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58、近城悠久は起きたくない

そんな感じで悠久先生に振り回された夜が明けた。


「ふわぁぁぁぁ……。ねむっ……」


昨夜、『帰って来ない妹の部屋とベッドを貸す』と言い渡されて、可愛らしいピンクの毛布で起きた。

帰って来ない妹さんと聞くと、なにやらわけありのように感じてしまう。

家出か行方不明か、はたまた亡くなってしまったのかは知らないがちょっとだけ悠久先生の人生に同情して眠ったことになる。

彼女がセットした目覚ましを止めてから、ベッドから起き上がって部屋を出るが悠久先生の姿はなかった。


「あっれぇ?もう学校行っちゃったのかな?」


現在は6時35分ほど。

流石に教師の朝は早くてもまだ学校に行くはずないと予想を立てた時だった。




『ピリリリリリリリ!』

『テロテロテロテロ……』

『ちりりりりり!ちりりりりり!』




「う、うるさっ!?」


複数のアラームがどこかの部屋で一斉に鳴り始める。

アラーム音に導かれていくと、1つの茶色い扉の向こうで爆音が鳴っているのにドキドキ緊張してしまう。

それが目覚まし時計だと気付いた時には、すぐに音が止まる。


「あぁ。なんだ、ここ悠久先生の部屋か」


アラーム音が一斉に停止し、悠久先生が起きるんだなと思い廊下で待ってみる。

朝、気持ち良く挨拶をしようとスタンバる。


「…………あれ?」


しかし、4分ほど待っても悠久先生は扉を開けない。

それどころか、起きている様子もなく部屋が静まり帰っている。

起きてないのかな?と起こしてあげようとしたら、また爆音のアラーム音が一斉に鳴りはじめた。


「いっ!?」


しかし、『ピリリ──』とすぐに目覚ましが止まる音はする。

が、ベッドから立ち上がる音すらしない。


「ゆ、悠久先生?朝ですよー?」


そっと起こすように彼女の部屋を開ける。

そこには目覚まし時計10個に囲まれて爆睡している悠久先生があった。

口元から1本のナメクジの這ったような道になった唾液を垂らし、毛布も蹴っ飛ばされたのかはだれて、寝巻きのボタンも外されて胸に付けているブラが露出している。


「うわぁ……。エロいけどダメ人間だよこの人……。エロいけども……」


そっと毛布を掛けて、俺の視界からブラを隠す。

垂れている唾液を側にあったティッシュで拭き取ってあげる。

ティッシュのゴミだけで8割埋まっているゴミ箱にその唾液を拭いたティッシュを投げ捨てた。


「ほーら、悠久先生。朝ですよー!」

「わたくしはそーだいなおんななの……」

「そうですね。そーだいです。そーだいですね」


身体を揺らしながら、彼女を起こそうとするが変な寝言だけ呟き起きようともしない。

完璧な女に見えた先生にも欠点があるんだな……と、見てはいけないものを見た気分になる。


「ほら……。来て、たつゆきさん……」

「ちょっ!?うわっ!?先生!?先生!?」


起こそうと揺らしていたところに、悠久先生の手が伸びてきて俺に抱き付いてくる。

首もとに俺の顔を押し付けるようにすると、そのまま離さなくなった。

うわっ、唇が首に当たっているんだけど……。

抱かれた手を剥がしながら、「悠久先生!!」と口元で叫ぶと「っ!?」と息を漏らし目を覚ましたのだった。


「あっ……。秀頼……」

「早く起きてください……。5分起きになる目覚まし時計に頼っているから起きられないんですよ。ほら、早く起きてください!」

「やーだ……。学校行きたくない……」

「生徒の前で生徒みたいなこと言わないでくださいっ!」

「やだ!やだ!学校行きたくない!学校行きたくない!」

「いつもどうやって起きてるんですかあなた!?」

「やだーっ!やだーっ!わたくし学園長なのに部下に舐められるんだもん!あんな職場無くなれ!」

「知りませんよ!」

「年功序列なんか嫌いだーっ!」


朝でなんか鬱になっている悠久を無理矢理起こして、目覚まし時計が今朝はもう鳴らないように設定してあげる。


「朝はいつも何食べてるんですか?」

「よーぐると」

「良いですね!朝からヨーグルトは贅沢ですねっ!」


寝ぼけた悠久先生のケツを叩きながら、朝食を食べさせて歯磨きをさせて準備させた。

ようやく正気を取り戻したのは、車のハンドルを握った直後だった。


「あら?おはよう秀頼。学校行く元気は出たかしら?」

「今、その元気が無くなりそうなんですが……」

「そうなの?」

「悠久先生、朝弱くないですか?」

「ふふーん!わたくしは壮大な女なの!弱点なんかないに決まっているじゃない!」

「…………」


今朝のことは俺の記憶からも無かったことにする。

こうして、不安ながらも学校に連れて行かれることにする。


「あんたのクラス、2年1組だから!」とだけ忠告されて、職員室前で悠久先生と別れた。


「そんなこと言われても……」


まず、2年1組の教室ってどこやねん。

スーパーファミコンあたりのいきなり説明もなく急にはじまるRPGの主人公のような気分になる。


「デュフフフフ!お困りですかな明智氏!?」


困惑して、昇降口に向かっているとメガネで小太りの怪しい男が俺に話しかけてきた。

明智って慣れないなぁと思いつつ、誰だこの人?と純粋な感想が出た。

秀頼の知り合いにしては、俺のオタクトークに付いていけそうなくらいに同士のにおいがした。


「ど、どうしましたか?ワイのことが誰かわかってない顔をしてますが?」

「いや、本当にわかってないが……」

「アヤヤヤっ!?白田ですぞ、明智氏」

「ふーん」

「凄くどうでも良さそうでござるな」

「因みに2年1組ってどこ?」

「は?」


こうして同じ2年1組のクラスメートということが発覚した白田という男子から教室に案内してもらう。

「今日の明智氏はなんか変でござる」と、変な口調で言われながら彼と別れた。

ついでとばかりに俺の席も教えてもらい、自分の席に座る。


「はぁ……。大丈夫かなこの調子で……」


まったく見覚えのない教室。

知らない人だらけのクラスメート。

今朝の悠久先生のように叫びだしたい気持ちになりながら、小さく椅子へと座っていたのであった……。

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