27、明智秀頼の嫌がらせ
呼び出されては威嚇をされるという、結構酷い目に遇わされているが美月と美鈴からは「気にしないで」とフォローを入れられる。
2人から優しくフォローをされると、心が落ち着けることが出来る。
やっぱり俺、美月も美鈴の2人とも大好きなんだなぁと改めて痛感する。
その2人の父親にも認めてもらおうという意欲にも繋がっていく。
「秀頼君、良いかな?」
「どうかしましたか美咲さん?」
「これから夕飯の時間だし一緒に食べていきましょうよ!」
「い、いいんですか?」
「大丈夫よ!今日は大人数だし鍋でもしちゃおうかしら!」
横で深森父さんがじーっと俺を睨んでいるんだけど……。
露骨に敵意を向けられる感覚が久しいが、今回はバトルにはならないようにその敵意をかわすようにする。
「鍋良いですな!我も楽しみです!」と上松さんはその言葉に嬉しそうに反応していた。
…………というか、上松さんも食事するんだ。
てっきりすぐ帰るものと思っていたが、俺と上松さんというこの場での部外者仲間が1人増えたことは心強い気がしてきた。
1人より2人。
本人はどう思っているかは知らないが、俺は上松さんを味方判定するようにとポジティブ思考になっていた。
「じゃあ、美月手伝って」と美咲さんに呼ばれた美月は台所へ消えていく。
そしてこの場には俺、美鈴、深森父、上松さんの4人が残ることになる。
「秀頼さまぁぁぁぁぁ!我が家に来てくださって結婚の挨拶に赴かれた気持ちになって心臓がバクバクですわ!」
「そうだね。俺もいろんな意味で心臓がバクバクだよ」
1人のとある男性の視線がズキンズキン刺さって痛い。
美咲さんという彼にとってのブレーキが不在になった今、アクセル全開なのは間違いない……。
「なら我は婿様を連れて来た運転手です。感謝しなさい明智秀頼さん」
「か、感謝してますよ」
深森家に連れて来たことについては感謝するけど、婿様発言に深森父はせわしないようにメガネの位置を気にしている。
意味もなく右手の人差し指をメガネと連動させて動かしている。
「明智君、だったかな?」
「は、はい。明智です……」
さっきまで散々明智と呼んでいて、わざとらしく名前をうろ覚え感を演出する深森父。
「君のせいでこっちは肩が凝りそうだよ。ストレスだよ、ストレス。明日、大事な会議なのにストレスまみれだよ」
「お父様……。言い掛かりがドンドン雑に……」
娘の美鈴が、ポンコツな美月を見る時のような残念者を見る時と同じになる。
あぁ……、よくよく考えたら美月のポンコツっぷりにそっくりじゃないか……。
似てない面があるとすれば、美月のポンコツと違って全然可愛くない面だろうか……。
十文字タケルはたまに俺に言ってくる。
『お前は誰とでも仲良く出来るな』なんて、タケルが知らない人と俺が仲良く会話をしている時を目撃すると発言する。
その度に『んなわけない』と否定している。
タケルよ……。
流石にこういう状況なら俺だって仲良く出来ないよ……。
ただ、あいつに証明したいのに当の本人であるタケルの姿がない。
俺が苦しんでいる大事な場面にはいないのかお前……。
「では、失礼します」
「な、なんだねいきなり?」
ずいっと彼に近付くと、驚いたように目が見開かれる。
身体もだいぶ逃げ腰である。
なんか殴られるとでも思ったのだろうか?
いや、殴りたいかどうかで言ったらノーコメントだが、流石に彼女の父親を殴る行為を移すには俺は気が弱い。
中の人なら怒りの導線が0から1になった時点でぶん殴った挙げ句に、性器を切り抜く程度にはやりかねないけど。
「肩が凝りそうなんですよねおじさん?」
「だ、だからなんだと言うのだ!?」
「では、肩をお揉みさせていただきます」
「は……?」
「楽にしてください。あぐらで良いのでピンとしていてくださいね」
そう、俺は殴るなんてしない。
だから彼の肩を揉むを口実に痛い思いをさせる地味な嫌がらせである。
「け、結構だ!」と断りの言葉を入れられるも「まあまあ」と肩に力を入れる。
「なっ……!?か、身体が動けん……!?ば、馬鹿力かこいつ!?岩……?」
「ちょっとしたツボに力を加えてますから立てないだけですよ。意外に思えるかもしれませんが、今俺が加えている力なんてリンゴを片手で砕く程度の少量のものなんでツボを押してなければ簡単に振り払える力なんですよ」
「意外でもなんでもないわ!普通に力を加えているじゃないか!ツボじゃなくても振り払えるか!」
「え?そうですか?気にしないでください」
「この……!」
「秀頼様、ぶち切れてますね……」「当然かと……」という美鈴と上松さんの苦笑いな声が届く。
しかし、止める気は一切ないらしい。
「マッサージ1人ぶんはじめまーす」
「や、やめろお前!?」
「力加えていきますね」
「聞こえてないのかこの男!」
「え?より強め?」
「通じてないのか!?」
「もっと強め?」
「今日の秀頼様はサディストですね」と楽しそうな美鈴の声がして、俺のマッサージが開始する。
強めに強めに肩を揉みほぐしていく。
「うぉ?うおおぉぉ!?中々良い腕ではないか!」
「お客さん凝ってますねー」
「わかるかい、君?プライベートも仕事も苦労ばかりなのだよ」
「そりゃあ凝りますよ」
「もうちょっと強めに頼むよ」
「はいはい。凝りを治しますよー」
俺のストレスを発散させるように力を入れながら、前世の父親が言っていた言葉を思い出す。
『良いか光秀!マッサージをする際、とにかく『凝ってる』って言っておけば大体の奴喜ぶから。『苦労が伝わってくる』的なニュアンスがあればより幸福度が増える。人はな、自分のことを知ってもらいたい生き物なのだよ』
『無人島にいて現時点で苦労してんだよ、死ね。ざく切りメアちゃんのアニメ予約してねーのに無人島に連れて来やがって』
『だから父親に『凝ってる』『苦労してる』ってごますりしながらマッサージして』
『むしろ父さんが俺にごますりマッサージしろよ』
こんな記憶がかすかに残っている。
それを今、深森父に実践していたが意外と喜ばれた。
ありがとう父さん。
死んでからこの知識役に立ったよ。
「美咲や美月よりも力があってパワフルな揉み方で最高じゃないか!今まで20人ほどのマッサージ師と知り合ったが1番上手いよ君」
「どうもどうも」
「が、美月と美鈴の結婚を認めるわけにはいかないがな」
「別に俺、結婚の挨拶をしに来たわけじゃありませんからね?」
なんかアヤ氏とスマブラしていたら呼び出されただけである。
「わかってるよ。結婚の挨拶を肯定したら家から追い出すところだったよ」
「ナチュラルトラップやめてください。まだフィールドにいさせてください」
この父親、しれっと罠を張るのが上手すぎる。
何故か男を攻略する乙女ゲーの主人公になった気分であった。