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28、深森美鈴は構って欲しい

結婚を肯定したら家を叩き出されていたというトラップにえげつなさを感じつつ、グイッグイッと力の入れたマッサージを続けた。


「やるじゃないか明智君。私は痛いマッサージを受ける時が至福なのだよ」

「あ、ありがとうございます」


苦しめるつもりが喜ばせてしまったようだ。

復讐は出来なかったが、喜ばれたのならそれはそれでOKだと自分に甘い判定を出しておく。


「明智秀頼さんの人心掌握の術、お見事でござる!我、勉強になります!」

「勉強なりましたかこれ?」


上松さんが懐から出したメモ帳にボールペンを走らせながら、美鈴が横から冷静な言葉を投げ掛けていた。

無駄に俺を褒めて喜んでいる様が本当に名前を読んではいけないとある彼女にそっくりである。


「マッサージは認めても良い。妥協して認めるだがな」

「ありがとうございます!」

「馬鹿真面目にお礼を言う必要はありませんわ秀頼様!」

「あぅ……」


美鈴が頭を下げたところに横やりを入れてくる。

「もう恥ずかしいからやめてくださいませ!」と父親に抗議をしている。

「まあまあ。落ち着いて」と美鈴を宥めると、彼女は俺の顔をじっと見てくる。


「秀頼様は心が広すぎますわ……」

「いや、俺の心なんかだいぶ狭いよ……?」


マッサージも怒りをぶつけようというストレス発散に用いたくらいだし。

ゲームしながら『クソッ!』とか『死ねっ!』とか言いながら舌打ちとか挙げればキリがないくらいに心の広さとは無縁である。


「そのお人好しな部分が美鈴は大好きなんですけど!」

「み、美鈴……」

「あらあら。秀頼様ったら。何回美鈴が大好きって言っても毎回ウブな反応してくれて可愛いですわ!」


俺はよく顔に表情が出てしまうようで、赤くなったところに美鈴がからかうようにして弄ってくる。

今やあの悪役で嫉妬に溺れていた美鈴がデレデレになり、絵美の影響を受けたのかちょっとサディストになっていた。


「美鈴を撫でてくださいまし」

「う、うん……」


美鈴の頭を突き出され、髪をガラスのコップを触るように繊細に撫でる。

やや太めながら、サラッとした金に輝く髪が俺の指でスムーズに横移動していく。

髪が揺れる度に甘くてお日様に照らされた花のようなシャンプーの匂いが鼻の中に入り、ドキッとしていく。


「お父様にマッサージなんかより、もっと美鈴に構ってくださいませ。彼氏が横に居て放置は辛いですわ……」

「大丈夫だよ。ずっと美鈴のことは構い続けるから」


美鈴が可愛い過ぎて辛い。

このまま歯止めが効かなくなりそうだ。

美鈴に限らず、みんなを知れば知るほど大好きになっていくので俺はドンドン沼にはまってしまっている……。


「はわわわわわわ!?抱いちゃう?抱いちゃう!?フラ行く?それとも、これセクス行く!?セクス!?我、こんなドキドキな気持ちになるのはじめて!」

「不愉快が服を着た男だな明智君!」

「まわりのギャラリーなんか気にしないでくださいませ」

「我、このドキドキの正体気になります!」

「いや、気になるって!ムードもなにもないよ!?」


特に上松さんなんか興味津々続けてムーブを出し続けてきて、逆にイチャイチャ出来なかった。

父親さんもすこぶる機嫌が悪くなったし、人前でイチャイチャはやっぱり無理である。

美鈴の髪から手を離すと「物足りないですわ……」と欲しがりな部分が浮き出る。


「はいはい!夕飯が出来ましたよ!みんな席に着いてください!美月、鍋持ってきてる?」

「はい!今日の夕飯はキノコたっぷりキノコ鍋にしました!しょうゆだしを効かせている特製鍋です!秀頼も上松さんもたくさん食べてください!」

「我、鍋大好き!キノコは普通!」


(キノコ鍋!)とこれまでどうでも良さそうに中で暇していた中の人のテンションが上がりまくっていた。

キノコ大好きな彼の設定が変な連想をしてしまう俺はいけない奴なのだろうか……。


「それに私は握ったいなり寿司をたくさん用意しました!」

「おぉ!いなり寿司凄いですね!キノコ鍋も美味しそうです!」

「やっぱりそうなんですね秀頼様!」

「え?なにが?」


美咲さんが持つ大皿に乗っているいなり寿司と、美月が持っているキノコ鍋に食欲をそそられていて感動していると、何故か美鈴のテンションが高い。

なにがそうなのかとポカーンとして美月に視線でパスすると「あー!」と納得したようだった。


「秀頼の好物がいなり寿司という情報があったからな。やはり秀頼はいなり寿司が大好きだったか」

「え?まぁ、確かにいなり寿司大好きだけどさ……」


毎日おやつにしたいくらいには好きだが、なんか釈然としない違和感があった。

『おかしくないか?』『なにがおかしい?』と連想ゲームをしていく。


(主の存在が1番おかしい)と中の人から茶々を入れられるが、連想ゲームに忙しくてこいつのことはどうでも良かった。

そうしていくと、美月と美鈴に抱いた違和感の正体に気付く。


「あれ?俺、いなり寿司好きとか言ったことあるっけ?」

「あ……」


誰にも言ったことない情報で混乱する。

俺がいなり寿司好きなんてそれこそおばさんしか知らないはず……。


「ウィキペディアに書いてあったのだ……」

「俺個別記事にされてるの!?美月みたいな人のギャグが1番反応に困るよ!」

「わ、悪い……」

「ま、まぁ秀頼様!気にしなくて良くてよ。いなり寿司嫌いな人なんていませんから!」


いなり寿司嫌いな人なんていないとフォローされると確かにと思い留まる。

これまでの人生でいなり寿司が食べれない人は見たことなかったなと思うと納得したのであった。


「(お姉様ったら……。西軍情報は簡単に漏らさない約束でしょう!?)」

「(すまない……。ただ絵美が見たというニコニコ顔でいなり寿司を食べていた秀頼が見たい欲が強くてつい……)」

「(わかりみ!)」


なにか姉妹で言い合いながら、食器を並べていた。

「鍋もいなりも大好きです!」と上松さんが大人でありながらも無邪気に感動しているのがなんか微笑ましかった。

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