34、スターチャイルドの願望
それからはお互いにまずは場の空気をリセットしようということになり、ウーロン茶をコップに注ぐことになる。
袋に包装されているクッキーを開けたりして、スタチャに差し出すと「ありがとう」とお礼を言われる。
「うん。美味しいねこのクッキー。チョコチップが甘くて良い味してるね」
「そうだね」
「もう1枚いただきます」
「わざわざ許可要らないよ。ドンドン食べて」
絵美や永遠ちゃんもオススメするチョコチップクッキーなので、誰相手でも味を保証されたお菓子を提供できるのだ。
スタチャのお墨付きだし、公式インスタに上げたらファンがこのクッキーを買いに走る可能性もあったりしそうである。
「ど、どうしたの明智さん?ずっとじろじろこっち見て?」
「あ、あぁ。珍しくて面白くてさ。つい……」
「珍しいと面白いが両立?な、なんで?」
『なんで?』なんて尋ねられなくても理由なんか明らかだろうに。
こういうところが、自分が可愛いことに関して無自覚系だなぁと苦笑させられてしまう。
「そりゃあそうでしょ。誰もが憧れる可愛いスターチャイルドがコンビニとかスーパーで売ってる普通のクッキーを食べているんだからさ!」
「誰もが憧れるなんて過大評価だよ……。アンチだって多いしね私……」
「俺、都合良い意見しか見えない人だから!」
(そうやって強がって、誰も見ていない場所に隠れて人1倍傷付くクセに……)なんて声が聞こえたが、スタチャには聞こえていないか不安になる言葉が来る。
「それに、私だって普通に売られているものとかも食べるし。明智さんと生活水準そんなに変化ないからね?」
「そんなもんなのか。でも、いざこういう場面見ると面白いね」
「なにそれー」
「あはははは」と、彼女は楽しそうに微笑んだ。
顔は違うけど、笑い方は星子と同じで可愛い。
スタチャ最高、星子最高である。
「でも、アイドルとかって食べ物とか飲み物のCM出たらそれしか食べてダメって決まりあるってマジ?」
「CM出てるやつしか食べちゃダメなら偏食で死んじゃうよ……」
「なんだ、あの噂は嘘だったのか……」
アイスのCMに出たらアイスしか食べてダメは嘘なのがアイドル本人から言及された。
「ただ、競合しているメーカーのものは買わないようにみたいな決まりはあるみたいだよ」
「え?」
「イメージガールでCMに使ってもらっているから、印象下がったら平気でお蔵入りされるらしいからね……。お兄ちゃんみたいな人の方が自由に食べるもの買えて幸せかもね」
「そ、そう言われるとそうかも……」
「まぁ、私はCMに使ってもらえるようなアイドルじゃないからね……」
「いつかオファー来るって!」
確かに『俺ら』の中では注目を集めるスタチャだが、20代後半以降の知名度は結構残念なことになっているのはファンの間では有名なことである。
いつか、下剋上が起きて一気にぐいーっと知名度が高まると予想しているんだけどね……。
「もう、仕事の話は終わりましょ!デートの時まで頭が痛い話を明智さんとしたくない!」
「それもそうだね」
「遊ぼ、遊ぼ!」
俺もプライベートで勉強の話題とか、内申点の話題とか頭が痛くなるのでスタチャの気持ちが痛いほどよくわかり話題を変えることにする。
今日はスターチャイルドを楽しめることを優先的にしようと心に誓う。
「翔子ちゃんとゲームしたんでしょ!ゲーム!私もやりたい!」
「え?リピート?」
聞き捨てならない言葉を言われた気がしたので、指で1を作りつつスタチャにリピートを催促する。
「私もやりたい!私もやりたい!」
「スタチャ素敵かよ……」
「ん?なにが……?」
「最低な兄を許さないでくれ……」
「明智さんってたまにわけわかんないよね……」
性欲に走った兄を軽く罵倒されるくらいが俺への罰に相応しいかもしれない。
しかし、『やりたい!』発言に一切疑問を持たない高校1年生の妹に対して本当に芸能界に居させて良いものかと兄としてファンとして恋人として不安である。
「ごめん。賢者タイムに入ってた。とりあえずゲームしたいならゲームするか!」
「翔子ちゃんとスマブラしたんでしょ!スマブラやりたい!」
「はいはい。スマブラね」
そんなこんなで、アイドルと並んで対戦ゲームをすることになるとは思わなかった。
「最新のスマブラするの楽しみー!」とスタチャはコントローラーを握りながら楽しそうにしている。
普段のプライベートは何をしているのか、気になってしまう。
「はー……。達裄さんと何回かデラックスをやったけど、今のってこんなにキャラクター多いんだ!凄い!何使うか迷っちゃう!」
「あの人、古いゲーム好きだもんね」
一緒に最新のスマブラとかもするけど、基本的に彼は懐古厨である。
「ねぇ、明智さん。…………いや、お兄ちゃん」
「ん?どうしたの?」
キャラクター選択画面で何を使うのか迷いながら、俺は接待プレイの為に普段はあんまり使わないキャラクターをチョイスしていると改めて彼女から呼ばれる。
テレビから目線を外し、スタチャを写した。
「こんな風に毎日一緒に暮らせる日が来ると良いね!」
「そうだね……」
「2人だけの兄妹なのに、思い出が全然無いんだからさ……。絶対、私大人になったらお兄ちゃんと暮らすんだから!」
「俺には星子とスタチャの実質2人の妹がいて幸せだなぁ!」
「うん!」
そんな風に、2人でイチャイチャしながらスタチャとの自宅デートは続いていくのであった……。
いつか星子と暮らせる日か……。
その前に俺はそれまで生きていられるだろうか……。