37、スターチャイルドは驚かれる
絵美に先導されながら自然公園に向かう。
そういえば、タケルがセレナと会ったってのがきっかけで自然公園に行ったことを思い出す。
そのタケルから『会って欲しい子がいる』という話題も出されていたがワンチャンその人はセレナだったりするのだろうか……?
本人が居ないことには確かめようのないことである。
ザイザリアに向かう時と同じくして、右にスタチャ左に絵美と手を繋ぎながら歩いていた時だった。
「あ!見て明智さんに絵美先輩!ミルクたいっていうたい焼き屋ですって!あとで公園で食べませんか?」
「ここのたい焼き屋昔からあるんだけど行ったこと無いんだよねー。気にはなってた」
「俺もー」
というか数回しか自然公園に行ったことが無い中で、毎回素通りしていた店である。
広くない店内なので、入店したら最低1個は買わなくてはいけない雰囲気になる店なので敬遠していたところがある。
しかし、スタチャが食べたいと言うと『なんかたい焼き食べてぇ』という口になってしまう。
人間……というか俺は単純だなぁと自己嫌悪に陥りながらも、スタチャと絵美に引かれてミルクたいに足を踏み入れる。
「いらっしゃーい」という若い女性の店員さんの明るい挨拶が出迎える。
スタヴァの姉ちゃんとも違う、少し姉御肌な感じの挨拶がなんとも心地良い人だと気分を良くさせられる。
それにたい焼き特有の皮や、クリームなどの匂いが充満していて小腹が空きそうになる。
「め、メニューがお決まりになりましたらご注文をお願いします」
「はーい!」
店員さんが少し上ずった声を上げて、なんか俺らにビビってる?と違和感を抱いた瞬間に、サングラス付けているからか……と気付いてしまう。
そりゃあ、いきなりサングラス3人組が狭いたい焼き屋に入店したら怖がるし、引くよねと今の自分を客観的に見る。
「そうですねー…………。あれ?」
「どうしましたか?」
絵美が疑問を持ったのか、微妙な声を出す。
それにスタチャが聞き返す。
俺も絵美の反応が気になり、彼女に視線を向ける。
絵美は何故かまっすぐに店員さんを見ていた。
『どうしたんだろう?』とスタチャとお互い顔を見合わせてその視線の先に目を向けると絵美の疑問も晴れる。
「か、か、か、楓さん!?」
「え?や、やっぱり明智君!?こっちは絵美ちゃんだよね?」
「あはは……。サングラス取りますね……」
知り合い……、じゃなくて俺の彼女がたい焼き屋で店員さんをしていて唖然としながらサングラスを外す。
絵美もスタチャも同時にサングラスを外している姿を見て、「え?なにやってんの?」と楓さんも混乱している様子だった。
「すいません。スターチャイルドとデート中でして……」
「こっちの姿でははじめましてになるんですかね?スターチャイルドの細川星子です……」
「え!?スターチャイルド!?ぎ、ギフトで姿を変えてるとは聞いてたけど……。えっ!?本物!?」
「髪の色はわざと白髪にしてますよ?金髪と黒髪メッシュだとサングラス無くても正体モロバレなので……」
「えへへへへ」と照れくさそうにスタチャが愛想笑いを浮かべている。
「事情を聞くだけのと、実物見るのとでは衝撃がやばばばばば」
「落ち着いてください楓さん……」
「止めてもダメだよ秀頼君……。わたしもスタチャと初対面の時は特にファンでも無かったのにキラキラ輝いて見えましたから……」
「そ、そんな持ち上げるようなことやめてくださいよ……」
スタチャが遠慮しながら謙虚にしているが、身近な人がアイドルなんて受け入れるのが難しいのを彼女はわかっていない。
俺もたまに妹がアイドルしているというパワーワードにハッとする時があるのだから……。
「すごぉ……。ノアなんかガチスタチャファンなんだよ?」
「ノアさん。なんか懐かしいですね。小鳥さんも最近会ってませんねー」
「私は大学でよく会うけどね」
「言い触らさないでくださいね?」
「わ、わかってます!」
ガチガチに緊張した楓さん。
姉御肌な声だった店員さんの影は形も失くなってしまっている。
気の毒になったのか、スタチャがサングラスをかけて目を見えなくしたのであった。
「ところでここは楓さんのバイト先ですか?」
「そ、そういうことー。わりと暇で時給良い穴場のバイト」
「へぇ!最高の環境じゃないですか!」
「でも、明智君は会社でお茶汲み係だけして給料もらいたいんだよね?」
「そうですね」
「それはどんな仕事なんですか秀頼君……?」
絵美があるわけないじゃんという目付きである。
スタチャもサングラスを掛けていて瞳が見えないが、十中八九絵美と同じ表情なんだろことを察してしまう。
「でも、なんか可愛いエプロンですね楓さん!」
「そ、そう?」
「楓さん手作りたい焼きとか不味いわけないじゃないですか!全種類とか頼みたくなるよ!」
小倉、クリーム、チョコなどベタな味から、抹茶やブルーベリーなど珍しい味まで20種類と中々の品揃えであった。
「業者じゃないんだからやめておきなさい……。た、ただありがとう……。私、たい焼き屋をしていてそこまで言われたのはじめてで嬉しい」
店員さんの楓さんは赤くなりながら、口元を抑えていた。
年上お姉さんの照れ顔を見ていて、俺も耳辺りの体温が上がった自覚があったのである。