32、明智秀頼は剥がされたくない
「今さら私が明智さんの恋人と明言しただけで驚かないでよ」
「え?えぇ?だって星子とスタチャでは背徳感が全然違うよ!?」
「私と付き合うことを背徳感って表現しないで!?」
しかし、俺には背徳感という表現しか出来ないくらいには『これ大丈夫?』という不安が強かった。
今まで何回かは、スタチャの姿で遊びに行く──というかデートはあったが星子としての延長上だっただけであり、スタチャ本人と付き合っているという自覚は薄いところがあった。
それこそ、推しアイドルのような認識だし、まんま推しアイドルに対する反応しかしてこなかった気がする。
「もしこれがパパラッチされたらブンシュー砲って騒がれるかも」
「アカンアカン!スタチャが干されるならユーチューブもインスタも見なくなっちゃう!」
特にインスタは俺の中でもスタチャ目的以外では見る習慣がないので、使わなくなりそうである……。
「そこまで明智さんに愛されると、スタチャ感激だね!スタチャスマイル☆」
当のスタチャは気にした様子も見せないのだから想像以上に神経が図太いなと改めて彼女の強さに称賛を送りたくなるほどだ。
「大丈夫だよ。細川星子として家に入ったし、おばさんにも星子の姿で挨拶したんですから」
「わざわざ俺の部屋に向かうために階段へ登る間に変身したんだな」
我が妹ながらちゃっかりしたやり手である。
やりすぎ厳禁だが、それならブンシュー砲もいくらか誤魔化せるだろう。
ガチで男と歩いた姿をパパラッチされないかだけは目を光らせないといけないと強く誓っておく。
「あれ?服のサイズがスタチャのものだけど、星子状態でブカブカの服を着てた?」
「そこは突っ込まないでください!滑稽じゃないですか!」
ブカブカな服を着て明智家宅に来たことを滑稽どころか、星子の努力が可愛いとほっこりして癒されるところである。
「それよりも、ずっとベッドに入ってないでそろそろ起きようよ」
「え?あ……」
そういえば下半身にテントがあって起きるに起きれなかったんだった。
スタチャとの雑談で少しずつテントは小さくなってきたが、まだまだ元気だ。
こんな情けない姿は、ファンとして兄貴として彼氏としてスタチャに穢れた殿ものは見せたくない。
なにか慌てて話題を反らそうと、適当に口を開いてしまう。
「今日は晴れて良い天気だね!」
「朝だけですよ。午後からは曇るらしいです。降水確率20パーセント!」
「降水確率20パーセントとか、もう傘持たないよな!」
「………………怪しい」
「え?」
「なんでベッドから出ないの?変なの隠してる?」
隠してるといったら隠しているんだよなぁ……。
でも、そんなことを口にしたくないし……。
だが、俺を見つめるスタチャの目が先輩である絵美や永遠ちゃんのように頭が冴えたことを突き付ける。
ドキッとしつつも、なんて弁明しようかと口を開いたが、言葉が出なくてエサをねだる鯉のようにパクパクするだけになる。
それをスタチャが無言で『じーっ』と薄いジト目で見ていた。
「なんか怪しいの隠しているでしょ?」
「ちが、違うよ!」
「動揺してるじゃないですか!ベッドの中が怪しいです!」
「な、なにもないよぉぉ!」
むしろベッドの下のスペースの方が見られたくないものが多い。
それを口にしてベッドの下に視線を向けられたらそれこそ死ぬので、口には出さずにベッドの毛布を剥がそうとするスタチャを抑える。
「触った感じDVDのケースとか本の厚みのようなものはありませんね……」
「だから無いんだってば!」
「文句を言いつつまだ起きないのが怪しいですよ明智さん!」
毛布を力いっぱいに抑えているので、スタチャの剥がす力を拮抗させていて力を緩ませなければ持っていかれることもない。
あとは単に俺の力の方がスターチャイルドの正体である星子よりも力が強いので負けることはない。
「むー!」
そしてスタチャも毛布を剥がすのが無理と悟ると、毛布の上から手を置いて怪しいものがないかを探索をはじめた。
何回か俺の脚に当たったりするが「無い……、無い……」と流れ作業のように毛布の上から手を置くことをやめなかった。
それが5回ほど繰り返された時だった。
「あれ?なんか棒がある……?」
「ッッッ……!?」
「これが怪しいものですね!えいっ、取っちゃいます!」
「や、やめろ!?」
取っちゃいますとは男子に取って死の宣告である。
しかし、スタチャは「怪しいものの正体見破ったり!」と、その棒に両手で包むように触った時だった。
「あ、あれ……!?あっ!?これっ!?」
「…………あ」
にぎにぎと3回ほど確認の意味を込めて力を入れて握られた。
それから目が点となり、頬がさくらんぼのように赤くなっていく。
「こ、こ、これお兄ちゃんの……ち、ち、……こ」
スタチャはようやくそれに気付いて「ごめんなさい!ごめんなさい!」と謝罪をする。
「お、大きい状態だからベッドから出られなかったのですね……」と全てを悟ったようにして、俺から顔を背けた。
「い、いや……。君は悪くない……」
スタチャに数回握られて、また少し元気になってしまった。
身体は正直とはよく言ったものである。
早く元気さを無くそうと思い、スマホの画面でタケルが変顔をしている写真を投影させて、無理矢理萎えさせていく情けない姿をスタチャに晒したのだった……。