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75、2人の飲み会

「もうやってられないわよ!仕事が終われば新しい仕事っ!仕事が終わる前に新しい仕事、新しい仕事……。社会なんてね、滅べば良いのよっ!」

「そうですね、滅べば良いんですよ」


ポテチのコンソメ味を堪能しながらとりあえず悠久先生の愚痴に頷いていた。

剣道部女子の吉田から言われた言葉を思い出していた。


『由美に好かれたいんでしょ?女に好かれるには愚痴に否定してあげないで、とりあえず肯定してあげる男がモテるんだから!』


別に来栖さんを落とす時のようなことを一切しているわけではないのだが、この酷い絡みを否定する方が面倒なことになると判断したのでとりあえず肯定モードになっていた。


全然悠久先生はお菓子を食べる気がなくなったので、食品ロスも無くすためにポテチとパッキーを食べきれるように計算しながら自分のペースで食べ進める。


「そんなさーア●パンマンの顔感覚で新しい仕事持ってくんなっての……。頭バ●コさんかよ……」

「そうですね。みんなの心にバ●コさんがいるんだから許してあげてください」


そもそも頭バ●コさんって何……?

俺の慰めの言葉も、もう何を言っているのか自分で理解出来ていなかった。


「ひでよりぃぃ!酒!冷蔵庫にあるから!」

「もうやめましょ?ビールをビン1本飲んでいるんですよ?」

「秀頼が持ってきてくれないなら、ウーヴァーイーツで酒頼むもん!」

「わかりました、わかりましたから……。持ってきます!持ってきますからぁ!」


明日の朝は、今朝より酷くなりそうだ……。

現在21時半。

既にこんなにベロンベロンな悠久先生に早く眠ってもらいたいものだ……。


「ほら、早くっ!」

「あの……。とりあえず解放してくれませんかね?悠久先生に首を抑えられて動けないんですよ」


しかも正座しているから、足が限界である。

親戚の葬式の時のような足の痺れを既に感じていて、立ち上がるのが怖い……。


「秀頼ぃぃ……、逃げないでね……」

「大丈夫ですよ……。2、3分待っててください……」


達裄さんも悠久先生と飲むとこんな苦労しているのかな……?

彼女からスタヴァに誘われた時も露骨に避けていたし、もしかしたらこういう展開になったことがあって2人きりは嫌な可能性もある。

スタヴァは別に居酒屋ではないが、居酒屋じゃなくても嫌という無言の圧力のような気がしてきた……。


「1分!1分で来て!」

「すぐに戻りますからっ!」


キッチンへ早歩きで向かい冷蔵庫へ向かう。

中を開けると、冷蔵庫の一角に冷やされた缶のお酒が並んでいる。

チューハイ、サワー、カクテルと並ばれてあるがそちらは眼中にない。


「無い……」


しかし、俺の目当ての酒は缶では置いていなかった。

酒の知識として、『悪酔いするのを防ぐのならビールを飲んだらビールオンリーにする。その日は同じ種類の酒しか飲まないようにするのが正しい飲み方』という親父の言葉に従い缶ビールを探すが置いていない。

確かに、悠久先生はビールが苦手みたいだけど……。

かといってまだ残っている瓶ビールに手は付けたくない。


『コークサワーです!』とか言いながら缶コーラでも渡そうとも考えたが、すぐに見破られるだろうか……。


「仕方ないか……」


コークサワーの缶を手に取り、冷蔵庫を閉める。

どれがアルコール低いかとかまったく知識がないのでチョイスに意味はなかった。

そのまま冷えた缶を握り締めながら悠久先生のいる居間に目指す。


「ただいま戻りましたーっ!」

「遅いっー!お・そ・い!」

「と思うじゃないですか?」

「え?なに?」


言われっぱななしのパシリなのもムカついたので反撃することにする。

年上相手でも、たまには言い返したくもなる状況である。


「実は俺、今マジックで瞬間移動したんですよ」

「ええっ!?嘘だぁ!ウソ!ウソ!」

「悠久先生の体内時計を1秒辺り1分になる催眠術が効いたんですよ。だから俺が席を外したのは1秒です」

「すげぇ!すげぇ!すげぇ!」


酔っ払いはチョロい。

思考回路滅茶苦茶だな……、とドン引きしてしまう。


「それで、なんのお酒を持ってきたの?」

「コークサワーです」

「良いじゃん!飲もう!」

「まったく……。なんで缶ビールを置いてないんですか」

「ビール苦手だから」


その苦手なビールでベロンベロンに酔いながらコークサワーの缶を開けて、ごくごくと飲みはじめた。


「はぁぁぁ、うめぇ……。やっぱり疲れた身体にはお酒よ」

「お酒、ほどほどにしてくださいね?」

「だいじょーぶでーす。酒を飲んでもわたくしは飲まれないから」

「どの口が言ってるんですか……」


明らかにテンションが高くなった悠久先生。

絡んだり、悲しんだり、楽しんだり喜怒哀楽がぐちゃぐちゃである。


「お前、今いくつだ?」

「え?いくつだろう?16歳か17歳くらい?」


明智秀頼として生きた記憶が2日しかないので詳しい年齢は知らない。

ただ、亡くなった(と思われる)のが17歳なので多分それくらいだと思う。


「おー、あと3年くらいでお前も酒飲めるのか。楽しみだなぁ、秀頼ぃ!」

「そ、そうですね……」

「お前が成人したらすっげぇ良いバーにヨルちゃんたちと一緒に連れて行ってやるからな……」

「そうですか。期待しないで待ってます」


高校卒業したら悠久先生とも接点なくなるだろうし、多分実現されないだろう。

コップに入ったコーラを一口飲みながら、それはそれでちょっと寂しいし、虚しい気持ちに拐われていた……。

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