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29、明智秀頼は食事を楽しむ

「さぁ、秀頼。たらふく鍋を食べろ」

「秀頼様、いなり寿司もたくさん食べていってくださいね」

「あ、ありがとう2人共……」


美月がキノコ鍋を装って、美鈴が皿にいなり寿司を並べてくれた。

それはもう見事に美味しそうなもので、食材も一般家庭より豪華である。


(すげー!その変な形のキノコ、なんて名前のキノコだ!?)と、中の人もキノコ鍋の具材にテンションが爆上がりしている。

いなり寿司も、普通の安い油揚げよりも光っている気がする。

実家や回転寿司やスーパーのパックの油揚げより、グレード高い奴だと箸が震えてしまう。


「おや、明智君。箸が止まっているよ?まさか君、他人の家の料理は食べられない人なのかな?」


深森父はメガネを輝かせながらいちゃもんを付けてくる。

確かに今、そういう人もいるらしいが普段から絵美の手料理や、サンクチュアリでのヨルの女が作る男料理をたらふくご馳走されているからかもうそんな抵抗は無くなってしまっていた。


「こ、こ、こんなご馳走いただいて良いんですか!?」

「は?」

「おじさんが俺が嫌いなのはわかってます。でも、おじさんが家族のために汗水を流したお金(もの)でここまでもてなしてもらってありがとうございます!いただきます!」

「…………わかっているなら良い。好きに食べたまえ」


嫌っている俺にもこんなご馳走を振る舞ってくれて、これまでのことはチャラになるくらいに食事に惹かれた。

キノコ鍋からか、いなり寿司からか食べるのか悩んでいるととんとんと左に座っている美鈴に肩を叩かれた。


「どうしたの?」

「あーん、ですわ秀頼様」

「ええ?家族の前で恥ずかしいですよ……?」

「家族の前だからですわ。家族の目の前で上げた手を空振りさせるなんて真似女にさせないでください」


ちらっと向かい合って座る大人組に目をやる。

右斜め前に座る深森父は意識してか、極力俺を見ないようにしている。

向かいに座る美咲さんはニコニコして俺と美鈴のやり取りを眺めている。

左斜めに座る上松さんはキノコ鍋の汁をすすりながら興味津々とばかりに俺と目が合うくらいに凝視している。

これはなんか外堀から埋められてしまっているような……。


「い、いただきます……」

「はい!」


ちょっと大きめのいなり寿司を一口で食べるには口がパンクしそうなので、半分だけかじることにする。


「っ!?これは……!?」

「どうしましたか秀頼様!?」

「酢飯と油揚げが絶妙にマッチしていて美味しい!じわーっと油が染みていくのがよくわかる。味がもうエモい……」

「秀頼様が喜んでくれて嬉しいですわ!美鈴もいただきます!」

「あ……」


美鈴は箸に残った俺の食べ掛けのいなり寿司を口に入れてしまった。

多少なりとも俺の唾液が入っているだろうに「美味しいですわ!」と目を輝かせた。

なんか恥ずかしい……。

「いなり寿司美味しい。我、何個でもいけちゃう」と上松さんも絶賛する出来であった。


「そ、そうか。作った甲斐があるじゃないか」


右に座っている美月も照れくさそうにしていた。

「鍋の方も食べてくれ!」と急かされて、スープからご馳走になるとこれまた心から暖まるような適切な温度で美味しい。

舞茸のようなキノコから口に入れるとコリコリして何度でもリピートしたくなる食感が広がる。


「美味しい食事をいただけて幸せです!」

「あらあら。やっぱり男の子は食べる子が可愛いわぁ!お母さん、秀頼君みたいな喜怒哀楽がハッキリしている子が将来息子になるなんて感激なんですけど!」

「っ……」

「あ、秀頼様がお母様の言葉に照れてます」

「明智秀頼さん、幸せそうです……。我も恋愛したい……」


なんか既にまわりから祝福されているが、たまたま遊びに来ただけでこれなら次回はどうなるのかちょっと怖い。

深森父さんからも、認められる人にはなりたいのだけれど……。


「ほら、あなたも機嫌良くして」

「ふん……」

「奈々さんの息子さんだし、流君とも普通の親戚以上に仲良しなんだから」

「はっ。流もこんな高校生に入れ込んでいるのか!どいつもこいつも馬鹿ばっかだ!」

「ウチのおばさんマスターと知り合いですか?」


美咲さんと深森父さんの口振り的に身内のおばさんやマスターと知り合いのような口振りに、『なんか繋がりでもあるのかな?』と気になる。

そういえばマスターも美咲さんの名前知ってたし、知り合いなんだろうな。


「別に君には関係ない」

「ただ流君とこの人が悪友なだけなんですけど」

「何故関係ないと言った側からバラすのか理解不能だ。言っておくが私は君の本当の両親すら知り合いだ!」

「え?」

「お、お父様!?」

「美鈴たち、そんな話知りませんわ!」

「言ってないからな。流はギフトが不幸にした存在だと忌み嫌っているが、私は別だ。ギフトが素晴らしい力だと思って娘を犠牲にして投資している」

「っ……!?」


両親の話から唐突なギフトな話題。

もしかしたら遠回しに、俺の両親が失くなった出来事も彼らは知っているような……、そんなことが伝わった。

だから俺に複雑な印象もあったのかなとか勘ぐってしまう。


「私は現在の君のことがわからないから探偵を雇ったが、過去のことは探偵を頼らずとも知っていたさ。現在の家族に引き取られてからの苦労もなにもかも知っている」

「っ……」

「時に明智君。君、ギフト陽性だがギフト未覚醒と申告しているようだね。ただ、美鈴の呪いをギフトで消したと報告をもらっている。……そのギフトの内容を私に教えてくれないか?」

「…………」


品定めは終わったとばかりに矢継ぎ早に色々な過去を突きつけられる。

美月も美鈴もそんな父親の迫力に圧倒されていた。


「キノコ鍋おかわり良いですか?」

「はいはい。10人ぶんくらい作ったので遠慮なくおかわりしてくださいなんですけど!」


上松さんと美咲さんは他人事らしく、こちらに興味を失っていた。

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