22、上松えりな
上松えりなを名乗る探偵の登場に深森姉妹の頭にはとある友人が頭に浮かんだが、他人の空似と思うことにした。
上松なんて名字、探せばいるでしょと納得させることにした。
「上松君、明智秀頼という男に関しての調査は終わったようだね」
「はい!それはもう我の腕だけが成せる技!探偵ですから!」
「期待値を上げてくれるではないか。それでは調査の方を発表してくれたまえ」
「はい!」
父親と探偵で勝手に話が進行していく。
美鈴が『お父様を止めなかったんですの?』と母親にアイコンタクトを送るが、『無理無理』と首を横に振って返された。
「明智秀頼についてですが……、文句はございません」
「な!?」
「お嬢様たちのパートナーとして申し分ありません。確かに家柄は普通ですし、複数の女の人と付き合う浮気者ですがそれを諸々マイナスしたところで全部覆るほどのプラスになります」
「う、嘘付けぇぇ!浮気者がプラスになるかぁぁぁ!」
「そこは、人の価値観にやるものですが……。我の探偵としての半年の経験がそうやって告げているのです」
(みじか……)
今年ようやくはじめたぐらいのキャリアをえりなが自信満々に自負していて、美月も美鈴も拍子抜けした。
若くて10年やってるベテランかと思えば、若い新入社員だったようだ……。
「…………報告を続けたまえ」と、早速頭が痛いとばかりにこめかみに手を当てた父親が促すと、「はい」と相づちを返すえりな。
「我、気配を経つことに関しては忍者並みと称されるほどに得意なのですが……。すぐに尾行がバレるほどに察知能力がずば抜けています」
「尾行バレてるのかよ!?」
「はい……。明智秀頼、敵ながら天晴れです。尾行がバレてしまい、我に強さを見せてみろと戦いを挑んだら30秒持ちませんでした……」
「え?探偵って目が合うと戦いを挑むシステムなんですか?ポ●モントレーナーじゃないですか」
美月、美鈴にガンガンと突っ込みをされてしまいえりなは「申し訳ない……」と謝罪する。
「それからなんと我の目的も聞かず、コンビニでアイスを奢ってくれました!あいつ、見た目悪いけど凄い良い人です!美月様と美鈴様の将来の旦那様にふさわしい人柄をお持ちです」
「まぁ、それを言われると……」
「その通りなんですよ!秀頼様は美鈴のパートナーになるお方なんです!」
「気に喰わん……。気に喰わんぞ上松君……」
「他にも迷子になっている女の子を拾って一緒に母親を探していたり、街のひったくり犯を退治したりと正義感はかなり強いですね」
迷子の女の子にはマジックを披露したりして笑わせて彼女を和ませて、母親が見付かった際には『大きくなったらお兄ちゃんとけっこんするー』とまで言われて戸惑っていたりしていたが、そこのプライベートな会話までは報告書に記載しなかった。
えりなの胸の中に留めることにした。
「彼の彼女さんの中に我とキャラが被る人がいた気がしたが……」
「他人の空似ですよ」
「そうですか。我のアイデンティティを取られるところでした」
美鈴の言葉ですぐに納得してくれた。
父親が嫌な顔になる度、双子の中では上松えりなの評価は上がっていくのであった。
それどころか彼1人だけが怒りでプルプルと震えている。
「勉強も頭が良いみたいで。深森さんが信頼している宮村さんの娘さんからも一目置かれていて」
「…………もう良い」
「え?」
「私が期待した報告がまったく無いではないか。そんな彼を褒めるだけの情報など要らないのだよ上松君」
「お父様、ついに言動が悪役ですよ……」
「美月までうるさい。いつから私の娘たちはこんなに生意気になったのだ。弱点とかそういう負の面もなくては報告じゃないでしょうよ」
「ありますよー、弱点。当たり前ですよ旦那!きちんと調べてますって!」
クライアントから不興を買いそうになり、えりなも慌てて父親が喜びそうな明智秀頼の粗探しを始める。
その慌てっぷりは他人事である母親から見ても可哀想なものだった。
「明智秀頼の弱点ありますよ!虫が苦手です」
「ほぅ……。弱いなぁ。男が虫が苦手なんて弱いなぁ!」
「あなた……。自分の虫嫌いを棚に上げて……」
「集合体症候群らしく、ぶつぶつが嫌いみたいです。子供の時に岩を持ち上げたら団子虫だらけで気持ち悪くなったみたいですね」
「弱いなぁ、弱いよ男として!」
「あなたも集合体ダメでしょうに……」
「秀頼様の幼少期エピソード可愛らしいですわ!」
因みにこのエピソードは前世の豊臣光秀時代のものである。
虫も集合体もどっちもトラウマになった若き豊臣キッズの思い出である。
えりなはアイスを秀頼と食べながら、この雑談を聞かされていたのであった。
「プラス面とマイナス面。過分に評価してプラマイゼロだな」
「お父様の評価キツイですわ……」
「でも、一応プラス面も評価してくださりありがとうございます。わたくしも嬉しいです」
「強情な夫なんですけど……」
「要するに娘さんを知らない男に取られたくないんですよね。いるんですよねー、そういうクライアント」
「きっ!」
「失礼しました!」
父親に睨まれ、姿勢をピンとするえりな。
しかし父親も『女4人いてみんな好感度が高い』明智秀頼について興味を沸いたのも事実である。
若いながらも探偵として名を馳せている上松えりなの報告からもその太鼓判を押されていてウズウズした気持ちも高い。
会社の経営をしていて無能な人物は嫌いだが、有能で将来性のある人物は大変好ましいという性格もある。
そんな琴線にわずかばかり触れたのだ。
「上松君、明智秀頼君を連れて来なさい」
「はい?」
「プラマイゼロ。ここから天秤がプラスに傾くか、マイナスに傾くか実際に私が判断しようではないか」
深森家の当主は怪しくメガネを光らす。
直接会うという行動を取らせる意味を誰よりも理解している妻は緊張してゴクンと喉を鳴らす。
「美鈴、彼の連絡先は持っているな?」
「はい!登録ナンバー1に登録しています!」
「…………待て。その位置は私のはずでは?」
「秀頼様が1番にしたくてお父様は秀頼様が入るはずだった7番に移動しました」
「つくづく不愉快な男だな明智秀頼……!」
(ウチの娘の連絡先少なすぎない?)と母親が疑問に思ってしまったが、紋章で苦しんでいる間は連絡先交換をしなかった事情があるので仕方ない部分である、
「とりあえず、絶対に今日会わせろ。予定も付けられない男など論外だっ!」
「ラインしましたら、今すぐ大丈夫みたいです!」
「この暇人がっ!」
即返答を返した秀頼を非難する父親。
それからはえりなが駆り出され、彼を車で自宅から迎えに行くことになったのであった。
どうなる秀頼!?
ついにラスボス、深森父親との直接対決が幕を上げようとしていた……。