42、綾瀬翔子の完結宣言
「ん?なんだ?」
授業が始まる前のホームルーム前。
朝はいつも通り隣の席のアリアから弄られ馬鹿にされ、タケルと山本と雑談をしていた。
それからはチャイム前で、担任の星野先生待ちをしていた時にラインの受信を確認をした。
『アカネっちがヤバいかもしれない!ヤバいよ、ヤバいよ((((;゜Д゜)))』
そもそも『アカネっち』って誰だよ!?って数秒だけ知人の名前を思い出す作業に取り掛かる。
それから10秒ほど頭をフル回転させた思考を続けて五月雨茜のことだと気付く。
さも当然のようにあだ名呼びやめてくれ……。
綾瀬がアカネっちって呼んでるシーンすら見たことないし、せめて漢字で茜と書いてくれ……。
そんな文句を言ってやりたい中、ホームルーム開始のチャイムが鳴り、スマホを仕舞うことにした。
「プフフ……。ねえねえ?セフレセフレ?」
「ちげぇよ!いるわけねぇだろ……」
「まぁ、秀頼にいるわけないよねぇ!」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ……」
「じゃあ、嬉しいんじゃない?知らないけど」
「なんなんだよ……」
隣の席に座っていたアリアが目ざとくスマホを取り出してラインのメッセージを読んだことに気付き、いちゃもんを付けてきた。
彼女の中の俺はいったいどんな扱いなのか……。
どんな嘘・偽りが脚色されているのか。
正式にその偽りの明智秀頼像を直すチャンスはないだろうかとウズウズしていると担任の星野先生がやって来てホームルームがはじまった。
─────
「五月雨がヤバいねぇ……」
午前中の授業を終えて俺とアヤ氏は部室で密会をしていた。
珍しく概念さんは部室に姿はなく、なんか色々しているのかもしれない。
いや、もしかしたら俺をどこか遠くから観察し、泳がせているのかもしれない。
いや、姿のない神のことなど今は二の次だ。
「ってことは……」
「もしかしたらギフト狩りとして動くんじゃねぇのっていうオレっちの勘よ!勘が冴え渡る探偵、綾瀬翔子とはオレっちのことよぉ!」
「本物の探偵はそんな時代劇の役者みたいなこと言わねぇから」
本物の探偵の上松えりなさんと会ったことがあるが、わりと淡白で面白い人であった。
アヤ氏のイメージの探偵は存在しない。
「勘ねぇ……」
「もしかしたらアカネっち、瀧口に脅されてるとかあるかも。あいつのギフトが発動されたらアカネっちも暴走するかもしれねぇ」
「瀧口に脅されてるね……」
「おい!本気でどうするよ!?」
本気でどうするも、まだ対策という対策が見付からない。
「なぁ、五月雨って暴走すると何するんだっけ?」
「あぁ!アカネっちは暴走すると十文字タケルにギフトを…………あれ?あいつにギフト平気じゃん!」
「まぁ、そういうことよね」
「でも、それは五月雨茜ルートでの出来事だろ!他のルートをまとめようぜ明智氏!」
「他のルートとか言われてもなぁ。確かこんな感じじゃなかった?」
タケルにギフトが効かなくて、なんやかんやタケルとくっ付く五月雨茜ルートである。
赤坂乙葉も生存している優しい世界である。
……が、五月雨茜ルート以外では後輩2人は死亡してエンディングを迎える。
こんな感じなのをアヤ氏と一緒に出し合った。
お互い、ところどころの記憶が歯抜けしていて「あったあった!」と言い合うようにして五月雨茜のことについて出し合った。
「でも、オトハっちを殺せなくて焦りだすのがアカネっちルートじゃん」
「そうだね。やっぱり彼女の親友の赤坂乙葉が最後の防波堤なんだよね」
「女同士の友情カップリングとして本気出しました!」
「なにがだよ」
何故かアヤ氏がドヤ顔でカップリングを語っていたが、ドヤ顔の意味がよくわからない。
今の話題でアヤ氏が誇れる場所は果たしてどこだろうか……。
