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30、明智秀頼のハッタリ

「お、俺のギフトですか……」


見透かされているような視線に俺も戸惑いが隠せない。

普段は極力使わないように心がけているが、だからといってギフトが消えているわけではないのだから……。

右の美月、左の美鈴も不安げな目を向けてこちらを見ていた。


「俺のギフトはその……て、『手品』のギフトですよ。手品で色々なものを消したりとか出来るだけです」

「手品のギフトねぇ……」

「例えばこの皿にあるいなり寿司を消すことも可能です!」

「食べれば良いだけだろ」

「あはは……。冗談ですよ」


流石に軽いジョークをマジレスされると恥ずかしいものである。

普段のタケルや山本らとのバカなやり取りのノリはまったく通用しないらしい……。

か、固い人である……。


「実際に使ってみたまえ」

「じ、実際にですか!?」

「なにか使用に制限でもあるのかね?美月みたいに月が出ている時ではないと使えないなどの?」

「いや……。そういう意味ではありませんが」


チロっと右に座る美月に視線を向けると一瞬目が合う。

そういえば『月だけの世界』は『命令支配』なんかより凄い能力の変わりに使用条件があるんだったな。

まったくギフトを使っている瞬間を見たことがないので、すっかり忘れてしまっていた。

前世のゲームにおいても美月がギフトを発動するのは回想シーンと美月ルートのラスト2回だけなので、桜祭のもて余した設定としてよく『月だけの世界』が挙がりやすい。

無駄に使用条件が厳しくて使いにくい万能な能力にするんじゃないよまったく……。


「では、なにかデメリット型のギフトかね?」

「いえ……。そういうこともないですが……」


深森父に鋭い目で睨まれ、腕時計に目をちらっと落とす。

このやり取りに時間が無駄だと苛立っているのだろうかと思うと心臓がバクバクする。


確かに三島遥香のように病弱が改善する変わりに、周囲のものから生きる力を吸い取るようなデメリットも特にない。

なにか自分の『命令支配』にデメリットがあるなら、ギフトを使い過ぎることで力に飲まれて性格や価値感が歪む可能性が多大にあることだろうか……。

そろそろかわすのも問題だろう。

多分使わないと納得出来ないだろうと腹を括る。


「躊躇っている理由は、ギフトを使わずとも手品が得意なのであまりギフトを使う必要性が薄いということでしょうか」

「手品が得意か。中々面白いね。では、ギフトを使ってその手品とやらを見せて欲しい」

「お母さんも見たいんですけど!」

「我も!我も!」


大人組に外堀を埋められてしまいギフトを披露する流れになる。

美月と美鈴にも伺うように目を見ると無駄にワクワクしていて食い付くようにしている。


「そういえばわたくし、秀頼がギフトを使用するの見たことないかもな。楽しみだ」


美月の言葉でギフトのことを考えてみたら、バトルホテルに入るのに嫌な予感がして全員へギフトを使用しようとしたらヨルに強制的に止められたことを思い出す。

確かに美月の前でのギフトの使用はないかもしれない。


「美鈴も秀頼様の恩があるギフトをご覧になりたいですわ!」


偶然にも紋章を消したことを知っている美鈴の期待値もやはり高い。

これはもうやるしかない流れのようだと思い、何かそれっぽい手品に見せれないかと部屋をぐるっと見渡す。


「で、では瞬間移動の手品を披露します!消すことも出来ますが、それでは忍びないので」


部屋にあった花瓶を指差す。

金持ちの花瓶って高いイメージがあるのだが、さすがに100万とかはしないよな?

ちょっと不安になったが、これを彼らから気付かないように紛失するのは流石に勇気がいる。

というか、人の家のものを壊したら印象最悪である。


「では、俺は座ったままこのテーブルに瞬間移動の魔法をします!3、2、1!」


カウントダウンを終えた直後にギフトを使う。


「『今から手を叩くまで、俺が動いて花瓶を持って移動することを認識するな。動いている間の記憶を抹消させろ』」


そうやって『命令支配』を繰り出すと、全員が俺の奴隷へと落ちる。

本当にやりたくはなかったが、やり通すしかない。

急いで指名した軽い花瓶を持っていなり寿司の置いてある大皿の隣にドスッと置いた。

悠々と椅子に座り直し、手を拍手のようにして叩く。


「はい、出来ました!てじなーにゃ!」

「ほう。なるほどね」

「うわ!?テーブルの上に花瓶がありますよ!?」

「あらあら。お母さんビックリなんですけど」

「凄いじゃないか秀頼!」

「流石ですわ秀頼様!」


みんな俺のてじなーにゃには触れずに凄い凄いと盛り上がっていた。

こんなことよりもトランプなどの手品で盛り上げるのとは違うので複雑な気分だ。

ガチの手品で盛り上がった空気は気持ち良い至高なものだが、この場合はちょっと複雑である。


「素晴らしいギフトのようだね。それなりに認めても良い」

「本当は秀頼君を気に入っているんじゃないのあなた?」

「そんなわけがない」


そんな連れない深森のおじさんだったが、それなりに認めたのかあまり敵意という敵意は無くなった気がする。

それからは普通にもてなされて上松さんに自宅へと送り届けてもらい深森家への挨拶が終わりを告げるのであった。







─────






「(私が時計を見た時より遥かに時間が進んでいたな。あの男、ギフトで我らの体内時間を遅らせたな)」


秀頼が帰った後の深森家にて、父親がそう言いながら腕時計を眺めながら彼のギフトについての嘘を薄々勘づいていた。


「(あんな堂々とハッタリをかまして全員を欺くとは……。しかし、体内時間を遅らせても美鈴の紋章の呪いが解けるわけがない……。人に命令させるギフトか?)」


秀頼が中々ギフトを使いたがらない違和感と結び付けると、彼の中で自ずと手品のギフトの正体が掴めてきていた。


「(危険なギフトだね……。だが、彼の人間性は嫌いじゃない。美月も美鈴とも打算的なものは無かったとしても男の見つけ方が上手いじゃないか)」


なんやかんやで秀頼のことを気に入っている父親であった。

しかし、それを表だって言うつもりもなく自分の心の中に封印することにした。


「(手品のギフトね。ハッタリも上手いしあれは将来、大物になるな)」


そして、彼からも注目されることになった。

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