36、明智秀頼の不快感と優越感
「どうどう?前に勢いで買ったサングラス!逃走中のハンターになった気分!」
「意外と似合ってるなぁ……。逃走中のハンターみたいだ」
小さい絵美とサングラスのギャップはあるが、なんか微笑ましい姿になって自宅から戻って来たのであった。
「絵美先輩のサングラスオシャレですね!確かに似合ってますよ」
「ありがとう、スタチャ!」
「あと、明智さんも絵美さんもあんまり外で『スタチャ』呼びしないでくださいね……。星子でお願いします」
「そ、そうだったね……。ごめんごめん」
「俺も気を付けるよ」
特に10代から20代前半のファンが多いとはいえ、アイドルはアイドルだ。
気軽にスターチャイルドの名前は出さないようにと自制をする。
「あ、秀頼君!ちょっとわたしのスマホ持って」
「え?別に良いけど……。なにかしたの?」
「サングラス星子ちゃんと写メ撮りたい」
「サングラス写メとか恥ずかしいんですけど……」
「マスクは取ろうよ」
「記念だよ、記念!さぁ、秀頼君!」
「はい、行くよー!」
カシャ、カシャと何枚かの写真を撮っていく。
個人的なオススメはスタチャスマイルをするスタチャと、それを真似する絵美の写メである。
それから2人が俺とも撮りたいとなり、絵美とスタチャと交代しながら写メを撮っていった。
最後のスタチャの撮影会も終わり、「あとで2人に写メ送るよー」と絵美のスマホにサングラス写真が貯まっていった。
「よくよく考えればわたし、アイドルをカメラマンに使ってファンに怒られないかな……」
「そんな野蛮なファン、私にはいませんから安心してください。……あ!」
「…………(じーっ)」
「…………(じーっ)」
「な、なんで2人して俺を見るの?」
「明智さんが1番野蛮になりそうで……」
「俺のイメージよ……」
確かにアイドルであり妹の彼女のことになると野蛮になるかもしれないが、そんなことで怒ることはない。
「とりあえず動こう」と促すと、左手に絵美が右手にスタチャと手を握り合うことになる。
「なんかいつもの視界より黒くて世界崩壊が近いみたい」
「サングラスのせいですよ絵美先輩?明智さんもさっき似たようなこと言ってたよね」
「秀頼君との感性が似ているんです!」
「ふふん!」と、ない胸を張る絵美ちゃん。
確かに味の好みが同じせいか、絵美の料理で不味いと思ったことがないくらいに彼女と味の好みはまったく一緒に近いかもしれない。
あと、ギフトのせいで世界崩壊が近いのは事実である。
「こんなサングラス付けて歩くと、顔バレせずに歩けるの良いね!」
「確かに。普段行けない大人な店(子供お断りな高級飯屋)に行けるかも……」
「いや……?(絵美先輩は身長と髪型が特徴的だし……、お兄ちゃんは絵美先輩から一瞬で見破られたけど……)」
「ん?」
何故か複雑な顔をしたスタチャであった。
因みにマスクはスタチャのみで、俺がサングラスと一緒にマスクを付けると銀行強盗みたいだからやめろと2人にストップをかけられてしまった。
なので、俺と絵美はサングラスのみの装備である。
「とりあえずどこ行くの?」
「まだ決まってないんですよ」
「なら、マスターの喫茶店にしようか」
「ダメです」
「ファッ!?」
スタチャから即拒否されてしまい、変な声が出てしまう。
そんな……、スターチャイルドのサインが飾られたレアな店なのに……。
「さも当たり前のようにサンクチュアリに行かないでください。店で働いているヨル先輩とか、客でコーヒー飲んでいる永遠先輩とかと会いそうじゃないですか!私の正体隠す気あります!?」
「で、でも知り合いだし……」
「今日の白髪スタチャを見たら、わたしみたいに誤解されるよ」
「そ、それもそっか……」
絵美に知らない女と歩いていると勘違いされて嫉妬されたばかりである。
すぐにサンクチュアリを選ぶ癖が抜けない……。
「ザイザリアでも行く?」
「わ、スタチャもザイゼ行くんだ!」
「私だってザイゼもスタヴァも行きますよ……」
「昨日、アヤ氏とミャックで会ったみたいだしね」
「ミャクドナルドも行くんだ!なんか親近感!」
「アイドルしてますが、学校では2人の後輩ですよ?」
なんとなくアイドルは回らない寿司屋みたいなイメージである。
それこそ、『ザギンでシースー』に引っ張られる。
「じゃあ駅前のザイゼにしようか」
「そうだねー」
そんなノリで3人でザイゼに向かうことになる。
財布に優しい、美味しいのコスパ良しなファミレスである。
家から遠いし、あんまり寄ることは少ないのでちょっと楽しみにしていた。
それからはみんなでピザをシェアしつつ、パスタやドリアなど各々の食べたいものを注文していた。
サングラスを掛けてのデートであり、店員さんから少し不気味そうな目で見られていた印象が強い。
2人にセルフサービスの水を持って来ようと、席を立つと大学生たち数人グループが『スタチャとデートしてぇ!』みたいな話題が聞こえてきて、不快感と一緒に優越感が込み上がってくる。
まさかすぐ10メートル先にJKとおしゃべりしているとは考えていないんだろうね。
なんてちょっと大学生たちに脳内でマウントを取っていた。
水を3人ぶん運んで来ると、2人から「ありがとう」とお礼を言われる。
「そういえばこの3人の組み合わせって珍しいね?」と席に座ると同時に絵美から振られる。
「そうかな?俺と星子が初対面の時も絵美居たじゃん」
「た、確かに居たけどさぁ」
「まぁ、タケルちゃんも一緒だったけど」
「純粋なこの3人ははじめてかもですね」
そもそも星子が多忙なので、彼女がいることが珍しい。
それでも学校が違う楓さんよりは会っている方ではないだろうか。
そんなはじめてかもしれないトリオで、普段の先輩である2年生らの日常を絵美と一緒にスタチャに話して聞かせるなどでザイゼで時間を潰していった。
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「微妙な時間だなぁ」
スマホの画面には14時になる前。
なんかしたいが、特に何をしたいわけでもないという微妙な心境であった。
「カラオケでも行く?」
「プライベートでくらいは歌いたくないかな……。なんか散歩したいです」
「あ!なら良い自然公園ありますよ!詠美ちゃんの家の近所なんだけど!」
「良いですね!そこです!」
「自然公園?」
絵美の提案でいつかに詠美と茂とよく会う自然公園へと向かうことになるのであった。