「でも、明智氏の頑張りでオトハっち死亡をなんとか回避したんだよね。時系列的に今オトハっちが死んでないともう大丈夫なはず。それから詠美の弟のシゲルっちの死も回避したんだよな」
「ああ。茂死亡フラグも念入りにその辺のフラグもぶっ壊しておいた」
「ふぅー!やるね!オトハっちもシゲルっちも生存なんて結構初見プレイじゃ難しいんだぜ!」
わざわざ『命令支配』を奪われるリスクを犯し、関翔にギフトまで使って対策済みである。
あいつのギフトは『コピーしたいギフトの使用を見た自覚』が大事だから、その自覚さえさせなければどうにかなると原作で語られてあったから大丈夫なはずである。
「あと、そのいちいち●●っちみたいなのが気になるわ!話が頭に入って来ないよ!た●ごっちかよ」
「おやおやぁ?意外と明智氏の中身はおっさんですなぁ!?」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ!お前の人の呼び方は●●氏だろ!?」
「そういやそうだった。アカネっち……茜氏のフラグは色々へし折ったんだな……。なら……」
「なら?」
アヤ氏は考え込むように目を瞑り、顎に指を置いている。
すんなり原作知識が頭に入っている辺り、円よりも『悲しみの連鎖を断ち切り』をやり込んでいるようで心強い。
「あれ?もう茜氏暴走フラグ終わってるじゃん!」
「終わってる?」
アヤ氏はすっとんきょうな声を上げる。
「あぁ」とアヤ氏は震えながら俺を見上げる。
なんか上目遣いなのがちょっとドキドキさせる。
「ああ!最後はタケル氏にギフト使うも未遂!これでタケル氏は茜氏と結ばれる!五月雨茜ルート完結だ!」
「ま、マジか!?」
「あぁ。そこででしゃばらず明智氏がモブに成りきることで明智氏死亡ルートもチャラ!」
「チャラ!やったぜ!」
チャラ!
なんという素晴らしい響きなのか!
「あぁ!今日がセカンドシーズン完結記念だ!」
「頼もしいぜ!ブレインアヤ氏!」
「あんまり褒めるなよ!スタヴァくらいしか奢んねーよ」
「太っ腹じゃねーかよ」
よくよく考えたら後輩のアヤ氏に奢られる理由はまったくないのにスタヴァを奢ってくれるなんてありがたい提案ではないだろうか。
「あれ?ちょっと待って」
「どうした明智氏?」
「タケルって五月雨とフラグ立ってたっけ?」
「え?乙葉氏と茂氏の死亡を回避した五月雨茜ルートにタケル氏が行くには最低限彼女にジュース奢って、ジュース飲みながら『クュゥー!』って言う茜氏の決めセリフを聞かないとルート入れないぞ。流石にこのルートは通ってるはずだって」
「あれ?乙葉と五月雨とタケルで雑談する程度では?」
「まだ好感度不足だな。その調子なら乙葉氏ルート行くよ」
「へー」
「だからぁ、大丈夫よ明智氏!タケル氏と茜氏のカップリングに喜びましょうぜ!」
ジュース奢りも、『クュゥー!』もなんか俺に身に覚えがあるのだが、アヤ氏が自信満々に『大丈夫』と断言するなら大丈夫な気がしてきた。
「とりあえずセカンドシーズンは生き抜いたことで良いんじゃね?」
「でも、ギフト狩りどうすんだよ?瀧口先生そのまんまじゃん」
「そうだな……。瀧口をどうにかしないとファイナルシーズン行けねーな……」
因みにファイナルシーズン前には瀧口先生は退場済みである。
ギフト狩りとも長かった戦いもセカンドシーズンで完結なのである。
「ヨル氏がどうにかするんじゃないのか?オレっちも他のヒロインルートを通ったタケル氏の人生がギフト狩りをどうするか知らないよ。設定してないし。ヨルタイムリープ前の人生とは変わってんじゃない?」
「設定ってなんだよ?」
「さぁ?まぁ、ご都合主義でどうにかなるっしょ」
「すっげぇ雑じゃん」
唐突にご都合主義とか言われると凄い不安になる。
「とりあえずセカンド完結記念打ち上げってことで放課後に部活終わったらスタヴァな!円氏くらいなら連れて来て良いから」
「わかった」
こうして、放課後の予定は部活とスタヴァという充実したものが建てられたのであった。