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56、天使呼ばわり

結局、学園長先生の自宅に連れられた俺はあれから余っている部屋を1つ借りた。

その部屋で部室で会った子にだけ当たり障りのない返信をしていく。

佐々木絵美や津軽円などはともかく、そういえば『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズの登場人物以外の子は誰が誰なのかわからなかった……。


上松ゆりか、谷川咲夜、細川星子、綾瀬翔子、浅井千姫……。

さっき部室にいたメンバーのようだが、この辺が誰が誰なのか全然わかんねーや……。

岬麻衣というのが、学校で頼子呼びをしていた麻衣様だろうか。

そんな感じで知り合いについて頭の中でまとめていた。

ある意味、最強の脳トレであり記憶力低下の予防に効きそうなほどに頭を使う。


他のラインのリストを見ていく。


「…………ん?」


灰原ノア。

牧原小鳥。

一ノ瀬楓。

この3つの名前を見付けると指を止める。


「なんで『灰になる君へ』の3人のヒロインと知り合いなの……?」


確か、廃墟を歩き周り殺そうとしてくる甲冑から逃げ回るゲームだ。

青鬼を盛大にパクっ……、リスペクトした作品だった記憶がある。

でも、普通に数日前にやり取りした履歴がある。

じゃあ、生きているのか……?


100パーセント殺される不憫な役割であるクール系なヒロイン顔のモブである一ノ瀬楓はつい1時間ほど前にラインを送ってきている。

い、一応後で返信しておこう……。


「サーヤ……、って直球な名前があるな!もっと関係ないじゃん!なんで違う作品のラスボスと交遊関係あるんだよ!?」


突っ込みどころが満載なスマホの画面を消した。

明日に記憶が戻るかはわからないが、早く記憶を蘇らせて自分のことを思い出したいものだ。

こんなに自分のことがわからないことが、歯がゆいことなんて知らなかった……。


「はぁ……。学園長先生のところに行くか……」


今は夕食の準備をしてくれている。

完全にお客様気分でいるのも気まずくてなにか手伝いでもしたい気分になっていた。

キッチンへと向かうと、学園長先生は冷蔵庫へと向き合っていた。

そんな彼女の横に立つと、「あ、秀頼!」と俺の姿に気付いたようだ。


「どうしたの?」

「俺に手伝えることがあればと思いまして。学園長先生もお勤めでお疲れでしょうし、なにか役に立ちたいんです」

「え?天使?」

「え?お、俺が?」


真顔で天使呼びされて戸惑う。

ちょ、ちょっとこそばゆい響きだ。

五月雨茜に対して、記憶がぐっちゃぐちゃになっていたとはいえ天使ちゃん呼びしたのだが、これは確かに呼ばれた方が恥ずかしいな……。

あの時の五月雨茜の気持ちとシンクロしたのであった。


「それじゃあ、なにか料理でもしましょうか?その間、学園長先生はお風呂入ったり、シャワーを浴びててくださいよ」

「ひ、秀頼?ほ、本当にそれで良いの?むしろ、わたくしが料理している間にお風呂入ってもらおうとしていたのに……」

「はい、大丈夫です。お疲れでしょうし、少しでもあなたの力になりたいんです」

「そ、そう。ならキッチンは秀頼に任せるわ」

「任されました。ただ、男の料理なんであまり味に期待しないでくださいね」

「一応、専門の調味料はあるからね」

「あー!クックドォとかもあるんですね!」

「好きに使ってちょうだい。秀頼に甘えてお風呂行ってくるから」

「はーい」


こんな大きなお屋敷に済むお金持ちっぽい学園長先生もクックドォとか使うんだと思うと親近感が沸いた。

やっぱり食文化は同じだよね。

彼女がキッチンから居なくなると、改めて冷蔵庫の中身を自分で見てみる。


「うわぁ!たまごの殻が白じゃなくて茶色のやつだ!これ高いやつ!」


多分だけど!

確か、未来のタケルやヨル・ヒルの料理の師匠がなにを隠そう学園長先生──つまり近城悠久である。

料理得意のヨルの師匠である学園長先生の料理を食べてみたかった欲はあるが、ただで泊まらせてもらっている以上は手伝いはしてあげたい。

材料を冷蔵庫から取り出しながら、とりあえず作れそうなレパートリーを頭で考えながら並べていくのであった。






─────






「ふぅぅぅ……、生き返るわー」

「お、お疲れ様です。学園長先生。め、目のやり場に困るんですけど……」

「赤くなっちゃって。かわいーっ!」


長風呂を終えた学園長先生が戻ってきた。

先ほどまで優雅にドライヤーをかけていたのも音でわかっていた。

髪を乾かしてすぐにシャツにパンツ姿というかなりラフな姿で現れて、心臓がドキッと大きく高鳴る。

その反応に満足したのかすぐに脱衣所に引き返した。

3分もすると、寝巻き姿に身を包みながら戻ってきた。

「からかうのはやめてくださいよ、学園長先生……」と脱力しながら注意する。


「…………」

「な、なんですかジッと俺を見つめて?」

「学園長先生ってやめてよ。秀頼にそう呼ばれると皮肉言われてる気分になるわ」

「そ、そんなことはないけど……」


皮肉を言うような仲なのかな?

知らないけど……。


「ちなみに、俺は学園長先生をなんて呼んでました?」

「悠久って。呼び捨てで」

「ごめんなさい……。では、悠久先生でどうでしょうか?」

「あら素敵。記憶が戻ってからも是非悠久先生と呼んで欲しいものだわ」

「記憶を思い出したら考えます」


こうして、学園長先生改め悠久先生と呼ぶことになる。

彼女の長風呂のおかげで、作っていた夕飯も出来上がったのでテーブルへと並べている。

そちらへ、悠久を案内していく。

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