24、明智秀頼はくすぐったい
「あら?翔子ちゃんは帰っちゃったの?」
「うん。これから店に寄る用事があるんだってさ。夜ミャックに行くとさ」
「そうだったの」
準備を済ませて、あとは待ち合わせに深森姉妹の人を出迎えるだけという状況で階段を下りてきて台所にいるおばさんとやり取りをする。
既に当たり前に出入りするアヤ氏のことを覚えてしまったようだ。
「翔子ちゃんは部活の後輩なんでしょ?よく秀頼は異性の後輩を簡単に家に連れて来るわね。年々人を家に招く人数が増えてきておばさんビックリ……」
「あはは……。申し訳ない……」
「別に謝る必要ないじゃない。秀頼がみんなに好かれていて鼻が高いもの」
「す、好かれているかな……?」
「要らない謙遜よ」
ふふふっとおばさんに笑われ、照れくさい。
母親の存在に近いおばさんに褒められてしまい、くすぐったい気持ちになる。
にやけてないかとか気になって、口元を隠してしまう。
「そういえば秀頼の服装はどこか出かけるものに変わっているわね。今から外に出る?ただの散歩?」
「これから深森姉妹の2人に呼び出されてしまって出かけるとこ」
「今日の夕飯はキノコ鍋にする予定だったけど帰って来れる?」
(き、き、キノコ鍋!これは逃せないぜっ!)とやたら中の人がキノコ鍋に強く反応を示す。
キノコ大好きな中の人に相変わらずだなと苦笑してしまう。
「ごめんなさい。多分遅くなる。夕飯に誘われるかはわからないけど、用事終わったら適当に外食かコンビニとかで済ますよ」
「そっか……。秀頼が居ないならわざわざキノコ鍋にする必要もないわね」
「めちゃくちゃ食べたかったな……」
「まだ作る前で助かったわ。キノコ鍋は明日に延期。今日はあの人としょうが焼きにでもしようかしら」
因みに俺もキノコ自体は大好きだが、それ以上に鍋料理が大好物である。
すき焼きやちゃんこ鍋などとにかく鍋を囲んだ食事が前世からよく好んでいたのだった。
おばさんも鍋料理になると喜ぶのを知っているのだ。
「ドタキャンで迷惑かけちゃったね。もっと早めに言っておくべきでした……」
「良いのよ。秀頼が人から頼られるような人に育っておばさん鼻が高いわよ。私が名前を付けたわけじゃないけど、秀頼の頼の字にピッタリな子に育ったわね」
「あ、ありがとうございます」
千姫のヨリ君というあだ名が嫌でも頭に浮かぶ。
こんな褒め方されて、嬉しくないわけがなかった。
おばさんは俺にとって、アイリーンなんとかさんやアリア、悠久とかよりも弱点に近い女の人である。
もし、俺が死亡していなくなっても彼女には幸せで過ごして欲しいと願わずにはいられなかった。
俺が消えた後、おばさんが叔父さんと2人っきりになるのが心配の種でもある。
「秀頼がどんな大人になるのか楽しみにしてるんだからね。絵美ちゃんを泣かせたりしないでね」
「うん。大丈夫だよ。不幸にはさせないから」
俺が生きている限りは、周りを不幸にはさせるつもりはない。
おばさんも育ててもらった恩を返していきたいけど、果たしてそんな時間が俺にあるのかという不安が尽きない。
卒業まで残り1年半年。
生きていられるのかね……。
そんなしんみりしていると、ピンポーンというインターホンが明智家に響き渡る。
「迎えが来たみたいだ。行ってきます」
「気を付けてねー」
インターホンに導かれるまま玄関へと向かい、おばさんと別れる。
そのまま玄関のドアを開けると、見覚えのある人が立っていた。
「あ……?」
「こんにちは、明智さん」
「あんたは……。尾行のストーカー姉ちゃん」
「そ、その呼び方酷くないですか!?我、傷付きますよ!?」
「だって名前知らないですし……。あれ?もしかして美月か美鈴の関係者ですか?」
いつかに彼女に追われていて、戦いを挑まれて軽く追い払ったことのある人だ。
何故か年上の彼女にアイスを奢らされたりと、なんかよくわからない邂逅をした人だ。
「そうですね。深森家と関わりがある人です。一応名刺を渡しますね」
そう言って、ラフな格好をした胸ポケットから1枚の紙切れを渡される。
『探偵:上松えりな』という名前に顔写真に電話番号が掲載されている。
「なにか探偵の仕事があればこの連絡先を使えば我に電話が行くんだからね!他の探偵を頼ったら許さないわよ」
「はぁ……」
「我の知り合い価格でお安くするからね」
知り合い価格とかどうでもよくなりそうなくらいに、知り合いと名前が似ていて頭に入らない。
いや、上松なんてどこにでもいる名字だと気にしないことにする。
「我は今回、クライアントの深森さんの依頼として明智秀頼さんを連れて来るように言い渡されています」
あと、その我という呼び方が気になって話が頭に入らない。
「クライアント?深森さん?」
「尾行していた理由が美月さんと美鈴さんの父親ならの依頼なのです。明智秀頼さん、あなたを深森家全員が来訪をお待ちしています。車に乗ってください」
「わ、わかりました」
俺の家の前に止められた白い乗用車の助席の扉を開けて待機していたので乗り込むと閉められた。
シートベルトを閉めると、隣の運転席に上松さんが乗り込んだ。
「行きますよー」と声をかけると、車が発車するのであった。