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47、五月雨茜は逃げ出す

あの世ライフの始まり。

それはまた甘美な響きである。

人とは昔から死んだら天国や地獄があると言い伝えられてきた。

形は変わるが、現代では死んだら異世界転生なんて物語も需要は大きい。

そこから導かれることとは、人間とは死後の世界があって欲しいと願う遺伝子が遥か悠久の時から脈々と受け継がれているのだ。

いや、まさか俺本人が死後の世界があるなんてことを体現することになる人間になるとは……。

ちょっと感激である。

悠久……、なんて壮大な響き……。

つい最近まで、悠久なんて名前の女が登場するゲームをプレイしていた気がする。


「ま、いっか!あの世ライフ楽しむか」


無人島よりは楽しいはずだ。

それにこの謎の学校は先ほどの4人組といい、絡んできたギャルといいみんな顔面偏差値高すぎてドキドキさせられっぱなしだ。

自分がギャルゲーの世界に生まれ変わったんじゃないかなんて都合良い妄想すら膨らんでいく。

そのまま目的なく廊下を歩いていく。

無駄に階段を登ったりしてみて、まるでRPG初プレイ時にはじめて来た学校をくまなく探索するプレイヤーになった気分で無駄に歩きまくった。

さっきの麻衣様みたいに俺のことを知っている人がいれば、それはそれでなにか事情を知っているかもしれないと悠々と足を動かす。


「あ……」

「?」


そこへ、俺の顔を見た少女が明らかに俺のことを知っている雰囲気で呟いたのに気付き足を止めた。

小さい身体に白髪で、白めの肌となんとも神秘的な少女だと思いながら声をかけた。


「こ、こんにちは」

「こ、こんにちはです……。先輩……」

「先輩?」


俺の目を見るのが気まずいのか、下へうつむきながら応対される。

態度に対しては特にイラッときたりはしない。

ただ、それより気になることがあるのだから。


「…………え?」


こんな可愛らしい後輩なんかいただろうか?

こんな全体的に儚い雰囲気の後輩、見たら忘れられるわけないだろ……?

それにあの世の世界で、こんな白い儚い少女なんか見たら偏見ながらあるイメージが浮かぶ。


「…………天使だ」

「え、えぇ!?だ、誰がですか!?」

「いや、君が。天使だよね?」

「ちがっ、違います!自分なんかが天使のわけないです!自分はあなたにとって悪魔ですよ!?」

「またまたぁ!」

「『またまたぁ!』じゃあないですよ!」


天使みたいな子から、悪魔だと謙虚に言われてしまって気にならないわけがない。

なんだろう、この不思議ちゃん?


「あれ?自分のこと嫌いじゃないんですか?」

「大嫌いだよ」

「え……?そ、そうですよね……。自分で設定したこととはいえ何を自分は傷付いているんでしょうか……?」

「?」


なんか天使ちゃんは傷付いたような声色になる。

あ、自分ってこの子の一人称か!

一人称が自分なんてそれこそギャルゲーヒロインの五月雨茜しか見たことない。


「そうじゃなくて、俺は俺自身が嫌いだって話。うじうじ弱くてそんな俺が自分自身で嫌いってこと」

「え?」

「俺、弱いじゃん」

「いや……。めちゃくちゃ強いと思いますけど……」


剣道的な意味じゃなくて、メンタルの話なんだけど……。

訂正するのも面倒だからそこはもう触れるのやめよ……。


「君のことは嫌いじゃないよ。可愛いし……、天使みたいだし」

「あえ?…………あれれれれれれっ!?」


あー、可愛いらしい。

先輩と呼んでいたけど、俺にこんな天使みたいな可愛い後輩がいたなんて知らなかった。

中学の時の後輩とかかな?

剣道一筋過ぎて全然異性とか見てなかったんだなぁ……。

クッソ生意気な後輩しかいなかった剣道部にあんなタイプは不在だったからちょっと感動である。


「(あれ?明智先輩にギフト効いてないの?自分を最大限に嫌うように好感度をマイナス1億まで下げたはずだったんだけど……。と、とりあえず逃げよう!)」


ぶつぶつと天使ちゃんは下を向きながらなにか言葉を呟いていた。

もしかしたら俺と同じくあの世の世界で混乱している仲間なのだろうか……?


「じゃあ、さらばですっ!」

「え?あ……」


顔を上げてサヨナラを告げた彼女の目は、朱と水色のオッドアイであった。

……五月雨茜……のコスプレ?

これはまた、女性でありながらマイナーなキャラクターのチョイスと言いたくもなるが、あの娘はなんだったんだろ……?

地味に『悲しみの連鎖を断ち切り』とかいうギャルゲー世界に転生してたとか?

まさかのまさかだ。

実は主人公の十文字タケルに転生してたたらとかなら熱いが、あの無能主人公になるのはちょっと抵抗ある。

俺がタケルになるわけないけどね。


「もういっそ、学校の外に出るか……」


次は学校を出ようと昇降口を目指す。

とりあえず1階行けば外に出れるんじゃないかと、さっき登ったばかりの階段を下っていると今度は男子生徒に声をかけられた。


「お!明智先生だ!部活行ったんじゃないの?」

「明智先生ってなんだよ!?」

「いきなりなんだよって言われても……。いつも俺らに言い慣れてるだろ」


サッカー部らしき俺とめっちゃ親しいです顔のイケメン君に呼び止められた。

豊臣先生と弄るあだ名はあったが、明智という謎の呼び方をされたのははじめてだ。

あ、名前が光秀が明智ってこと!?

回りくどいあだ名である。

センスねーよ。


「そっか……。因みに、俺ってこの学校の先生?」

「生徒に決まってんだろ」

「そっか……」

「ほらほら、お前も部活なんだからサボらないでちゃんと出席しろよ」

「はい……。部活に出ます」

「おう!こっちは昇降口だ。部室はあっちだろ!頑張って来いよ先生!」

「がんばるわ!」


帰ろうとしていたのを見透かされたようで、部活に出席しろと怒られてしまった。

俺が剣道部なら武道館に行かなくちゃいけないんだけど退部済みだしな……。

そういえばさっき部活がなんたらみたいな話をしていた女子4人が居たな……。

とりあえず戻ってみようか……。

よくわからない学校の校舎を再び徘徊することになるのであった。

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