33、明智秀頼のベッドの下
トラブルがあったものの、ようやく元のサイズに戻ったのでベッドという名の監獄から抜け出すことに成功する。
「起きたよー」と声を掛けると、部屋の角を眺めていたスタチャがビクンと反応して見せた。
「お、起きましたか明智さん!」
10分程度時間を開けたがまだギクシャクしているようだ。
こういう場合は、俺が主導権を握る方が緊張も解けやすいだろう。
なるべくは俺からスタチャへ話を振るように心がけていこう。
「今日は外に出かける?それとも家にいるか?」
「家にいる……」
「あ、そうか。スターチャイルドとバレたらいけないか」
「ブンシュー砲喰らっちゃう……」
「SNSで晒される可能性もあるんだよな……。アイドルは大変だなぁ……」
スタチャと星子の苦労が頭を過りつつ、『キャラメイク』のギフトの万能感は改めてヤバいなということに再認識してしまう。
それからお家デートが決まって、「とりあえず違う部屋で着替えてくるから」と言い残し自室を抜け出す。
スウェットを脱ぎながら、『スタチャが俺の部屋にいて楽しいことはないか?』と延々と悩ませることになる。
チョコレートなどのお菓子でも出して雑談していても楽しいが、それでスタチャが満足するかはわからない。
でも、なんとかなるかと思い居間に行くとクッキーとチョコレートがたくさんあったのでそれをいくらかいただいて行き、飲み物もウーロン茶の準備をしてスタチャがいる自室に帰って行く。
「入るよー」
『えっ!?』
「え……?どうした星子!?」
彼女の慌てた声が帰ってきて、なにかトラブルかと急いで俺は自室を開けた時だった。
「あ……」
スタチャは部屋のものを色々物色していたらしく、ベッドの下を覗き込んでいる場面に遭遇した。
お互いに無言になりつつ、まばたきを数回パチパチと繰り返す。
ベッドの下って何置いてたかなぁ……と現実逃避に走る。
『なぁにやってんだぁ!』と頭をかきむしりたくもなる歯がゆさが出てきた。
しかし、俺は右手でドアノブを握って左手はお菓子とコップにウーロン茶の2リットルペットボトルが置かれたお盆でふさがり頭をかくことが出来ない。
衝動的にやろうとしていたことだったが、冷静になると頭皮に余計なダメージが入らなくて良かったとポジティブ思考になり部屋へ踏み出した。
「な、なにも面白いものなんかなかったでしょ?」
上擦ったような声が出ていた自覚があった。
まぁ、セキュリティ性が皆無であるベッドの下を見られる可能性があるのを承知で置いていた自分が悪い。
本当に見られたくない原作についてまとめたノートは二重底にした机の引き出しにガソリントラップで封印しているのだから。
ただ救いとしては、星子はまだベッドの下を覗くという行為をしているだけだ。
これから拾おうとしていたというわけではない。
つまるところ、まだ物色のスタート地点だろう。
冷静になると、慌てる必要もない気がしてきた。
「いや、色々あったよ。面白いの」
「そ、そうかそうか……。……え?あったの?」
「さ、沢村ヤマから虐められるなんちゃらかんちゃらの写真集とか」
「…………今ベッドを見ていたのは?」
「ちゃんと戻せたかどうか確認していただけです」
「お兄ちゃん、妹が正直者で嬉しいよ……」
見られたか見られていなかったか一生悶々とするよりか、見られていたと断言された方がスッキリはする。
そうか……。
沢村ヤマを見られたか……。
「私、沢村ヤマさん見たこと無いんだけどどんな人だろう?」
「さ、さぁ?引退したんじゃない?マスターからもらったものだし?」
現役バリバリだけど……。
知らぬ存ぜぬで貫き通すっっっ!
「あと、私のファースト写真集とかもあった。今、プレ値付いているのによく入手出来たね……」
「プレ値付く前、予約して買えたから……」
「そうだ。私と知り合う前からお兄ちゃん私のこと知ってたんだった」
「スターチャイルドさん、ボロ出てますよ」
スタチャ状態だと、本人の気の持ちようのせいであまりお兄ちゃんとは呼びたくないらしい。
「あ……」と本人が唖然としている辺り、今のお兄ちゃん呼びは素だったようだ。
「達裄さんが売れる前だけど、知名度上げるために出しちゃえとか言って爆死した写真集懐かしい……」
「そんな悲しいこと言うなよ……」
「事務所や出版社からも再販するつもりないってお達しなんだよねこれ……」
セカンド写真集は凄い人気で何回も刷られているらしい。
しかし、ファースト写真集で何割かのスタチャ写真が使い回されているので『再販しないんじゃないの?』とスタチャファンから予想されていたが、まさか本人自ら言及するということはもうほぼ公式の内容である。
「そ、それにしても沢村ヤマさん?のやつ凄いですね……」
「え?す、凄い?」
え?
ニュアンスが怖くて震えてくる。
「男のアレを足の指で弄るなんて……。そ、そういうプレイあるんだ……」
「す、スターチャイルドさん?」
「お、おに……明智さ……お兄ちゃんも憧れてるの?」
「なんで一周させてまでお兄ちゃん呼び……」
「ふ、踏まれたいの……?そんなのマゾじゃん……」
「ち、違うよ……?俺、すっげーサディストだし?」
「それもそれで嫌だ」
スタチャのややドン引きした表情がいたたまれなかった……。
ベッドの下に沢村ヤマを隠すのはやめましょうという教訓が生まれた……。