50、宮村永遠に対する落ち目
「大丈夫?明智君?」
「秀頼さん……」
「っ!?だ、大丈夫だよ気にしないで……」
っぶねー……。
恐らく今かなり目が見開いたと思う。
緑髪でタケルの女友達である津軽円と、俺がこのギャルゲーで1番推している紫髪のパーフェクト優等生である宮村永遠が俺に心配そうに目を向けてくる。
「…………」
そもそも津軽円って秀頼を心配するキャラだっけ……?
むしろ『男のクセに秀頼は弱すぎでしょ』みたいに小言を返す方が可能らしい気がする。
それに、永遠ちゃんに至っては目にハイライトがあってキラッキラした太陽のごとき輝きがある。
なんなの、これは!?
永遠ルート的なアレですか!?
ハーレムルートですら、目のハイライトがないのになんでここにいる彼女はハイライトがあるのだろう……。
突っ込みどころが多すぎるが、永遠ちゃんが可愛いからOKです!
…………あれ?
もしかして俺自身が宮村永遠を嵌めて不幸にして親をぶっ殺して襲ったの……?
ちゅ、中古ではないだろうけど俺が彼女を傷付けたのか……?
自分の憑依した身体が汚物のように思えて吐き気がしてくる。
いや、汚物でもここで吐いたら本当に汚物を見る目案件過ぎる。
酸っぱい胃液だけが逆流してくるが、唾液を飲み込んで抵抗する。
ごくりと喉から音がすると、なんとか吐き気を食い止める。
やめてくれ……。
俺に顔を見せないでくれ……。
宮村永遠から優しい目を向けられることに、心が耐えられなかった。
好きで好きで、大好きだからこそ宮村永遠を直視出来ない……。
なんだよこれ……。
なんで生まれ変わって、クズな悪役に憑依されて、こんなに心が既に壊れそうになってんだよ……。
「明智さん……、顔色が悪いですよ。保健室行きますか?」
このまま走り去って消えたい衝動が生まれ、この部室とやらから逃げ出そうとした時に俺を心配する声がして顔を上げる。
水色のショートカットで中性的な見た目でありながら、胸の膨らみは天下一品な彼女を見る。
リアル本能寺としてSSも書いたことのあるヒロインだったので、彼女が誰なのかすぐにわかってしまった。
「え?……。み、三島遥香!?」
「は、はい……?」
「三島遥香だよな?」
「ぼ、ボクは三島遥香ですよ……?わっ!?はじめて明智さんに名前呼ばれたかも!」
三島が「えへへへへ」と照れたような表情を浮かべている。
た、確か彼女は明智秀頼を信頼して裏切られて家族を皆殺しするんだっけか……。
今はその最中ってことか……。
──アカン!
なにが『その最中ってことか……』だ!
呑気か、俺は呑気か!?
「ん?ひ、秀頼先輩!?」
「ど、どうした乙葉?」
「え?あの……。えーとあの!秀頼先輩がおかしいです!」
「それは見ればわかるが……」
小学生くらいの女の子と1番最初に目を覚ました時にいた無口そうな子の2人が何かやり取りをしている。
俺がおかしいって指摘されると、それはそれで複雑である。
「まぁ、落ち着けってみんな」
「兄さん……」
「十文字タケル……」
「また秀頼が変な遊びでもしてんだろ」
「いや……?」
変な遊び自体は好きだが、変な遊びを現在進行形でしていると思われるのも心外である。
「ほら、見ろよさっきスタチャの公式サイト更新されたんだぜ!」
「タケル先輩、情報早いです!」
「いっしし!凄いだろ星子ちゃん!」
先ほど俺を『お兄ちゃん』と呼んだ茶髪の子は星子?という名前らしい。
激しく誰なんだろう……?
「す、スタチャ?」
そもそもスタチャってなんの略?
スタヴァならわかるが、スタチャってなんだよ……。
マスターチャンス?
文字から全然イメージが付かない。
「スターチャイルドだよ、スターチャイルド」
「あ、あぁ!スターチャイルドな!『悲しみの連鎖を断ち切り』とか『GIFT─ギフト─』とか『神を越えて』とか歌ってるやつ」
「は?え?なんつった?」
スカイブルー系の楽曲になると美作雫さんというアーティスト兼声優さんが別名義スターチャイルドで楽曲を発表するのがお馴染みになっている。
「秀頼先輩!?なにを考えているんですか!?」
「え?」
あ、よく見たらあのちっちゃい子は赤坂乙葉だっけ?
十文字タケルのいとこさんだったかな?
彼女の言葉に戸惑っていると、星子と呼ばれた子がガタッと足音を上げる。
「な、なんでお兄ちゃんがまだ未発表の曲を知っているんですか?」
「え?な、なにが?」
「『GIFT─ギフト─』って今達裄さんが作詞しているんですよ……?なんでそんな情報を」
「…………?」
誰が誰なのかわけがわからない……。
た、たつゆきさん?
当然のようにゲームのキャラクターと知らない名前が混在していて脳が理解するのを拒んでいる。
元の明智秀頼さん?
お前、悪役のクセに知り合いが多すぎるんだよ……。
明智秀頼に憑依させられた者の気持ち考えたことあんのかよ……。
「い、色々あって……」
「達裄さんが漏らしました……?」
「た、多分」
よくわからないからそういうことにしておいて辻褄を合わせる。
顔も知らないたつゆきさんに心からの謝罪を送る。
「秀頼?どうしたんだお前?」
「え?ええ?ふ、深森美月か?」
「そうだが?」
金髪のロングヘアーの女性は美月だなとすぐに気付く。
そもそも美月と秀頼の接点ってなんなんだよ……。
あっちに呆然としている赤髪ポニーテールはヨル・ヒルだってか。
なんてこったい!
『悲しみの連鎖を断ち切り』ファーストヒロイン全員揃っているじゃないか……。
どんな部活だ……。
「お姉様と一緒に美鈴もいますわ秀頼様!体調が悪いのでしたら美鈴で癒されてくださいませ!」
「う、うわわっ!?み、美鈴!?」
「はい!」
美鈴と名乗る女が俺の左腕に抱き付いて胸を当ててくる。
ぷ、ぷにぷにしていて気持ち良い……。
ん?美鈴って美月の双子の妹……?
って、顔に紋章とか無いじゃん!
こんな人前でベタベタしてくるのもよくわからないし……。
「え?え?」
よくわからないカオスな状況が立て続けに起こる。
俺がのび太なら『助けてド●えもーん』と映画の冒頭のように叫びだしたいくらいにこの空間が恐ろしいものであった。