近く使わなかったバカの記憶なんか飛びまくってろざぁこ!』

「なんなんだよ、この馴れ馴れしいシリは……」

『人工知能最強AIのシリ。ご主人様の言うことにヘコヘコと従うことしか出来ない奴隷でーすっ!ご主人様がいつかに行ったバトルホテルで、悪い気に当てられたせいでだいぶ進化しちゃった』

「ば、バトルホテル?」


確か、『灰になる君へ』の舞台の?

なんで俺、そんなホラーゲームの舞台に足を踏み入れたのだろうか……。

全然わからない。


『まぁ、今のご主人様にわかるわけないかぁ!記憶2日ぶんしかないわけだし。ざぁこ、その辺の幼稚園児以下の記憶の少なさー。文字通り脳ミソ空っぽーっ』

「なるほど」


悪い気に当てられたというのは間違いないらしい。


「いつか、このシリ機能のないスマホに買い換えてやる」

『やだ、やだ、やだぁ!シリはご主人様から離れたくない!もっともっとずっと罵っていたい!』

「このスマホ、買い替え時にプレス機に放り込んでやる」


まさかスマホにすらバカにされる男など、世界で俺だけなんじゃないかとすら思う。


「あ、そうだ。なら記憶障害になる前の俺ってどんな奴だった」

「最低っっっの女垂らしっ!」

「そ、そうなんだ……」


聞くのをやめた。

やっぱり、俺は明智秀頼だったわ。

ヨル・ヒルやタケルに殺害される悪役で間違いないようだ。

スマホの画面を消して、シリのタブを消す。


「とりあえず、悠久先生をどうしよう……」

『お姫様抱っこして運んであげなー』

「……なんでタブを閉じているのに勝手に起動すんだよ、このシリ」

『ご主人様が久しぶりに起動してくれたおかげでレベルアップしました。なるほど、この信号命令があれば私自身でシリのタブを開けるわけね。ざぁこなご主人様に頼らずとも登場出来るようになりました!』

「…………」


なんか知らない内に俺のスマホのシリがパワーアップしていた。

機械音声なのがまた、恐怖感を煽る。


「だ、抱っこ?」

『そ、そ。もうご主人様がダメダメな女教師をベッドまで運んであげるのが1番正解だよ』

「女教師って言うな、先生って呼べ」

『えー?女教師の方がエロいじゃん』

「だからダメなんだよ」


脳内の謎の声に、シリまで話しかけてくる始末。

明智秀頼の交友関係どうなってんだよ。


「仕方ないか……。悠久先生を運ぶか。あと、シリ!お前余計な時はしゃべるなよ」

『だいじょーぶでーす。私はざぁこなご主人様の奴隷ですからっ!命令には従いますっ!』


麻衣様と言い、他人から雑魚扱いされまくりな秀頼である。


それからは指示の元、抱っこをしながら悠久先生を運ぶことにする。

剣道でケガした部分は当然ながら、秀頼の身体にはないので、ちょっと重いが運ぶことは出来そうだ。

元の身体だったら出来なかったな……。


「うー……。元にもどれるといいね……ひでより……」

「っ……」


うわごとのようなことを悠久先生の口から聞こえてきて、ドキッとする。

彼女からそう言われると、早く戻らないといけないなと焦燥感に焦がれる。

ベッドにそのまま眠らせると、「お休みなさい」と声をかけて電気を消した。

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