67、明智秀頼の自惚れと確信
楓さんを見送っていると、じゃんけんが終わったらしく彼女ら3人がこちらのテーブル席に集まって行く。
俺の隣にはツインテールにした栗色の身長が低い少女が隣に座ってくる。
「やりましたよ秀頼君!」
「はぁ……」
明智秀頼の彼女?である佐々木絵美である。
これが明智秀頼に奴隷として操られている女の子の表情なのか?
あまりにも生き生きしていて、これが『命令支配』で操られて宮村永遠の家族を地獄に突き落としたのだとしたら人を信じられなくなりそうだ。
「まったく……。まぁ、まだマシか……」
「こういう時の絵美はやたら強い……」
「ギフトがあるからね!」
Vサインを表すかのように、手をチョキにして2人に掲げて見せる。
ということは絵美はじゃんけんに勝った上で明智秀頼の隣に座ってくれたのか……。
…………めちゃくちゃ嬉しいんだけど……。
…………え?ギフト?
絵美にギフト……?
し、知らねぇ……!
なにその設定!?
「絵美のギフトはじゃんけん関係ないじゃないですか……」
宮村永遠がジト目になりながら呟く。
「それくらい秀頼君への想いは強いよってこと!」とドヤ顔になりながら無い胸を張る。
じゃんけんに関与するギフトじゃないのか……。
全然わからない……。
「ねーっ!」
「う、うん……」
「めっちゃ秀頼が戸惑ってるぞ」
「絵美のベタベタに秀頼さん、引いてるんじゃないですか?」
「引いてないよ。惹かれてるんだよ!ね?」
「ど、どうなのかな……」
多分、両方。
引いてる3割、惹かれてる7割程度にはちょっとだけドキドキしている。
来栖さんと全然性格も顔も違う彼女に対し、ウチっ子の言うような戸惑いももちろんある。
「秀頼君は照れ屋だからね!すぐに顔に出る」
「…………」
「いつも以上にウブだな秀頼。最近のお前は少し耐性が出来ていたし、これはこれでウチは好きだぞ」
「久し振りに長いセリフを言いながら何言ってるんですか咲夜。耐性なんかまだ出来てないですよ。私にはいつもドキドキしてくれます」
「それは永遠だからだろうが!」
わからん……。
みんなして俺をからかっているのだろうか……。
友達としてとはわかっていながらも、ウチっ子の好き発言にソワソワしてしまう。
こんなに素直に異性から好きと呼ばれる経験がないので、顔の表情に困り、頬辺りに違和感がある。
「さ、咲夜と呼ばれているけど、名前は咲夜で良いんだよね?」
「そうだ。ウチはウチっ子じゃない!どっからウチっ子なんて表現が出るんだ!まったく!」
「自分でウチって呼んでいるからじゃないですか?」
「ウチのせいか……」
そんなわけでテーブル席の席順は俺の隣に佐々木絵美、俺の前に咲夜、左斜めに宮村永遠ということになった。
「ウチは谷川咲夜だ。これ、テストに出るから」
「ふーん」
「秀頼なら突っ込んでくれるのに流された!?」
「え?俺そんなボケに突っ込む人なの!?」
何言ってんだこいつみたいなノリで流したが、谷川咲夜的には不満だったようだ。
隣の宮村永遠に助けを求めるように左腕に抱き付く。
「薄情だ!な、永遠!?」
「知りませんよ。私、そんなくだらないボケしませんし……」
「くだらない……」
グサッと刺さったように谷川咲夜はダメージを受けていた。
なんとなくこんなノリに懐かしさを覚える。
「…………」
そうだ……。
こんな風にみんなで楽しく雑談していたこと、あった気がする。
それは……、それはとても大きな陽だまりのようで……。
ずっと、このままみんなと一緒に居たいって……。
「…………」
「秀頼君?秀頼きゅぅぅぅん!」
「ん?ど、どうしたの?」
「泣いてるよ?大丈夫?」
「え…………?」
絵美に指摘され、頬を触ると水滴があった。
その水滴に触ると、指に吸い込まれていく……。
その水滴が垂れて濡らした道を辿っていくと、瞳の下にたどり着く。
彼女の指摘通り、俺は泣いていたのかもしれない。
「秀頼っ!?」
「秀頼さんっ!?大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ……。本当に……、だいじうぶだから……」
情けない……。
でも、目を開けられないくらいに涙が決壊し、手で顔を隠してしまう。
泣いている情けない顔を誰にも見せたくなくて顔を隠しながら、自分でも早く泣き止めと命令しているのに収まらない。
この自分の歯がゆさが何故か無性に悔しい……。
「記憶はなにも無いんだよ……」
「うん……。大丈夫、バカにしたりしないから。ゆっくり話を聞かせて」
絵美から背中を撫でられると安心する。
近くに彼女の人肌の暖かさに安らぎと懐かしさが込み上げてくる。
「でも、なんか……。なんなんだろうこの気持ち……。大事なものが奪われたような……。…………表現が出来ねぇ……。なんだよ、これ……」
佐々木絵美だけじゃない。
谷川咲夜にも、宮村永遠にも、津軽円にも、ヨル・ヒルにも……。
もっともっとたくさん、大事に想う気持ちがあった気がする。
すでに思い出した3つのよくわからはい記憶を中心に、ヒビが入っていくような感覚がある。
「…………ごめん……。取り乱した……」
「安心して秀頼君……」
「うん。絵美の言う通りだ」
「良い傾向かもしれませんね。頑張りましょう秀頼さん!」
「ありがとう……。みんな……」
なんでだろう……?
彼女たちと接してみて、彼女たちが俺を嫌っていりれはずがない。
そんな自惚れながらも、確信したようなものが心の真ん中にあった。